第51話 囁き
私は走り去るヒューバートを追って立ち上がろうとした瞬間、血を飲んでしまっていた。気持ち悪くて吐き気を催し、口元を押さえた。ジョージは慌てて私を抱き抱えると洗面所に連れて行ってくれた。「まさか……歯が折れたのか?!」真っ赤な鮮血の中からジョージは歯を見つけるとさっと水で洗い、再び私の口の中に入れた。そして、直ぐに屋敷から運転手を呼び寄せ、歯科医のもとへと連れて行ってくれたのだった。折れた歯は何とか固定され、無事治療は終った。「良くこのようなことをご存知でしたね」歯科医が感嘆しながら治療をする中、ジョージは「たまたまですよ」と淋しそうに微笑んでいた。屋敷に戻ると、私とジョージはバトラーにしっかりお説教された。誕生日を明日に控え、私の頬は赤々と腫れ上がってしまっていた。「仕方ないですわね。明日はお化粧を厚く塗ってごまかさなくては……」ノラは大きく溜息を吐くと、濡れタオルを用意してくれた。「ね。ノラ……。明日の私の誕生日、キャンセル出来ないかしら……。せめて、延期だけでも出来ない?」「まぁ!それは無理でございます。もう各界の著名な方々にご招待状をお出ししてしまいましたし……」「そう……」ジョージは私の元に歩み寄ると、ノラから濡れタオルを貰い、そっと私の頬に充て、囁いた。「アリシア。今夜、会いたい……」私は驚いて息を飲み、ノラやバトラーが聞いていないかドキドキしながら辺りを見回した。ポケットに入っているジョージから貰った指輪を握り締めながら、私はコクンと頷いた。「じゃ、12時に」それだけ言うと、ジョージは振り返りもせず、足早に部屋から出て行ってしまったのだった。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪