スパゲッティ屋の方々と私
お正月休みの最終日だったので、ふらふらと出かけた。まず、行きつけのスパゲッティ屋に行き、腹ごしらえ(カレーかスパゲッティなんだよな、私って……)。 と言っても、一番気に入っているスパゲッティ屋は、のんびりとまだお休みだったので、この日出かけたのは、味的にはそれほどではないが、値段と店の雰囲気が良い、私の中ではランキング第3位の店だ。 私が注文したお野菜系スパゲッティが届いて、さて、とフォークを握りしめると、斜め向かいに大勢座っていたおばさまたちが、ちょうど帰ろうと立ち上がったところだった。しかーし、よく見ると、その方たちのスパゲッティは、すべて大量に食べ残されていた。 コーヒーやジュースなどは、皆さん、カラにしているようだが、メインのスパゲッティが、本当にひと箸(ひとフォーク?)もつけていないんじゃないか、というくらい、山盛りに残っているのだった。それも5人全員。 値段の割に味の良い店だし、そんなに残すっていったい???? 何か変なモノでも入っていたのだろうか??? 気になって、急に自分のスパゲッティまでもが、怪しいものに見え始めてしまった。 なんだかなぁ、と思いつつ、おばさまたちを見送っていると、私のテーブルの脇を通り過ぎたサラリーマンが、私の粉チーズを無言で、むんずとつかんで立ち去った。うわっ そこは、どのテーブルにも、粉チーズが常備されている店だ。振り返って彼の行方を見守ると、年配のサラリーマンの集団がいて、そのテーブルにも確かに粉チーズがある。しかも、一人がそれを使っている。 じっと見守っていると、粉チーズ泥棒は、私のチーズを使うでもなく、自分たちのテーブルの真ん中に、ぽんと放りだした。そして、自分のスパゲッティを食べ始める。私の(じゃないけど)粉チーズには、誰も手を出さない…… 何が起こったのか分からず、呆然としていると、注意力が手薄だった左の方角から、「ほらほら、おとなしくして。だめでちゅよ~」とかいう声が聞こえた。はっとして振り返ると、隣に座っていた30代くらいとおぼしき男性が、膝の上に抱えた黒い小型の旅行鞄のようなものの中に話しかけていた。 こいつーーーーーーっ、猫だか犬だか知らないけど、ペット不可の飲食店に動物を持ち込むな!!!!! おばさんたちの大量の食べ残し、粉チーズ窃盗団、そして動物愛護団体(一人だけど)のトリプルパンチを食らって、私は本気で食欲がなくなった。40度の熱を出しても、食欲が落ちたことは2度しかない私にしては、正月から画期的な出来事である。 スパゲッティを放り出して、コーヒーを飲んでいると、左どなりの男性が、ペットに餌付け(?)を始めた。ミートソース系スパゲッティを大きく巻き巻きっとして、黒いバッグの中に突っ込んでいる。「おいちいでちゅか~。サキちゃんは良い子だね~」サキちゃんという名前の犬だの猫だのって、珍しいかもと、何気なく横目で眺めていると、「もっと欲しいの? そんなに食べると、おでぶさんになっちゃうよー。ん? うーん、サキちゃんはしょうのない子だなぁ」とか言いつつ、その人が引っ張り出したフォークには、突っ込んだときと同様の、大量のスパゲッティが…… 彼はバッグから抜き出したスパゲッティを、自分の口に入れてもぐもぐ食べると、新たに巻き巻きしたスパゲッティを、サキちゃんに向かって差し出す。そして戻ってきたスパゲッティを自分が食べ、またまた、新たなスパゲッティをサキちゃんに、ということを繰り返していた。 バッグ内が見えたわけではないが、どうやらサキちゃんは存在しないようだった。少なくとも、生き物ではないようだった。ぬいぐるみ? それとも、バッグの中身は、ご本人の汚れた下着の山かなんかだったりして…… 新年早々、スパゲッティ屋で遭遇した変な人三連発。この日記的には、「こいつぁー春から縁起が良い」ってなことになるのだろうか。ねぇ、サキちゃん……