川島裕「岐路に立つ日本外交」ブルッキングス研究所
川島 裕 (カワシマ ユタカ)氏は元外務事務次官だが、退職した後で米国のハーバード大学で外交の講義をしていた。本書はその講義をベースにまとめたものであり、大変興味深かった。タイトルはJapanese Foreign Policy at the Crossroads: Challenges and Options for the Twenty-First Centuryである。残念ながら日本語訳はまだない。本書は8章からなる:1.日本の外交政策の歴史的パラメータ2.日本と米国の安全保障上のつながり3.日本と米国の経済的つながり4.朝鮮半島情勢の終盤5.日本と中国の関係6.日本の東南アジア外交7.日本のヨーロッパとの関係8.平和実現と破綻国家救済のための方策特に興味深かったのは第1章と第8章だ。第1章は、Walter Russell Mead"Special Provindence:American Foreign Policy and How It Changed the World"が、米国の外国政策をHamiltonian,Wilsonian,Jeffersonian,Jacksonianという軸により分析しているのに習って、日本外交をいくつかの軸により分析している:・西欧へのキャッチアップか、アジア人としてのアイデンティティーを守るか・安全保障問題に対する平和主義か現実主義か・人権か国益か・謝罪をするかしないか・ナショナリズムか国際主義か等である。第8章は、雑誌「選択」でも紹介されたが、最悪の事態を想定して、その事態の発生回避について論じられているところが大変面白い。朝鮮半島20XX年夏、北朝鮮体制が崩壊して大量の中国への難民流入が発生しまたクーデターが発生した。北朝鮮首脳はその背後に韓国と米国の策謀があると見て、韓国に対してこの策謀をやめない限り24時間以内にソウルを攻撃すると脅迫してきた。韓国と米国はそのような主張は根拠のないものであると宣言した。北朝鮮はその主張をしりぞけ、韓国への攻撃準備にかかった。米国も韓国防衛のための準備を始めた。北朝鮮は米国が攻撃すれば日本を核攻撃すると言明した。米国は、北朝鮮が日本を核攻撃すれば、米国は北朝鮮を核攻撃すると言明した。北朝鮮はそのような警告は気にしないようである。北朝鮮自身がどうなろうと、韓国を罰しなければならないと考えている。川島裕は、このような危機が発生するのを防止するためには北朝鮮の核開発阻止のための努力が必要であるとしている。(つづく)