第4話 遠き日の密約
リンは台所のシンクに寄り掛かると、腕を組み、僕を威圧的に見つめ笑った。「君はどれだけのことを知っているのか?」「……」「まぁ、いいさ」リンはふっと笑うと、シンクの横にあった灰皿を引き寄せ、煙草に手を伸ばした。「ミセス・マッカーシーは、君達とマッカーシー、ヘイワーズ……そしてヒトラー提督との密約を知らんようだな」リンの言葉に僕は思わず息を飲んだ。どこまで知っているんだ……この男は……「人類史上最大にして、最悪の悲劇『ホロコースト』が、同時に人類史上始まって以来の壮大な茶番だったことは、聞き及んでいたかな?」僕の心音は彼に伝わってしまうのではないかと思うほどに、そのリズムが乱れ、喉の奥に突然大きな鉛を飲み込んだような錯覚を覚えた。「君達とマッカーシー家、そしてヘイワーズ家の歴史は、そう、日露戦争にまで遡る……」「アリシアが帰ったと言うのなら、僕も帰らせて頂きます!」「そう言う訳には行かないんだよ、坊や」その場を立ち去ろうドアノブに手を掛けたが、リンの鋭い眼光が僕をその場に立ち竦ませた。リンは煙草の火をつけると、ゆっくりと震える息の合間から煙草の煙を吐き出した。「我々も合衆国も、君やマッカーシーを敵に回すほど愚かではない。だが、君達が約束を守らなければ……どうなるかな?」「僕には何のことだか……あなたが何を言おうとしているのか、さっぱり分かりません」リンはもう一度、ゆっくり煙を吐くと、唇を歪ませた。「君は聞いたはずだ。合衆国に来る前に。君の家で代々伝えられるべき秘密を。行うべき行動を」「僕がここに来たのは大学で勉強するためです。家のことなんか関係ない」リンは僕の反論などお構いなしに、煙草を掌で握り潰し、話を続けた。「ミセス・マッカーシーが、君達の本性を知って正気でいられるかな?」「脅すつもりか?」「ふっ。ようやく、話し合いのテーブルに着く気になったようだな」「彼女に何かあったら……」「僕を八つ裂きにする、か?」「当たらずとも遠からずだ」「面白い。では、そのギリギリのラインでの交渉を我々は楽しむことにしよう」リンは口の端を上げると、右手を差し出してきた。僕はその手を無視すると、窓辺まで歩き、扉を開けた。アリシア、ごめん。僕は君を守りたかった。本当にただ、それだけだった。目を閉じ、息を深く吸い込むと、僕はリンの方に向き直った。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪