第167話 Believe me
私は大きな広告の下に平積みされた『Forbes』を手に取り、パラパラと捲った。『世界の億万長者』のランキングにエドワードの写真と記事が掲載されていた。ヘイワーズの資産を継いだ事。合併に伴い、マッカーシー財閥が抱える事業とのシナジー効果が絶大であった事。そして、何よりエドワードのカリスマ性が事業成功の牽引力となっている事……等々が4ページに亘って特集を組まれていた。私は、記事に書かれているエドワードの言葉を追った。「マッカーシー氏:確かに我が社はエクセレント・カンパニーとしてのブランド力の確立は出来ており評価は高いかもしれません。ですが、今後、10年20年と永続的に企業を継続されていくには、ビジョンを明確に打ち出し、マーケットシェアを……」見開きに載っているエドワードは、足を組み、肘掛に両手を置き、ちょっぴり微笑む顔がジョージの顔に重なり、胸が痛んだ。「記者:マッカーシー様の奥様は18歳とのことで16歳もお若いそうですが、大変仲睦まじいご夫婦だと拝聴致しました」「マッカーシー氏:そうですね。彼女は私にとって生涯掛け替えの無い女性ですから」エドの言葉にじんわりと涙が溢れた。雑誌を両手で掴み、顔を埋めると小さな声で囁いた。「ごめんなさい。エドワード……」「マッカーシーがどうしたって?」ジョージの声に顔を上げ、急いで涙を拭いた。ジョージは雑誌広告と平積みになった本の表紙になっているエドをコツンと叩くと私を睨んだ。「泣くくらいなら何で離婚届なんか出したんだよ」「……なんで離婚届って」「バトラーが破棄した。マッカーシーは見ていない。お前が屋敷から遠く離れてここにいる。これだけの条件説が与えられていて謎が解けない程、オレは鈍感じゃないつもりだけどな」「ジョージ……」「なぜ、屋敷を出た」私はお腹をそっとバッグで隠すと、俯いた。恐い……もし、このお腹にジョージとの赤ちゃんがいるなんて知ったらジョージはなんて言うかしら?困った顔して堕ろせって言うの?それとも喜んでくれるの?ううん……喜んでくれるなんて、あり得ないわ。この子は世間から祝福されない子供かもしれない……それなのに産みたいなんて間違っているのかもしれない……でも、それをジョージの口から聞かされるなんて嫌!私は血の気が引いて冷たくなった唇をきつく結んだ。「分かった。今、言いたくなければ言うな」「ジョージ……」「こうなったら、今夜は我慢比べだな」「今夜?」「朝まで時間はたっぷりあることだし」ニヒルに微笑を浮かべ、アイルランド民謡の「Believe me」の口笛を吹き歩くジョージの後を、少し警戒しながら手を引かれて本屋を後にした。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪