紋入れについて
これまでお願いしていた呉服店の方がお亡くなりになり、はじめてのお店で着物を誂えることになった。出来上がりを楽しみにしていたのだが、一番肝心の紋が刺繍紋で仕立て上がってきた。しかも、どうみてもミシン刺繍。あまりの驚きに袖を通す気力もなくなった。一つ紋といえば染め抜きにして下さると思い込んでいたので、まさか刺繍紋で出来上がるとは思っていなかった。刺繍紋の場合は、刺繍の種類や糸選注文する側で指定するのが普通なので、勝手に刺繍されるなんて事前に想定することも出来なかった。紋入れの場合は、染め抜き日向紋でときちんと伝えなければならなかったのだ。指定しなかったこちら側の不手際もあり、大目にみて刺繍紋でもかまわないのだが、ミシン刺繍だけは納得できない。着物全体が貧相に見えてしまう。どうして一言お知らせいただけなかったのだろうと悲しくなってしまう。やりなおしをお願いするにしても、ミシン刺繍をほどくとなると生地が傷むのは黙認するしかないので、もう着物をあきらめるしかない。紋なんて入っていればいいというものではない、紋には思いもあるし着物の格を決める大切な部分。おそらく、お願いした呉服店側にこういう感覚がないのだろう。今までお願いしていた方は、着物だけではなく和のお稽古すべてに精通していた方だったので、着物を誂えるにあたって、寸法のことや帯の合わせ方などいろんなアドバイスをいただけた。慣れ親しんだところなら、こんな悲しい出来事は起こらない。細かく注文をつけなくてもお任せで良いものが仕立て上がってきた。こういうことは当たり前と思っていたが、当たり前ではなかったんだと今更ながらありがたみを感じる。着物選びも大切だが、それ以前に長くお付き合いできる呉服店選びが一番大切なんだと勉強させられた出来事だった。 きものまわりの小物