「幸福な死は時折訪れる」執筆九日目
これで四度目である。さすがに同じ文章を書く気もしないが、いろいろなトラブルで書いた文章が次々と消えている。これも蛇姫の祟りか。さて。「幸福な死は時折訪れる」執筆八日目にして、脱稿。大した分量でもない割りに時間がかかってしまったのは、撮影旅行に出たり、雷に打たれたりしていたからだ。昨夜、黒川には別れの電子郵便を送った。理由は「醒めた」というより、ほのかに追い出されたという事実は否めない。ちなみにもう十九時間ほど経過したが返事はまだない。それでも愚かな男爵は、ほのかに救いを求める。すると彼女は「言っておくけど、あたしは別にあなたのことなんて好きじゃあないわ。少しは恋愛から離れて自分を磨きなさい。いい加減に大人になりなさい」大人になれない犬。尻尾はいつも下がっている。僕は返事もかけずに、現在に到る。えみりから久しぶりに電子郵便が来る。十一日に会って以来。この娘は十六の時から知っているが、実に綺麗になった。同じ頃から知っている友人が「こうして世の男たちは取り残されていくんだなぁ」とつぶやいたのを思い出す。「でもあたしたち、何度もその機会があったのに、交わらなかったね。」明るく言うには訳がある。えみりと僕は、あまりにも長く一緒にいすぎた。ただそれだけのことだが、それだけで充分だということもある。「いい加減に大人になりなさい」時間に取り残された僕にとって、しかしそれは酷な台詞なんだがなぁ。やはりまだ返事は書けない。