小説ID 4 携帯電話
「これだよ。」ついさっき、みたばかりのメールを健次に見せた。「だって、このメールをみていたら、これまで来たことのないおまえが、突然、俺の部屋に来たんだから。それに、おまえはハッカー健次といえば泣く子もだまる。どうだ。図星だろう。」「偶然にきまってるだろ。ほら、これ。」 健次は片手に、さっき雄一の立ち寄ったコンビニの袋を持っていて、その中に缶ビールが3、4本はいっている。そして、もう一つ、無地の茶色の袋には、どこで買ったのか、たこやきがおさまっている。「でも、これってなんだと思う?」「うーん、わかんないな。でも、この乱数表さえ解読できればわかるんだけどね。」「それと、メールだよ。だれがこれをとりにくるっていうんだ。いったい何がはいってるんだろう。」ほどよく電気ストーブがあたたまって、ふたりは、6畳のたたみに腰をおろした。窓のそとは木枯らしが、びゅーと音をたてている。テーブルの上には、たこやきと、雄一がストックしていた、さきいか、ポテトチップス、そしてビールを3缶置いた。「あつかんのほうがよかったか?」「真冬のビールも、いいもんさ。」そういいながら、雄一は袋を全開にしてポテトチップスを2、3枚つかむと、口にほおりこんで、350ミリリットルのビールをひとくち飲んだ。「でも、あんまり首つっこまないほうがいいかもしれないぞ。」「なんだよ。いきなり。」「けっきょくさ、このデータをもってるやつは、いま、これをなんとか取り戻そうと必死なわけだろう?」「そうだな。いまからとりにいくなんて、よっぽどだ。」「そして、」「そして?」「雄一の住所を知っている。」「俺が狙われてるとでもいうのか?スパイ小説じゃあるまいし。」「でも、そうだと考えると、つじつまが合う。」 そのとき、健次の携帯が鳴った。それがメールの着信なのか、電話の着信なのかはわからない。じっと携帯の画面をみる健次。「雄一、おれ、かえるわ。」 突然,買ってきたビールに一度も口をつけることなく、健次は部屋をでていった。