心理学で国民年金の未納・未加入に切り込む(2)
第二論文は大和総研の俊野雅司「年金に関する諸問題への行動ファイナンスの応用可能性」である。まず「1.行動ファイナンスの基本概念」で行動ファイナンスを復習・概観した後で、 「2.年金関連の意思決定上の歪みと行動ファイナンス上の理解」で米国の研究を概観している。(1)名目価値指向年金制度は基本的に退職後の生活保障を目的とする者であるから、名目(金額)ベースよりもインフレ率を差し引いた実質ベースで給付額の保障を考えるべきだが、人々は金額ベースにこだわる傾向があるといわれている。例えばカーネマンたちの行った調査では, 「インフレが起こらなかった場合に年金給付額を7%削減されること」については6 2%の回答者が不満を示したが, 「12%のインフレが発生したときに年金給付額が5%増額されること」に対しては2 2%の回答者しか不満を示さなかったと報告されている。後者について5%-12%=-7%であり、前者と同じであるのに,前者への不満が多かったのである。 (2)現状維持バイアス4 0 1 (k)と呼ばれている確定拠出年金に関する経験が豊富な米国では、加入者の選択行動について実証研究が盛んである。例えば米国の大学の教職員を対象にした年金制度がありTIAA-CREFと呼ばれる年金制度では、加入者は自分の好みに応じて債券ファンドと株式ファンドへの配分比率を決定できる。一般的には若いときほどリスクの高い株式ファンドを選択し,年齢が高くなると債券ファンドを選択する傾向が高くなることが合理的と考えられている。ところが調査してみると加入者の50%以上が配分割合の変更を1回も行っていなかった。このように現状維持するというバイアスがあるといわれている。 (3) 1/nルール確定拠出年金の加入者は運用を選択する場合に,年金加入者は提示された運用商品への等配分投資を基準に考えるというルールである。提供されたメニューが3つなら1/3ずつそれぞれのファンドに投資することになる。カリフォルニア大学の職員を対象に実施したアンケート調査の中で4種類の債券ファンドと1種類の株式ファンドが提示された場合の株式投資比率は43%だったが, 4種類の株式ファンドと1種類の債券ファンドが提示された場合の株式投資比率は68 %であった。(4)選択肢の数と意思決定の回避24種類のジャムと6種類のジャムを販売している店舗を実験的に設定して、歩行者の購入状況を調べたところ、店に立ち寄った歩行者の数は前者が多かったが、実際に購入した人の数は後者のほうが多かった。選択肢が多すぎると迷って意思決定を断念するからであろう。(5)極端な選択肢の回避人間は選択肢の中から中庸を選ぶ可能性が高いということである。3.確定拠出年金に対する行動ファイナンスの応用例アメリカでは,確定拠出年金制度における意思決定上の歪みを検出するだけではなく、一歩進んで、意思決定プロセスの改善に結びつけようとする試みがある。アメリカの確定拠出年金における個人拠出の拠出率改善の試み(SMarTプラン)が説明されている。これは昇給のときに拠出率を上昇させることで名目手取り賃金の減少を避けるように配慮した拠出プランである。 TahlerとBenartziの2 0 0 4年の原論分では3つの実施例が照会されているが、ここでは第3のフイリップス社の事例以外が説明されている。4.国民年金保険料の未納問題に対する応用可能性、5.まとめ行動ファイナンスの応用として、国民年金に関する通知の充実があげられている。