心理学で国民年金の未納・未加入に切り込む(3)
第3章は中嶋・臼杵・北村「国民年金1号被保険者の加入・納付行動と効果的な情報提供のあり方」であるo未納・未加入の要因の仮説を立てた後に、国民年金の第1号被保険者219名(第4章の研究で実験をしてもらう)を対象とするアンケートで分析を行っている。この国民年金の第1号被保険者をどうして集めたのかと思ったが、学生さんはともかく、専門業者がこういう特定のカテゴリーの人間を集めることができるのだ。仮説は、先行研究をサーペイした後に次のものを立てた:1.手元の流動性の不足2.老後の保障以外の準備の必要性3.逆選択 余命が短いと考える被保険者ほど加入・納付に消極的であり,余命が長いと考えている被保険者は加入・納付に積極的である。第4章(「保険料と受給額を知らせる通知のタイプ別の効果一実験による検証」臼杵・中嶋・北村論文)では, 6つの通知のプロトタイプをつくり、どのような内容と文言の通知であれば,国民年金制度への加入・納付の意思が高まるかを、実験によって検証した。第1号被保険者を6グループに分け,通知を提示する前後に,任意加入での加入・納付の意思を尋ねて、有意な変化があったかどうかを検証した。 第5章(「政府と加入者のコミュニケーションのあり方一老後設計に向けた個人情報の提供」中嶋論文)では、通知を含めた,政府と公的年金加入者との情報提供・コミュニケーションのあり方全体への考察を試みている。 これまでの内閣府や社会保険庁による調査をサーペイしてみると,公的年金の被保険者は、 年金受給額、財政の現状や将来見通し、の情報を求めているが,一方で国庫負担の存在、 実質価値維持、保険料免除制度、といったメリットが周知されていないことがわかった。第6章(「海外における被保険者への情報提供の状況」臼杵論文)では、加入者向けの通知をすでに実施している、ドイツ・スウェーデン・アメリカに現地調査して、それぞれの国の情報提供を研究した。第7章(「公的年金の通知に関するファイナンス基礎実験」北村・中嶋・臼杵論文)では、実験ファイナンスの手法を利用して、実験室内に年金制度等を抽象化した市場環境を構築し、 加入者が投資判断を行う際,リスクのある金融商品の価格を適切に判断できるか、年金及び他の金融商品間の資産配分を適切に行えるか、に着目して、基礎的な実験を行った。