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カテゴリ:経営コンサルタント
結論を先に。「資本の論理」という表現は過激だと思う(そのほうが「売れる記事」であることは否定しないが)。私はむしろ、「引き際」の難しさを感じる。 12日の臨時株主総会で創業者の横川氏が「解任」となり、内部昇格で谷氏が社長となる見通しが強くなった。 敵対的な騒動ではおそらくはじめてだろうが、労働組合がファンドを支持するという異例の展開となった。これがポイントかな? 残業時間月200時間超え すかいらーく契約店長 6月に過労死認定 (契約社員ですよ。どう考えても彼一人というのは考えにくく、月100時間以上クラスの残業者はゴロゴロいるんだろうなあ。しかも店長では同社で2人目とのこと) 8月9日付日経新聞ではファンド側に「社内情報が全く伝わってこない」というコメントがあったが本当かなあ?もっとも彼らもこの1月まで取締役数で過半数を派遣していなかったというのだから、経営陣をかなり信用していたことになる。結構異例な処置だと思う。
実は私はかつて、既に投資ファンドが投資済みの企業(上場維持している)にファンド側から企業実態の調査を依頼されて、該当企業の課長職以上の方数十名とわずか10日程度で面談し、企業の課題を洗い出すというプロジェクトに従事したことがある。 結果は同じようなことになっている(最も我々のレポートが引き金になったというより、はじめからそのような仮説があって、それを我々が検証したような作業でしたが)。 現場も創業者のよい面、悪い面を熟知しており、企業の経営局面が変わったときにふさわしい人物か否かという点も、インタビューした人の「行間」ににじみ出ていた。 ファンドが株主となっても、「一般投資家」が株主となっても、その創業社長は自分が絶体君主だと思い込んでいた。意思決定が独善的というか目暗で、環境変化に対応できていなかった(進言するものを遠ざけるなど末期症状だった)。
すかいらーくに戻る MBOの仕組みをいまさら説明しないが、通常は経営陣側の計画があって、その計画にファンドが出資するといったほうが妥当ではないだろうか。「こうしたい」といっている経営者に対して、その指に止まれるか否かである。 出資前に十分な協議が出来ていたとしても計画の主導はむしろ経営陣側にあるはずだ。なぜならファンドは実業については経営者以下の知見しかなく、その戦略なり施策がどう考えてもおかしくなければそれを否定しないし、仮に実現性がなければ、そもそも出資しない。 MBI(マネジメント・バイ・イン;買収後経営者を送り込む)と違って、ファンドと既存経営者が二人三脚でなければ成功しない。
しかたがって、当初の計画とその進捗がどうなのかといった点が気になった。 MBO当時は、大企業化して、従業員の意識の統一の希薄化や、顧客ニーズの多様化に対応できなくなり、MEBOによって、こういった意識を労使一丸となって立ち向かっていく、というのがざっくりとした背景のようだ。(2006年6月6日の「すかいらーく 新たなる挑戦」) したがって、普通は経営権と関係のない労組にも「物言う」 資格がありそうだ(従業員も一部出資している)。 計画では、4~5年後に営業利益400億円と上場廃止前の187億円から倍増する計画だったという。主として、ガスト・バーミヤン等の不採算店舗の閉鎖や他業態にM&Aを含めた多角化が主要戦略だった。 ただし、日経金融新聞2006/7/12「すかいらくのMBO成立、収益計画に疑問の声」と言うタイトルのとおり、計画はかなりストレッチしていた模様だ。 非公開化してしまったので、足元の業績がわからず(既存店の月次売上高推移など)、誰の言い分が本当かわからない。 したがって、外食産業の他企業を見てその業界環境を見てみる。(単位は百万円、数値は連結ベース)。抽出基準は思いつきです。 「ファミレス2強」といわれたロイヤルホールディングスの傘下企業であるロイヤルホストも業績改善には苦心している。経営課題にロイホ事業の収益改善策が掲げられている。 もっとも同社は持ち株会社化してロイホだけの業績がわかりにくい構図となっているが、IR資料を読む限りロイホはこの2期は黒字のようだ。 この企業は創業者江頭氏からうまくバトンタッチが行われているようだ。
マクドナルドも再建に苦心した企業だ。かつて名経営者といわれた藤田氏が残念な形で退任してしまい、全く畑違いのアップルコンピュータ出身の原田氏を抜擢し、その後の業績は改善傾向にある。 値上げをする一方、商品・価格を細分化するなど「顧客ニーズの多様化」を汲み取った感じだ。同社も一時期、店舗のスクラップアンドビルドに苦心していた。ただし、02年に72億円の大赤字を計上した後は黒字転換し、赤字は1期だけにとどまっている(グラフに書けずすんません)。 社長就任直後の原田氏が「研修生」 として新宿の店舗でフライドポテトを実際に揚げていたTVを見たが、経営手腕もたいしたものだ。こっちは、経営陣を一層することで改善に成功。
苦心といえば吉野家もそうだ。個人的には吉野家に同情的な米国産牛肉の輸入制限という外部環境の悪化をメニューの多角化やM&A(はなまるうどん、は失敗かな。減損が響く)で乗り切っている。表には掲載できなかったが05年度以外は黒字が続いている。これは経営体制が同一でも危機を乗り切った例。
こういった企業がすかいらーくほど「抜本的」な改革だった比較が難しいが、MBOしなくても出来てますね。
ただし、すかいらーくの場合、07年からは、のれんの償却がSGAに100億円あるらしいので、仮にのれんを償却する前であれば、営業利益はそこまで騒ぐほどでもないかもしれない。純利益も特別損失にSPCと合併したときの株式の償却損が大半となっている。 だからすぐクビというのは話は唐突だ。そのいきさつや08年1月以降の足元業績がわからないのでなんともいえないが、当初に掲げた営業利益400億円にかなり遠くなったのは確かだ。 ファンド側も08年に入ってやっと「やり取りは20数回に及んだ」のでは、経営者から見たら、「いまさら何を言う」と聞こえたかもしれないし、その中で色々投資前にはわからなかった、事実が浮かび上がってきたのだろう。何か徹底的な調査をした結果だと思う。でないと、一番安全パイな現経営者を解任するなんて、かなりリスクの高い選択はしないだろう。 「資本の論理」 で首だ、といっても、経営体制を変える、しかも途中から、は実はリスクが高いのだ。変更後の1期はまた、ごちゃごちゃするので見守るしかなく、実質1年程度を棒に振る可能性がある。したがって、それ以上になにか更迭しなければならない理由があったのだろう。 注;本来ならMBOは、キャッシュフローが安定する企業に負債をつけてレバレッジを利かせて、資本構成を抜本的に変えることで、投下資本のリターンを上げる効果が大きい手法だ。CFが安定する前提は経営者が同じであるというのがポイントになるはずだ。 ローンで買った不動産が値上がりすれば、頭金部分は利益になる。頭金が少ないほど利回りが大きくなる。
「カーライル」(ダイヤモンド社、鈴木貴博著)とは大きく違うように見える。彼らは投資後の企業の状況を徹底的に把握しているのでこんなことにはならないだろう。
創業経営者の方には、もちろん一代で企業を大きくしたことに敬意を払わねばならないが、だからといって万能であることもなく、得手不得手があるのも事実だろう。企業にも商品にも「ライフサイクル」があって当然で、創生期、成長期、成熟期、衰退期がある。 一般的に豊臣秀吉のように攻めるのが得意な人が徳川吉宗のように改革もうまく出来るとは限らないのではないだろうか?特に攻めの時期が黄金時代だった経営者には昨今の「押したり引いたり」変化の早く、労務管理も難しい時期はなおさら難しい。 IBMで「巨像も踊る」という明言を残したルイス・ガースナー氏はIBMのターンアラウンドをやり遂げたあと、CEOを後任に譲った(したがってカルロス・ゴーン氏があとどれだけ日産にいるか注目している)。 ビルゲイツ氏は完全にマイクロソフトの経営から退いた。これはすごいことだ。Yahoo!のヤン氏はそれが出来なかった(業績不振で復帰したが、復帰後もうまくいっていないのはご存知)。 創業者が復帰してうまくいっているのは、アップルぐらいかな? 日本でもダイエー、長銀、そごう、NECなど実権者が長期的に経営に影響を及ぼすと、成熟期から一気に衰退期へ突入しかねない(なぜかコンプライアンスも悪化する傾向にある)。
8月中旬で「引き際」といえば、日本それ自体もうまく出来なかった。太平洋戦争だ。戦争全般もそうだが、ガダルカナル島攻防戦、沖縄戦、フィピンをはじめとした玉砕戦法など、勝負があった後も負けを認めず、たくさんの方がひょっとして失わずともよかった命を失った。カミカゼ特攻や原爆がその最たる例。
権力者が引き際を誤ると、その周りのものはもっと損害が大きくなるし、権力をつかむまでの栄光も一気に失せてしまう。 上場しても持合株主や情報量の少ない一般株主に守られた経営者がその企業の衰退時期に、誰も「猫の首に鈴をつけ」てはくれない。猫の首に鈴をつけてくれる人がいたほうが全体の利益にはよいこともある。 ただし、鈴を鳴らすタイミングは難しい(その方法もしかり)。このタイミングがよかったのかも含め。
もちろん、横川家が日本の外食産業に多大なる貢献を残したことは疑いようがない。生涯現役という気持ちは私にはまだわからないが、「名誉ある撤退」という形にしてあげるべく、自主的な退任を迫ったのだろうが、解任という形式は傍目にはちょっと残念だ。ただし、生え抜きを新社長にするといっているあたり、創業精神は残して、改めるところを改める、ということなのだろう。
すかいらーくは郊外型店舗が主体だ。ショッピングセンターに出店する外食が多く、現時点ではお客さんは、SCのフードコートで皆それぞれ好きなメニューを買っている。人が郊外から都会にシフトし、自動車販売が減少し、好みが多様化し、逆に広い駐車場というコストが重荷になっているかもしれない。かつての強みが弱みに転落してしまったのだろう。 また、ファミレスのような総合メニュー型よりも、牛丼、ラーメン、うどん・そば、などメニューを特化した軽量級の外食などが受けている(また、出退店も早い)。
外食産業それ自体は成熟化しているし、今後も競争が激化するだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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