第66話 ガーディアン
オレは銃を構えたまま、ピタリとリンの後をマークした。「銃、しまえってば。お前1人ぐらい、僕が子守りをしてあげられるから」リンは前を歩きながら、チラリとオレの方に目をやり、肩を竦めた。メラメラと燃えさかる焔の間を、まるで泳ぐようにリンは進んでいく……逃げ惑い、パニックに陥る連中を横目に、オレの目に映る彼の行動は遥かに奇異だ。陸軍士官学校に入学したての頃、講義に入る前に「僕は中国系の2世だ」と、リンは自己紹介した。そして、チョークを手に取ると、黒板にカツカツと字を書き始めた。『リン・イーレイ 37歳 独身 恋人募集中』「但し、恋人は女性限定。……僕に惚れるなよ」大真面目に言うリンの自己紹介にオレ達生徒は爆笑した。教壇に立つリンの黒いピーナッツアイが嬉しそうに更に細くなった。そして、その細い目が今、オレンジ色の焔を反射させながら、オレに向けられていた。「その銃、大切にしろよ。それはお前が、お前だと言う事の証なんだから」オレは何を言われているのかさっぱり分からずに、銃を握る手に力を込めた。「銃の側面を良く見てみろ。何か、書いていないか?」「別に何も」「よぉぉぉっく見ろって」オレはリンから目を外し、銃をまじまじと見た。『WALTHER』のロゴの後に、『Waffenfabrik Walther, ……』とワルサーPPKについての文字が書かれ、その後に『A・H』と刻印されていた。A・H??Alicia Haywards?!この銃にはアリシアの名前が刻印されているのか?「その銃はお前がガーディアンとして選ばれた者だと言う証だ。大事に扱えよ。……しかし、まさかその銃を持つべき者がお前だったとはね。僕に見せてはくれないはずだ。アルバートも本当に人が悪いな」苦笑するリンの顔を、オレは呆気にとられながら見つめた。ガーディアン?選ばれた?リンの言う事はさっぱり的を射ない。「リン……」更に彼に尋ねようと声を掛けた時、マシンガンを打つ音と悲鳴が耳に飛び込み、息を呑んだ。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪