第76話 グリーンスリーブス
エドは不意に私の肩に手を回すと、そのままベッドに倒れこんだ。「い、いやっ……!」「アリシア、歌を歌って下さい」「え?!」「あなたをジョージに寝取られ、婚約の夜なのに拒絶され、その上、傷まで負わされ……」「エド……」「それでも、あなたを愛している。そんな憐れな男のせめてもの心の慰みに子守唄でも歌って下さい」エドは、仰向けになったまま行儀悪く靴をポンポンと脱ぎ捨てると、ネクタイを緩めて「疲れたぁ……。あなたも今日一日愛想笑いで疲れたでしょう」と呟き、目を瞑った。「そうだ。グリーンスリーブスがいいなぁ……」「私、音痴だから、ダメ」「だったら、尚更聞きたいですね」エドはくすっと笑った。「僕は物心ついた時から家庭が無かった。両親の仲は冷え切っててね。毎晩、両親の部屋からは言い争う声が聞こえた。そんな時、いつも耳を塞いで、この歌を口ずさんでは救われていたんだ」突然、彼の口から出る彼の小さな頃の話に驚き、胸を痛めた。「アリシア、僕をもっと知って下さい。こんな話をするのもあなただけだ。オリビアにすら言っていない」エドは私の手を掴むと、グリーンスリーブスを口ずさみ始めた。「Alas my love you do me wrong to cast me off discourteously……」「エド……ごめんなさい……」「And I have loved you so long, so long, Delighting in your company」「あなたをいっぱい傷付けた……」「Greensleeves was all my joy, Greensleeves was my delight」「エド……」「Greensleeves was my heart of gold, and who but my lady Greensleeves」歌いながらエドは私の髪をその手に巻き付け、余程疲れていたのか、そのまますぅーっと眠ってしまった。私よりもずっと大人の男性のはずなのに、その少年のような無邪気な寝顔に思わず手で彼の頬を撫で、私はひどく動揺した。私は、エドワード・マッカーシーをいつまで拒絶しきれるんだろう。知れば知るほど、この人に惹き付けられてしまいそうで怖い……。遠く窓の外に光る星々を見上げながら、私は思わず「ジョージ、お願い。帰ってきて」と呟いていた。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪