読書日和　～Topo di biblioteca～

[とにかく印象が鮮烈☆] カテゴリの記事

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  「メイキング・オブ・ドッグ・ヴィル」を観て

  昨年、映画館で観た映画の中で最も強烈な印象を残したのが「ドッグ・ヴィル」でした。　ドッグ・ヴィルと呼ばれる閉鎖的な村に、グレースという女性が　何者かに追われて逃げ込んでくる。　2週間で村人全員に気に入られること（＝無償で要求される肉体労働をこなすこと）を　条件に村での滞在を許されるグレースだったが、やがて警察に手配されていることが　発覚し、事態は急転する…。　　　演じるために用意された場所が特異。広い倉庫の床に書かれた白線。それは村の家々の配置を示す地図。そこにわずかな家具と小道具があるだけの場所で全てが演じられるという試み。場所も特異だけどそれ以上に後味の苦い内容でもあります。グレースには重い枷の付いた首輪がつけられ、徹底して村人たちから虐げられる。閉鎖的な空間で、一人の人間に向けられる悪意と歪んだ欲求にぞっとしない人間はいないはず。けれどそんな感情が「自分の中に存在していない」とは決して言えない所がこの映画の一番怖ろしいところなのです。正視するに耐えないシーンが続き、途中で席を立とうと何度も思いました。だけど結末を見ないことにはもっともっとこの不気味さに取り付かれたままになりそうで、とにかく耐えに耐えたた記憶が…。そして驚愕のラスト。観た人の感想を読むと、このラストについて賛否や是非が問われたりしているけど柊の中では未だに答えは出せません。容赦なくこういう命題を突きつけてくるところ、この監督の一番の個性かもしれない。ラース・フォン・トリアー監督作品。とにかく徹底して役者を精神的に追い込むやり方で、自分の望む演技を引き出す人だと思ってました。代表作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の物語の転換となるシーンでは、主演のビョークと言い争ったという逸話や、この「ドッグ・ヴィル」の試写会でも主演のニコール・キッドマンが、自身が虐げられるシーンを観ることが出来ずに途中退席したなんて話が伝わってくる程だから、相当厳しい要求をする人なんだろうな、と。だからこの映画のメイキングは是非、観たいと思っていたんです。“役者というのは自分の経験や感情を切り売りする汚い、つらい仕事”演劇をテーマにしたある作品にこんな台詞があって、以来その言葉が忘れられずにいます。この「ドッグ・ヴィル」を観ているとホントにそう思う。役の上とはいえ、虐げられる側を演じるニコール・キッドマンがじっと自身に掛かってくるストレスに耐えてる様子が目に焼きついてます。悲惨としかいいようのないシーンを撮り終えた後、じっと監督の肩に寄りかかって耐えていた姿…。メイキングを撮ってるカメラに「助けて」と何度もおどけて見せていたけれどそれが彼女の本心にも思えて哀しくなったほどです。演じるって楽しいばかりじゃないんだな、なんて当たり前のことを思う。彼女を虐げる村人たちを演じる役者さんたちは更にきついかもしれない。自分の中の負の感情をカメラの前で曝さなくてはならないのだから。日の差さない倉庫の中での何週間にも及ぶ撮影。「ずっと青空を見ていない」といった役者さんのコメントにぞわっと鳥肌が立ちました。閉鎖的な村を演じているけど、実際に役者たちは閉鎖的な空間に身を置いてグレース同様に追い詰められていたんだなあ…。でもこのメイキングを最後まで観ていくと、一番追い詰められているのは監督自身だったんだって気づきます。一つの作品を総括するって並大抵の才能では出来ないことですね。監督自身が抱えている不安。それを昇華するには納得のいく作品を作り上げる以外に方法はないんだなあ、と。撮り終えた瞬間、素の自分に戻るようなのめり込み方じゃない。役者たちのあの集中力。「役者」という人種を心からすごい！と思いました。「ドッグ・ヴィル」本編をもう一度観る勇気は今のところ柊にはありません。でも、これは一見の価値ありの映画だと思ってます。「面白いか、面白くないか」という基準で映画を観るのではなく、後味が悪かろうと、不快だろうと、自分がどう感じるのか、観たあとに何を考えるのか…試してみる観方もあるんじゃないかと思います。どーですか？？

  2005.10.13

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  『甲賀忍法帖』山田風太郎著　読みました。

  原作を読んだ後に、映画「忍-SHINOBI」を観に行っていたなら、「なんだこれはーっ！！原作と全然違う結末じゃないかっ！！」と激怒していたかもしれない（笑）けれど、「映画は映画」として楽しんだ後に読んだので、まったく別物として映画とは異なる先の見えない展開と結末を思う存分楽しむことが出来ました。山田風太郎さんの小説を読むのは初めてでしたが、こーんなに面白いなんて知らなかったっ！　　　＊ちなみに映画を観たときの感想は→こちら映画を観たとき、「とても人間業とは思えん…」と思った忍術の数々。原作の方はもっと無茶苦茶すごいです。映画では恐らく上映時間の関係上で伊賀対甲賀、精鋭五人対五人に絞られてたけど原作では１０人対１０人。（名前を覚えるだけ大変な柊）割愛されてしまった忍者たちの技がまた「ひええええ！」というような驚くべき技ばかりで、こうなると削られてしまったのが俄然惜しくなる…☆映画と最も異なるのは「徳川の治世が始まり、もはや忍者など世にいらぬ存在」といった悲哀感が原作にはまったくなかったところかな。（映画を観たときはこのあたりの描写に最も心惹かれたのですが）三代目将軍を誰が継ぐのか…を決定するための争いだなんて名目はまったく関係なく。“伊賀対甲賀で争ってはならない”という禁を解かれたゆえに使命に従い、忍術の限りを尽くして殺しあっていく描写にもっと徹底しているのです。言われてみればそうかも。こののち、３００年近く徳川の治世が続くと知っている人間が過去を見るから「無用の長物」と見てしまうけど、時代はまだ豊臣方との戦を控えているとき。長い戦国時代を生き抜いてきた人々からすればまたいつ時代が転覆するか不安でとても信用ならなかったはず。そんな悲哀を感じている場合ではなかったのでは…。（あれだけの術を見せられると治世者には脅威だけど…！）この辺りからちょっと映画と比較して感想を書いてしまってるので原作を未読・映画を未見の方はどうぞご注意を！！物語の解釈が異なるのに従い、登場人物たちの性格にも微妙な変化がありましたね。忍者版「ロミオとジュリエット」を貫くなら映画の結末も原作どおりであって欲しかったなあ…なんて思ってしまいます。（今にして思えば）朧…小説ではシェイクスピアの描いたジュリエット同様にとにかく幼く、恋に盲目な性格付けだったのが印象的です。（映画では次第に運命を受け入れ、凛々しく向き合おうとする姿にじーんときたのだけれど。それはまたそれで良かったですが。うーん、難しい）そして薬師寺天膳。映画では一番お気に入りのキャラクターでしたが（いや、原作読んでても一番不気味で好きだけど）性格悪っ！！…ああでもそこが良い（笑）だから彼だけでも原作どおりの最期を迎えて欲しかったなあ～なんて思います。うーん、さぞや凄惨な場面になったに違いない…　　柊の知人の中には「年をとってきたらフィクションを楽しめなくなった」という人がいて、それを聞くとちょっと寂しくなります。それが良い、悪い、というのではなく。ただ、柊がフィクションを楽しめなくなったらそれは本を読まなくなるときだと思うから…その気持ちはまだ知りたくないです。こういう荒唐無稽な、何でもありー♪の物語世界を夢中になって読むことが出来たとき、柊は「まだまだいけるっ！」と安心するんです。

  2005.09.24

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  『春の雪（豊饒の海　一）』三島由紀夫著　読みました。

  最後の数行を読んだ後、胸の内に落ちてくる長い沈黙とため息。今このときに長い物語がはじまったばかりなのだ、と思うと不思議な感慨が湧いてきます。次へ…次へと誘う手が、否応なく自分をを引いていく心地。初めて、三島由紀夫の本を読みました。とてもショックでした。いきなり目の前で手を打ち鳴らされたような驚きがあって…。訳もわからず頬をはられて、呆然となってしまうような気持ちがそこにあって…。自分にとって読みやすい本ばかり選んできたつけを一度に払わされるような気がしました。恐ろしくなるくらい、その表現に、言葉の選び方に惹かれます。ずっと敬遠してきたのは三島由紀夫の死の選び方があまりに強烈で、恐ろしい印象を持ってしまっていたから、だと思います。書かれたものからの影響を受けやすい体質だという自覚があったから、そういう思想や考え方を自分のうちに容れたくない、と無意識にも拒んできました。今回映画化をきっかけに読んでみる気持ちになったのですが、それは宣伝文句にあった「三島由紀夫の遺作」という文字に惹かれたのが大きいです。柊にとっては三島由紀夫が「何を書き遺したのち、死に挑んでいったのか」が（言葉は悪いけど）一番の興味でした。それが“転生”を描いたものときいたら、尚更。第一部「春の雪」は侯爵家の嫡子松枝清顕と、伯爵家の令嬢綾倉聡子との禁じられた恋が描かれます。読み始める前に思い描いていた想像と一番異なっていたのが清顕という人物でその性格づけ、考え方、行動の複雑さに最も興味を惹かれました。（複雑…と書いたけれども、別の見方をすれば「愚かさ」とも言い換えらえそうな。）初めは、年上の聡子から寄せられる好意を疎ましいものと感じていた筈なのに聡子に宮家との縁談が進み、彼女が「禁忌」という存在になるにつれて彼の心の内側で起こる変化、考え方（その表現のされ方）が面白くて面白くて。彼は最期の瞬間まで、「聡子」を求めていたのか、それともそれに象徴される別の何かを求めていたのか…。それが何処かに書かれている筈だ！と思いながら柊は読んだのですが、そういうところ、他の方はどんな風に読まれているのか興味があります。（映画ではこのあたり、どんな風に描かれるんだろう。優雅、冷酷、欺瞞、欲、唯美、繊細、若さ、愚鈍、エゴ…複雑に絡み合うそれらを一本気に演じられてしまったら、清顕という人物に面白みがなくなってしまう…こんな難役、演じられる役者がいるんだろうか。）「転生」を描いた物語の第一部、ということで以後に続く物語への布石となる部分があちこちに散りばめられてます。その箇所は柊が最も面白いと感じた部分でもあります。特に１３章目で清顕と友人の本多が交わす「歴史」についての語りは興味深く何度も読み返してしまいます。三島由紀夫自身は、心のどこかで「転生」を信じていたのだろうか。だとすれば、何処かにその「意志」が隠されてはいないだろうか…。物語の行く末を辿りながら、三島由紀夫の遺志も捜してしまう、そういう読み方が正しいのかどうかはわからないけれど、柊はそれをなぞりたい気持ちでこれを読みました。　　　このまま怒涛の勢いで第二部「奔馬」に入っていきたかったけれど、「春の雪」を読み終えた人は皆そう思っているのか、近場の書店では「奔馬」を見つけることが出来ません。悔しい～！！図書館からもどーんとリクエストが届いているので先ずはそちらから取り掛かかりなさい…ということかな～と思うことにします。ちぇ。

  2005.09.11

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  再読、『姑獲鳥の夏』京極夏彦著

  ねっとりとまとわりつく暑気、夕立前の不穏な空気…再読するにはぴったりのシチュエーションだなあ…と思いつつ。再読する際にはトリックや犯人をすっかり忘れ（汗）新たな気持ちで取り組める場合が多い柊ですが、この『姑獲鳥の夏』は例外。インパクトありすぎの結末はどうしたって忘れられません。今ではすっかり御馴染みになった京極堂の長ーい薀蓄。初読の時は「これは伏線なのか、本筋と関係あるのか…」とじりじりしながら読んだ記憶があるのですが、今では終盤、憑き物落としの為の「ため」の部分だと知ってます。これがなければ後半の疾走感も味わえないんだよね、なんて余裕を持って読めます（笑）結末を覚えていた分、今回は京極堂の語る薀蓄部分にじっくり取り組めました。（初読のときは結末が知りたくて斜め読みしていたようです…）良かった。ちゃんと伏線だった（笑）怪奇じみた事件等など、おどろおどろしいイメージを持ってしまう京極さんだけど、こうして京極堂の語りを読んでいるとまったく正反対の、理路整然というか、とにかくすっきりした印象が強くて不思議です。これが江戸川乱歩だったりすると最後の最後まで生々しかったりする…。今回再読したのは映画公開に伴い、ちゃんと復習して置きたかったから。映画を観て来られた方の感想を読むと、内容が内容だけに原作を知らない人はついていくのに必死（もしくはちんぷんかんぷん）らしい、とあったので。再読してみて、これを脚本に起すのは難儀だろうなあ…と思いました。言葉というのは不思議なもので、目で追う活字と、耳で聞く台詞とはまったく違ったイメージを持ってしまう気がするのです。旧漢字、古い送り仮名、そして微妙に設けられた行間ー。そういったものは音になると区別がなくなってしまう。そしてそういった音にしにくい、言葉の間合いといったものがどう表現されるのかが映画を観る際、一番興味を惹かれるかもしれないです。（原作を抜書きしたような、切って貼り合せたような脚本になっていたら嫌だなあ…）『姑獲鳥の夏』とあわせて、『百鬼夜行　陰』に収録されている「文車妖妃」、「川赤子」も合わせて再読。（二つの短編は『姑獲鳥の夏』に関連を持っているので）役者さんたちが、どんだけこの印象強いキャラクターたちに切迫出来るのか、も楽しみの一つ。行きたい、行きたい、行きたい…でももう子供達が夏休みになっちゃう。観に行くのは八月中旬か。 　　　新たに分冊されて文庫が出てますが、この分厚さも京極さんらしさだと思ってます

  2005.07.19

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  『カラフル』森絵都著　読みました。

  横になって、枕に耳を押し付けると自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。「この音が聞こえなくなったら、死んでしまうんだな…。」なんて怖いような、でもその一瞬を待ってるような不思議な気持ちになってくる。プラプラのボスはケチだなぁ…。抽選なんていわず、全ての人にもう一度チャンスを与えてくれればいいのに。抽選にはずれてしまった人のことをつい考えてしまい、悔しくなってしまう。優しい物語。優しいけれど…苦しくもなってしまう物語。　　　　死んだはずのぼくの魂。突然、プラプラという天使が現れてこう告げた。　本来なら大罪を犯して死んだので、輪廻のサイクルから外されることに　なるのだけれど、抽選に当たったのでもう一度だけチャンスを与えてくれるという。　それは他人の体にホームスティして下界で再チャレンジするということ…。もう一度。たった一度でいいからチャンスを貰えたなら…。きっと気づけた筈。（チャンスを与えられた“ぼく”のように）自分の気持ちばかり可愛がっていたことに。一緒に過ごしていた家族の、見えずにいた気持ちにも。自己嫌悪に陥っちゃうのは自分だけじゃないんだってことにも。たった一度。もう一度だけ、省みていたなら。生き直そうと思っても、実は何度も同じことを繰り返すかもしれない、そんな恐れを抱いたとしても。本当に死んでしまったら、そんなチャンス、もう二度と訪れやしないのだから。生きてさえいれば、いいことにだっていっぱい巡り合える。小林真くんの体を借りて生き返った“ぼく”…。良かったね。過ちに気づくことができて、本当に良かったね。与えられたチャンスを無駄にしないで。プラプラに出会えたことを忘れないで。また辛い出来事に出会ったときは、これはほんのちょっとの間だけ、そういう問題に直面してる体にホームスティしているんだと考えてみればいい。見方を変えるだけで生きやすくなることもあるから。それでも落ち込んでしまいそうになったら？そのときは抽選にはずれちゃった人たちがどうなるのか、どうなったのかを考えてみて。ねえ…後悔しない？大切なものを、自分から手放したってことを後悔し続けるのって今よりも辛くない？チャンスって、生きて努力してればきっと何度でも出会える。でも死んでしまったら、多分二度と巡ってこない。　「人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。　　この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはみんないつも迷ってる。　　どれがほんとの色だかわからなくて。　　どれが自分の色だかわからなくて。」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（本文Ｐ２０６） 「SW EP3 シスの復讐」を観て以来、すっかり腑抜けになってしまってる柊…。今日は気温も急上昇…！夏だなあ…。夏は苦手です☆

  2005.07.16

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• 「ミリオンダラー・ベイビー」の結末について考える…。

  映画の結末に触れているので、未見の方はご注意を！「ミリオンダラー・ベイビー」を観てからしばらくたつけれど、この映画の余韻はなかなか拭えずにいます。この映画を観終えた直後は「この結末しかない！」と思いました。その瞬間が来るまでの彼女の表情は本当に輝いていたし、（もちろん家族のことに悩んだり、良いことばかりでは決してなかったけれど）それまで、ボクシングが彼女に生きる力を与えている…というのがわかりすぎるくらい丹念に描かれていたから…。ボクシングを失った後の彼女の姿を見るのは本当に辛かった。彼女自身も辛かっただろうけれど、それを見守る側も辛い。だから、この結末しかなかったんだ…！とあの時は思えたんだけれど。柊の中でずっと心に掛かっている台詞があって。ベットに横たわっている彼女に、イーストウッド監督演じるフランキーは「勉強して、大学に行くことだって出来る」（正確な台詞は覚えていないんだけど…）そう、言ったんだよね。身体にハンディはあるかもしれなくても、新しい道を探す方法だって確かに存在した筈。でも、そんなふうに言葉にしてしまえるのは自分が五体満足な体を持っているからじゃないか。…そんな考えは偽善なんじゃないかと思えてきたり。どちらが正しい選択なのか、どんどんわからなくなってしまった…。だからこそ、観終えた直後の日記にはあんなふうにしか綴れなかったんだけど。あれから、ふと一人の人の絵と言葉を思い出した。星野富弘さんの詩画集。もちろん、簡単に比べることなんて出来ないけれど。星野さんなら、彼女が悩んで、苦しんだことの全てを知っているのではないだろうか。そう思ったら、いてもたってもいられなくなってしまった。ボクシングの場で、観客たちから歓声と拍手で迎えられた瞬間。得た賞金で家族に与えることが出来たもの。それって…確かに彼女にとっては“最高の瞬間”だったと思うんだけど…。結果的には彼女から早急に未来を奪ってしまったのでは…？星野さんが描く植物の絵や、それに添えられた文章を読むと力づけられたり、ああ、そうだなあ！って改めて気づかされたりする。そんなふうに他人を力づけることが出来るなんてすごいことだと思う。彼女にだって星野さんみたいな力がきっとあった筈だと思うとあの結末が一層狂おしく感じられてくるんです。彼女の気持ちも痛いほどわかるだけに、こんな風に「もしかしたら…」という架空の未来を想像することは残酷なことでしかないのかもしれないけれど。＊東村立富弘美術館ＨＰ

  2005.06.29

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  「ミリオンダラー・ベイビー」＋追記Musical Baton

  幸福な瞬間っていうのはどうしてその幸福な形のまま、繋ぎ止めておくことが出来ないんだろう…。人生で「最高の瞬間！」を味わった後…人にはどんな生き方があるだろう。その瞬間を大切な思い出としながら、静かに生きようと願う人、或いはもっともっとその瞬間を味わい続けようと努力を続ける人…。選択肢は様々だけど、いずれは努力ではどうにもならない、怪我や病気や老いなどといった壁が行く道筋に見えてくる。その時、過去を振り返ったときに、その「瞬間」は自分の目にどう映ってるかな？変わらず、自分の中で同じ輝きを放ってくれてるだろうか。それとも、否応なく流れる時間と共に風化してしまっているだろうか。あの瞬間さえ味わわなければ別の生き方も選べたのに、と後悔する人もいないだろうか。「最高の瞬間」にしがみついたが為にその後の人生を生きられない人だっているかも…。だとしたらその瞬間は何のために存在したんだろう。ボクシングの試合や、それを題材とした映画を観るのは苦手。顔を腫らして殴りあうなんて、野蛮極まりなく、理解の範疇を超える。…というのは表向きの理由で、柊の場合、「痛い」場面から目を逸らさずにいられないから苦手なんだと思う。痛みに向き合う、立ち向かっていくなんて私には出来ない。ラストが衝撃的だったわけじゃない。アカデミー各賞を受賞する前に「こういった問題を提起するラストが受賞にどう影響するか…」といったコメントを耳にしたとき、何となく予測していた出来事だったから。でもやっぱり泣いた。悔しくて、悲しくて。気持ちの持っていく場所がなくて。未来に起きる出来事を知っていたら…或いはもう一度人生をやり直せると言われたら…彼女は別の人生を選ぶだろうか？最期の時に、「いい人生だった」と思える人に、後悔なんてないだろう。どんな辛い状況が待ち受けていようと、何度でも同じ道を選ぶだろう。そう思える人はきっと「最高の瞬間」を手にした人よりもずっと数が少ないのでは…。幸せだったことも、辛いと思ったことも全てひっくるめて「いい人生だった」と思えるように…そんな風に生きなくちゃ！ヒラリー・スワンクの目の演技がとても印象的だった。映画って素晴らしい！そんな風に思える一本にまた、会うことができました。　　　公式ＨＰは→こちらココログ版読書日和に「Musical Baton」が回ってきました。　音楽に関するいくつかの質問が「バトン」として回ってきたら、　自分のブログ上でこれらの質問に答え、　次の5人を選びその人にバトンを渡す、というルール…らしいです。音楽に疎い柊ですが頑張って回答してみました。良かったら覗いてみてください。最後に五人の人にバトンを回さなくてはならないのですが、これがもう、かなりの人に回されているようなので…。「Musical Baton」がまだ回っていないという方、一報下さい先着五名様まで（笑）喜んでバトンとなるＴＢを送らせてもらいます～ 尚、回答は強制ではないそうです。挑戦してみたい方は是非、是非！！

  2005.06.24

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  「インファナル・アフェア」三部作観ました。

  圧巻、としか言えない。もう、言葉が出てこないんだもの。全然。指先が震えてくるような緊張感が堪らない。三部作をほぼ立て続けに観たけれど、「ああ、あの台詞が今、ここに生きてくるのね。」という言葉や場面が随所にあって、それがずっと心の中で尾を引いている感じ…。ただただ、「ああ！」って感嘆の溜息をつくしかないみたい。　　インファナル・アフェア公式HP→こちら「インファナル・アフェア」　　　　警察に潜入したマフィア、ラウ（アンディ・ラウ）とマフィアに潜入した捜査官ヤン（トニー・レオン）の二人。それぞれ、いつ自分の正体がバレるのかという緊張を強いられる状況で、自分の存在に矛盾はないのかと葛藤を抱え込んでいく様は観ていてとても心が苦しくなる。嘘と、裏切りと、矛盾と、死が取り巻くこの状況から早く解放されたい。原題の「無間道」（＝地獄）、このタイトルがすごく効いてる。どちらにより魅入られたかといえば、ここではトニー・レオン。常に死を意識し、ときには警察官という元の身分に戻ることを諦めかけているのではないか、と思えるような表情が切なくてラストシーンには呆然とさせられる。（３の予告編を観て結末は知ってた筈なのに…！）恋愛を絡めて欲しくない…という感想を目にしたけれど、その気持ち、とてもよくわかる。柊は女なので、そう言われちゃうのは実はものすごく悔しいことの筈だけど主役二人が作り上げる緊張感に余分なものは一切欲しくない！…でも、柊はケリー・チャン、好きなんです～。「インファナル・アフェア　無間序曲」　　　時間は遡り、主役二人が潜入を始めた頃～の物語。トニー・レオンもアンディ・ラウも登場しないのにどうやって引っ張るの？という心配はまったくの杞憂に終わります。１で恋愛（女）を絡めて欲しくないなあ～と思った感情はころり、と転んで柊は、マフィア・サムの妻を演じるカリーナ・ラウに釘付け。潜入捜査の非情な部分、血で血を贖うようなシーンの数々。１では描かれなかった主役二人の心情や背景がどんどん肉付けされていきます。そして最終章「インファナル・アフェア　終極無間」へ１、２、続けてみているのに拘らず物語について行くのに必死！過去に遡ったり、微妙に時間軸が入れ替わったり、新たに二人の登場人物が加わって、一体誰を疑うべきなのか混乱してくるのですが…。自分と同じようにサムの手下として警察に潜入している人間を探り出し自身の過去を隠すため始末しようと謀るラウ。こうなると俄然、アンディ・ラウに肩入れしたくなってしまう！「善人になりたい」、そう切望した彼がとった手段は…？より死に近い場所にいても、心の中でずっと警官（善人）でいられたヤン捜査官（トニー・レオン）に対して、ラウが抱いた感情は嫉妬なんだろうか？それともコンプレックス？１で二人が対峙したときに交わした言葉は、ラウにとっては呪詛に近いものだったんだろうかと思うと…悲しい。トニー・レオン、アンディ・ラウの主役二人はもちろんのこと、脇を固めた俳優陣もみな個性的で一人一人がとても印象深かった！この役でこれ以上の演技は観れない！と思う。「この映画はこの配役しか考えられない！」とまで思い込ませるこの映画。うーん、果たしてハリウッドでリメイクする必要があるのかっ！？と心配になっちゃうのはきっと柊だけではないはず…。ちなみに一番最近に読んだリメイクについての記事がこちら↓マーティン・スコセッシ監督が手がける香港映画「インファナル・アフェア」のリメイク「ザ・ディパーテッド」に、ジャック・ニコルソンが参加することが明らかになった。レオナルド・ディカプリオがアイルランド系ギャングに潜入する囮捜査官、マット・デイモンがボストン警察に潜入するギャング役に決まっているが、ジャック・ニコルソンの役どころはアイルランド系マフィアのボスだという。今年4月にクランクイン予定。…つまりトニー・レオンの役どころをレオナルド・ディカプリオ。アンディ・ラウの役をマット・デイモン、マフィア・サム役をジャック・ニコルソンということだよね…。　　だ、大丈夫なんだろうか…？

  2005.04.21

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  「残酷な神が支配する」+「文学賞メッタ斬り！」

  読んでいてこれほど緊張を強いられる漫画もない、と思う。文庫版が毎月２巻ずつ刊行され、今月１０巻目でやっと完結。読み終えて、自分の中で何かがすごく消耗しているのを感じます。（これ、雑誌連載で読み続けた人にはもっとずっと長い長い時間、どうなるんだろう、どうなるんだろうって落ち着かない状況が続いたんだろうなあ…。うう。）　　養父グレッグから性的虐待を受け続ける少年ジェルミ。　　次第に芽生え始める殺意と、誤算。そして…。肉体に受けた傷あとは時間と共に薄れていくのかもしれないけど精神に受けた傷というのはむしろどんどん悪化してしまうものなのか。いつか、癒やされる日がくるのか。どうすればその日がやってくるのか。悪夢のような日々が何度も何度も心のうちに繰り返されるジェルミと何とか彼の受けた傷を理解し、更生させたいと望む義兄イアンの決して目に見えるはずのない精神の世界を鮮やかに描き出すその筆致は物語に相反して美しいとさえ思ってしまう。そうでなければ読み続けることなどとても出来ない。弱い立場にあるものを虐待するなんて行為が何故おこるんだろう。虐待する人間は、決して自分には耐えられないであろうことを相手に強いる。そんなこと、絶対に絶対に許したくない。この作品を真摯に受け止めようと思ったら、それなりの覚悟が必要かもしれない。怖気と吐き気とでもうとても読み続けられないと思った場面もあるし、あまりに深くのめり込み過ぎて、なかなか現実世界に立ち戻れなくなったこともあります。だけど…この文庫化を期に、たくさんの人がジェルミやイアンと共に葛藤し、そこから何か自分なりの答えを見つけていけたら…と願ってやみません。…で、途中まで読みかけだった『文学賞メッタ斬り！』に戻ったわけですがうーん、うーん、駄目だわ。『残酷な神が支配する』の作品力に圧倒されちゃってて、もう…！書店に並ぶたくさんの本、その帯には“○○賞受賞作！”と紹介されているものが多く、「賞を取っているなら面白い作品かもしれない」と思って手に取る人も多いはず。だけど、『文学賞メッタ斬り！』を読んでいると「賞って何なの？？」って呆然としてくるくらい、選ばれる過程などに疑問点が多くびっくりさせられてしまいます。賞が作品の面白さを保障してくれるわけじゃない。普段小説を読まない人に、客観的な指標を与える点では良い効果を生むのかもしれないけれど、それに自分が左右されては駄目だって。むしろ、受賞した作品の持っている力の方が、その賞に価値を与えていくもの、くらいに捉えている方が惑わされなくて良さそう。「あれ？」って思うような小説が受賞すれば、その小説は賞の価値を下げたことになる。柊は本の感想なら読めるけど、批評（批判）は読めないんだなあということが良くわかりました。どんだけ面白くない作品であっても、著者にとってはきっと思い入れもあるだろうって想像しちゃうと思わず庇いたくなっちゃうし（笑）ひどいけなし方（言葉遣い）をする人の作品こそ読みたくない、って思っちゃうし。受け入れられないなら、「自分はそう思う」でいいじゃない。何で「みんなもそう思うはずだ」って思い込めるのかなあ。不思議だ。賞を取ろうが取るまいが、（『文学賞メッタ斬り！』風にいうなら）自分に必要な小説は自分で見つけていく。面白そう！と思う、自分にあいそうな本を常に嗅覚を働かせて探してく。そんなことを改めて決意させてくれる本でした。　　　柊の別宅案内↑あみねこ・陸から見た飼い主柊の実態とは！？↑恩田陸さんの本の感想をトラックバックにて募集中です。TB先アドレスはフリーページにもあります。↑ココログ版読書日和です。記事内容は同じですが、こちらではこうさぎのRuRuがおしゃべりしてくれたり、らくがきボードがあったり、興味を持ったblogツールをいろいろ置いているのでどうぞ遊んでみてください。

  2005.02.16

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  『対岸の彼女』角田光代著　読みました。

  “友達”に対する理想像、（憧憬）がありました。（今だって、もしかしたら…って期待するくらいには持っているかも）それは子供の時分に読んだ『赤毛のアン』のアンとダイアナの関係で親兄弟よりも近しく、何でも話し合える心の友と呼べる存在で、意地悪なクラスメイトに遭遇しても、互いが一番の味方だって信頼を寄せ合える…。大人になってそれぞれ別の人生を歩みだそうとも、心の中からその存在が消えてしまいことは決してない…そんな憧れの存在。だけど現実はなかなか小説のようにはうまくいきません。親しすぎる関係は次第にお互いの考え方や行動を束縛しあうものに変化したり、不自由を感じはじめたりする。相手の意見を尊重している、グループ活動に協調出来てる、と思い込んで自分の意見を押し殺したり、或いは考えることを止めてしまったりする。それを繰り返しているとどんどん自分という存在が空っぽになっていくのが見えてくる…。自分なりに相手と距離を保つことができるようになるまではかなりしんどいと思ったし、いっそ一人でいるほうが気楽で良い、と思いました。学校という狭い世界しか知らなかったから、あんなに息苦しかったんだろうかと今では思い返すことも出来るのですが。『対岸の彼女』を読んでいたら、そんなふうに友達に対して幻想を抱いたり落ち込んだりした過去の苦い思い出がぼんぼん蘇ってきました。家庭を持つ女と、仕事を持っている女との間に友情は成立するか！？みたいな帯の文句に最初惹かれたわけですが、内容的にはそれとはちょっと違うような気がします。育児・家庭に煮詰まって仕事を探して…そういった過程で感じたこと。逆に外から自分の家庭を見つめることが出来てはじめて気づいたことなどなど。小夜子が感じたことは、そのまま柊が子供の保育園時代～小学校入学（パートをやめて専業主婦に戻るまで）に感じたことだったのでずーんと、空恐ろしい気持ちがしてきました。その一方で子供を生むことが怖い、という葵の気持ちも実感としてよくわかるのです。「…自分から出てきた子どもが、成長して、私には決してわからないことで絶望したり傷ついたりするって想像しただけでこわい。…」子どもを育てていて一番落ち込んじゃうのは、自分に一番似て欲しくないと思っている部分が似てきちゃった！と感じたときだから…余計に。登場人物たちが（小夜子と葵が）自分たちの想いに、過去に、どんな風に折り合いをつけて、方向性を見出して行くかは実際にこの本を読んでもらうとして。人間関係に悩んだとき、仕事と家庭の間で迷ったとき、「今、一番大切なものは何か」って常に自分に問うて決めてきたことを柊は思い出しました。　　　図書館から本を借りてきました。　　　『文学賞メッタ斬り！』（大森望・豊崎由美著）　『袋小路の男』（絲山秋子著）予約していた『文学賞…』のみ受け取るはずが、つい新刊棚に『袋小路の男』を見つけてしまい…

  2005.02.13

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  「ＧＯＴＨ」乙一著　読みました。

  テレビニュースや新聞が伝える悲惨な出来事に眉をしかめ子供達が学校から持ってかえる不審者情報にぞっとさせられる一方でお茶を片手にこういった内容の本を平然と読み耽ってしまう自分自身が実は一番怖かったりするのです。 　　人間を処刑する道具や拷問の方法を知りたがり　　殺人者の心を覗きこむもの　　人間の暗黒部分に惹かれるものたちがＧＯＴＨと呼ばれる　　　　　　　　　　　　（表紙裏の言葉・本文より）人を殺してみたい、なんて欲求に魅入られたことはないけれど凄惨としかいいようのない歴史や伝説の本に興味を引かれることはあります。（吸血鬼なんかの伝説本や魔女狩りにまつわる話、本当は残酷な○○童話とかＦＢＩのプロファイリング云々…等）どうしてだろうって思う。そういう自分の心理が一番不思議で、色々と理由も考えてみるのだけど自分で納得のいく答えなど得られるわけがありません。殺人犯の部屋から猟奇的な内容を扱った本や映像が発見され、そういった物が犯罪者に影響を与えたのだ、という憶測をよく聞くけれどそれは柊はどうかなあ…と思う。（まったくないとは言い切れないけど）影響を受けやすい人、あくまでフィクションとして受け流せる人様々な人がいる中でむしろどうしてその人が？って思う。おかげで家庭内、あるいは公共の場で推理小説などを読み耽るのは非常に肩身が狭い…。推理小説などを嫌悪している夫にこの本を読んでいることを知られたら（本を手にとられ、ぱらぱらと中身を読まれようものなら…）将来殺人を犯す予備軍の一人、というような非難中傷を浴びることは確実です。それは違う、絶対違う！！と声を大にして否定したいのだけどそういった考えの持ち主を説得し、納得させるだけの理由を柊は持ってないのです。…で、こっそりと「まさか、私もＧＯＴＨの一員じゃなかろうね…？」と不安を覚えつつ『ＧＯＴＨ』を読み耽ったわけですが。（不謹慎な表現かもしれませんが）…面白い。どれも印象深い短編なんだけど、とりわけ「暗黒系」「リストカット事件」「声」の三編が柊は気に入っています。主人公コンビのキャラクター、その無表情といっていい感情の起伏のなさや事件への興味の示し方などに、柊が考えても考えても辿り着けずにいる疑問の答えへのヒント示されているような気がします。死体描写も「う、残酷。よくこんな死体を思いつけるなあ」と思う一方で「さすがにこの映像化は無理だろう」と冷静にそれを想像している自分が怖い。あとがきにて、『ＧＯＴＨ』が「せつなくない」という感想に、著者が憂鬱になった云々というくだりがありましたが、柊はこの本、どれもせつなさがある、と感じています。対象がなんであれ、“執着”は切なさを生む、という気がするのです。余談ながら。乙一さんの『ＺＯＯ』が映画化されるそうな。（興味のある方はこちら）本当にスクリーンに映し出してしまう気でしょうか。こ、怖い。

  2005.02.01

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  読了！『ダ・ヴィンチ・コード』（上・下巻）

  　　　下巻に突入してからはほとんど一気読み。先を急ぎすぎて、細かなところはかなりすっとばしながら読んでしまったような気がするくらいです。絵画を読み解くっていうのには不思議な興奮が付き物ですね。どれだけ頭の良い人が集まって、幾つもの解釈を施そうと、ヒントとなる暗号（象徴するもの）が示されていようとも、真実は絵を描いた人の頭の中にしか存在しないのだから。ダ・ヴィンチとダ・ヴィンチの作品にまつわる謎はこれまでにもたくさんの著作やテレビの特集番組に取り上げられてきたけれど、それらをどう解釈して、結末まで持っていくのかがこの本の読みどころです。興味深い薀蓄をどんどん繰り出してくるあたりの興奮はかつて「西洋美術史」の講義を聞きかじっていた大学時代を懐かしく思い出しまたし、「もっともっと教えてくれ～！」とのたうちたくなる感じは澁澤龍彦の著作（エッセイ）を読んだ後の面白さを思い出します。ただ…最後の最後のところまでのめり込んでしまうことが出来なかったのは柊が宗教に対して無関心（というと語弊があるけど）だからかな。特定の宗教に心酔・のめり込んでしまう気持ちが柊にはわからないです。「神の名の下に」といって行為を正当化してしまえる感覚がわからない。この作品は2006年に映画化・公開されることが決まってます。柊が知っている配役はラングストン教授にトム・ハンクス、フランス司法警察にジャン・レノ。配役を知ってから読んだので、イメージが違うとかいう先入観もなく（むしろトム・ハンクスのイメージで読んでいたから）違和感なく映画を楽しむことが出来そうです。映画を観るときに注目しちゃうのはきっと物語よりも、その主な舞台となるルーブル美術館内（その壁面を飾る有名どころの絵画たち）や教会などでしょう。撮影許可とかどうやってクリアしていくのだろう～。むしろそっちに興味がある（笑）柊は一度だけルーブルを訪れたことがあります。「モナ・リザ」の前に立ったときの何ともいえない興奮を思い出しました。（結末まで読んでしまうと尚更です…。）生涯にただ一度の貴重な経験だったなあ…　　『ダ・ヴィンチ・コード』本の公式ＨＰ

  2005.01.24

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  『ダ・ヴィンチ・コード』上巻読了

  『ダ・ヴィンチ・コード』上巻読了。外出先で上巻を読み終えたのですが、すっごくすっごくおいしいところで終わってしまい、「ぎゃー、下巻は家に置いてきちゃったよ！」と激しいジレンマに襲われました。『ダ・ヴィンチ・コード』は友人から借りてる本です。図書館から借りてる本の返却期限も迫ってきている…頑張らなくちゃ

  2005.01.23

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  「真夜中の五分前side-A」本多孝好著　読みました。

  ミステリーだと思って読んでいたら、恋愛を描いた小説でした。そして、“双子”が登場した瞬間から、柊には平静な気持ちでは読めない小説になりました。　　小さな広告代理店に勤める僕は、　　学生時代に事故で失った恋人の習慣だった　　「五分遅れの目覚まし時計」を今も使っている。　　その五分ぶん、僕は社会や他人とズレて生きているようだ。　　そんな折、一卵性双生児の片割れ「かすみ」と出会う。　　かすみは、双子であるが故の悩みと、失恋の痛手を抱えていた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（帯の紹介文より抜粋）物語前半にあたるside-Ａを読み終え、本を閉じたとき、思わず目の前で遊んでる双子の娘たちをまじまじと眺めてしまいました。双子であるが故の悩み…当人たちが抱えている悩みに比べれば、見守ることしか出来ない親の心境なんて、どうにもならないことは良くわかる。分かるんだけど…なんて複雑な気持ち。双子の悩みをテーマにした小説はいろいろありそうだけど（この小説もその一つ）「双子を持つ親の悩みをテーマにした小説があっても良さそうだわ…誰か書いてくれないかしら…？」と真剣に願ってしまいそう。柊の双子の娘たちは小学校二年生。双子であることについて、まだ真剣に悩んでいたりはしないだろうけど…。互いに相手より親しい友達を作ることを避けてるんじゃないかと思うときがあるし（嫉妬めいた気持ちを悩みとして打ち明けられたことがある…）恐らくは保育園での初恋の相手は同じ男の子。（好みが似ているのかもしれない！？）おそろいの洋服を着ることはほとんどなくなったけど、それが好みの問題なのか、互いを意識して選んでいるのか、柊にはわからない…。（どちらかというと後者のようだ）二人もいつか恋をするでしょう。そのとき胸に抱える悩みが恋に（相手に）関するものだけならいいけれど！？そこに自分自身の存在意義を問うてしまうような悩みが重なってこなければいいなあと祈らずにはいられません…。（心配のしすぎかしら…）だって、親から見れば、相手の男の子なんて二の次、三の次！娘たちが一番大切なんだから！二人の気持ちを傷つけたりしたら、ぜーったい許さないんだから！！ああ、何だか本の感想じゃなくなっちゃった。本としての感想は、物語後半に当たるside-Ｂを読んでからまとめて書きたいと思います…☆side-A、side-Bって分けてあるから、柊はてっきり、江國さん、辻さんの書かれた『冷静と情熱のあいだ』みたいに、一つの物語をそれぞれ別の視点から描いてみせる小説なのかと思い込んでました。side-BはＡのラストシーンから二年後という設定から始まるようです。帯にある注意書き、「かならず先にside-Aをお読みください。」に気づかなかったら「Ｂから読んでみよう！」とする所でした。図書館本には帯がついてないのでＢから読んじゃう人もいるのでは…と余計な心配をしてしまう柊でした。

  2004.12.11

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  「Ｑ＆Ａ」恩田陸著＋図書館からの借り出し本

  Ｑ： これからあなたにいくつかの質問をさせて下さい。郊外の大型ショッピングセンターで多くの死傷者を出した事故がありました。原因は特定されていません。事故に遭遇した方、関係者の方から当時の出来事について語ってもらったのですが…。その調書の内容について客観的な感想を伺いたいのです。これを読んで、あなたはどういった感想をもたれましたか？　Ａ： 「怖かった…です。でも、なんていったら良いのか…　　とても居心地が悪い気持ちになりました。」Ｑ： どうして？　Ａ：「例えば…　何か隠し事をしているときや嘘をついているときって息苦しくて　気持ちを落ち着かせたいと思って、トイレに立ったりしますよね。　そしたら洗面所の鏡の中の自分と目が合ってしまう…　そこに最も見たくない自分の姿、表情を見てしまって　思わず目を逸らしてしまうような、そんな居心地の悪さかな。　この調書は、そんな“鏡”みたいな感じがします。　人間って勝手ですよね。　自分が本当はどんな人間なのか、他人からどう見られているのか　人一倍知りたいという欲求を持っているくせに、　最も知られたくない醜い部分に焦点を当てられそうになるとそれを何とか　誤魔化そうとしてしまう。　それは自分じゃないと、見て見ぬ振りをすることが出来てしまう。　この調書を取られている人たちは、そういった部分が質問されることによって　剥き出しにされちゃってるように思えます。　一番怖いのは“人”だって、改めて思い知らされる感じ。」Ｑ： そうですね。自己中心的、というのかな。先ず自分ありき、みたいな。でもそれは誰の心の中にもきっとあるものでしょう。うん、自分の中にもそういった感情があることを見せつけられているような気がする…それから？他にはどんなことを感じましたか？　Ａ：「こういう事故って、自分の近くで実際に起きる可能性って　あるのかな、と思って。　非現実的だ、って笑い飛ばせちゃいそうな反面、集団ってものの怖さを　普段自分も感じているじゃないかって…。　嫌だなあ…今日、これから食料品の買出しにいかなくちゃいけないのに。」Ｑ： 原因がはっきりしてないことが怖さに繋がってるんじゃないですか？原因がはっきりしたら、対策を講じられるでしょう？　Ａ：「ある人の台詞の中に、『事実も嘘をつく』というのがあったでしょう？　『事実がいっぱいあるってことを認識するしかない。…人の目の数だけ　事実はあるんだから』って。それに私　妙に、納得しちゃったんです。　私、推理小説をよく読むんですが、その中で動機を追及することに意味があるのか　ないのかという論議が展開されるんです。。　そういうの読んでいると…動機が明確だったら、その犯罪が起こったことに　納得いくのかって、そう聴かれたら答えは「NO」だって思うようになった。　動機もまたきっかけの一つに過ぎない。　どれだけ言葉を尽くそうと、理解を求められようと　起こってしまった事に納得なんて出来やしないって。　　原因がわからないから怖いんじゃない。自分の中に今、抑えこまれてる　不安や、欺瞞や、エゴがいつ、どんなきっかけで爆発するかわからないから　怖いの。」　以上、「Ｑ＆Ａ」ふう、柊の感想でした。図書館からリクエストしていた本を入荷した、という連絡を頂きました。本多孝好さんの『真夜中の五分前』（side-A,side-B）瀬尾まいこさんの『天国はまだ遠く』京極夏彦さんの『百器徒然袋ー風』　　　の計四冊。前回本の返却に行ったとき、一冊も借りずに帰ってきて「おお！これでしばらく友人から借りてる本や自分の本を集中して消化出来る～」と思ったんだけど…。一度に四冊も期限内に読めるかしら。特に危ないのは京極さんの本（笑）。一番時間がかかりそう。頑張るぞ～！

  2004.12.10

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  「２０４６」観ました。

  なんだろう。掴みかけたものが、するりと逃げてしまう。掴めそうで掴めない。一度観ただけでは物足りなくて、もっとじーっと一つ一つの台詞の意味を考えたくなる…。　　　　「2046」公式HPは→こちら物語中に登場する「小説」は恐らくは未完の小説なのではないか、という印象が柊にはあります。映画、或いはこの劇中の小説のストーリーが中途半端だとか、そういう意味ではもちろんなくて、この先に存在する＜fin＞の文字をこの映画を観た観客一人一人が見つけなければならないような、作者に作品を委ねられたような、そんな感じがするのです。どんな物語だったかは、実際に観ていただくとして…この映画で柊が「おお！」と思ったのはその映像と使われている楽曲の相乗効果、でしょうか。劇場を出た後も、劇中で流れていた音楽が耳に残って離れない上に、その曲を思い出すと、その場面が頭の中に鮮やかに蘇ってくる感じ。映像と音楽といい、小説家の主人公と、彼に絡んでくるそれぞれの登場人物たちのバランスの取り方（重きの置き方）といい、絶妙な匙加減ではないかしらん？…そういうわけで、誰の演技に一番注目してしまった、というような感想は書けません。作家を演じるトニー・レオンは別格としても、彼に拘ってくるエピソードの一つ一つ、俳優一人一人がその持ち味を発揮していると思います。観終えた直後は何だかとても頭の中がポーっとしてすっからかん状態なのだけどしばし時間がたってくると、繰り返し、「あれはどういう意味だったんだろう」とか考えて、それを知りたくて何度も頭の中で映像と台詞をリピートしてみるのですがさすがにそれには限界があるのが悲しいですね。もう一度観にいけたら、「それ」を掴めむことができるのでしょうか…。 新潟県で大きな地震がありました。時間がたつにつれてその被害の大きさがテレビを通して伝わってきて愕然としてしまいます。こんなとき、無力な自分を嫌というほど思い知らされてしまいます。一日も早く、復興が進むことを祈るばかりです。日本は地震国なんだから、被害が起きてから補正予算を立てるなんて言ってないで、「災害時のための予備費」みたいなのを最初から予算に組み込んで置くことは出来ないのかなーなんて思うのですが。

  2004.10.25

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• 「モンスター」観ました。

  「人を殺してはならない。」当たり前、常識、のはずだよね？けれども常識、というのは同じ考え方、価値観を持っている人同士にしか通じない合言葉みたいなものではないですか？戦争、或いはテロ、正当防衛、そんな自分の命が奪われようとしている状態の時でも自分を殺そうとしている相手にこの常識が通じるんだろうか。　モンスター公式HPは→こちらアイリーンに、この常識は通用しない。良心の呵責はある。けれど、彼女の内側には彼女なりの正義感や常識が存在してる。それは世間とは相容れないもの。幼い頃からレイプ、虐待の被害を受け続け、兄弟を養うために売春婦として街頭に立ち、時には死を意識するほどの暴力と差別を受け続けてきた彼女。彼女にとって殺人は報復であり、制裁である、という意識があったはず。柊も女だから、娘がいるから、こんな暴力を目にするのは本当に嫌だった。彼女を死刑にするのなら、彼女に暴力を振るった男たちに、彼女の中にそんな「常識」を作った人たちにも同じだけの罰を与えてよ！　と観終えたとき真剣に望んだ。（はっきりいえば、死を、だ）映画館を出たとき、通りを歩いている大勢の男の人たちの中にも彼女が出会ってきたような、残忍さを隠し持ちながら平気な顔で歩いている人が含まれている気がして、そういう想像を働かせてしまう自分にも落ち込んで嫌になった。「立ち直るきっかけは幾度もあったのかもしれない。見過ごしていただけで。努力が足りなかっただけで。…」そんな風に言うのは簡単。だって私は彼女のような人生が本当はどんなものかなんて、知らないんだから。私には彼女の中にある常識を理解することが出来ないんだから。気持ちが通じない、わかりあえない、ということがこんなに辛いことだなんて。「人を傷つけてはいけない。尊重しあい、思いやりの気持ちを持つこと。」全ての人がこんな考え方を内に持っていさえすれば、彼女だって違った生き方が出来たはず。彼女の出会った悪意たちが、彼女自身をモンスターに変えてしまった。セルビー…彼女の存在は“きっかけ”なんだろうか。彼女に出会っていなくとも、命の危険を感じたアイリーンはいずれ殺人を犯していただろう、と思うと悲しい。二人の逃避行…イライラしながら観てた。「誰か、救ってやって」と思いながら。二人が本当に愛し合うには、セルビーは幼すぎたし、アイリーンは孤独すぎたみたい。アイリーンを演じたシャーリーズ・セロンはこの演技で、彼女自身が抱える過去を受け入れられたんだろうか。恐ろしくなるほど、体当たりの演技でした。体重を増やし、顔を変えて、とかそんな外見的な変化ではなく、彼女の目と叫び声が、脳裏に焼きついてしまう、そんな演技でした。この映画を観たら、どうしたってアイリーンに同情してしまう。だけど、やっぱり同情しすぎてはいけないんだ。最後の最期のときまで、私は「人を殺すのは悪いことだ」「人を傷つけず、尊重し合い、思いやりの気持ちをもって接すること」という考え方を持っていられますように…。

  2004.10.14

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  「暗黒館の殺人」綾辻行人著　読みました。

  ああ、何て細微にわたって伏線が張り巡らされていることか…。「暗黒館の殺人」堪能しました～。大満足です。これから読まれるという方がいるならば…。下巻中盤辺りからは決して、誰にも邪魔されぬ時間・場所に篭もって、一気に読み上げることをお薦めします。決して、決して柊のように途中で「晩御飯の支度をしなくちゃ…。」と時間に急き立てられたり、子供たちの「おやつ～」を要求する声や、ビーズクッションの中身を床にばらまいてしまい、「助けてー」という悲鳴に邪魔されて、読書が中断させられてしまうというような、そんな勿体無い状態に陥ってはいけません…。　　緻密に張り巡らされた伏線の意味がわかったとき、　　事件の真犯人とその動機がわかったとき、　　「彼」の正体が明らかになったとき…。「やられた～」と思うよりもこう、顔が自然とにんまりしてしまう感じ？？「館」シリーズに出会えて、ここまで待ち続けて読んできた甲斐があったよ！と踊り出したい気持ちです。なんといっても推理小説。詳しい内容が書けないのが残念です…なんて思いません。絶対。この“にんまり”笑いには「この真相は読んだ人にしかわからないのだよ～ん」という優越の笑みが含まれているからです。うくく。（←意地悪）ああ、もう一回「十角館の殺人」から読み返したくなっちゃった～。…とはいえ長編だけあって、ちゃんとうまく飲み込めていない部分もありそう。記憶鮮明なうちに、読了された方に疑問点など聞いてみたい…。「長すぎる！」なんて批判も目にしましたが、めげずに最後まで読み通しましょう！偶然ですが、「暗黒館の殺人」を読み終えた時、２，３日降り続いていた冷たい雨が上がって、久しぶりの青空を見ることが出来ました。事件も解決、暗黒館から出て目にした久しぶりの青空…不思議に爽快な気分です。さてと、次は恩田陸さんの「夜のピクニック」に出発します

  2004.10.07

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  「八つ墓村」を観ました。

  録画していた「八つ墓村」を観ました。稲垣さん演じる金田一さんは怖くないところが（柊的には）良いです。「犬神家の一族」を観た時にも思ったけれど、やっぱり原作で味わってみたいです。この雰囲気…湿った空気…緊張と圧迫感を。横溝正史は人の「心」というよりも、「情」とか「念」とかいったものを描き出すのが巧いのだろうな…なんて思います。舞台設定で怖がらせよう等と思わなくても、「情」が一番怖い…気がする。江戸川乱歩はいろいろ読み漁ったのに、何故か（表紙が怖かったから）横溝正史は手に取ったことがなかったのが悔やまれます…。ああ、読んでみたい…。読みたい本が溜まっていく～。稲垣さん演じる金田一シリーズはまだ続くのでしょうか…。次があるなら、それまでに「犬神家…」「八つ墓村」のどちらかはそれまでに読了しておきたいです。（予定は未定…あくまでも）…にしても、設定も真犯人も既に（伝え聞きで）知っているというのに何度も何度も映像化されて、それでも楽しめるというこの物語の吸引力たるや凄まじいものがあるなあ…なんて思ってしまうのでした。

  2004.10.06

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  「螢」 麻耶雄嵩著　読みました。

  真っ黒な内表紙…そして目次の次ページは屋敷の見取り図と登場人物表。奇しくも物語の舞台となる“ファイアフライ館”はその内装（壁、廊下など）が黒で統一されている、という記述が…。う～、どうしたって平行して読んでいる綾辻行人さんの“暗黒館”を思い浮かべてしまいます…。これはもしや麻耶雄嵩版「暗黒館」かも知れないと思いつつ、読み進んだのですが…。謎の解決編～完結に至るまでのくだりが「えっ！？何々～？？」と展開についていくのにもう必死になっちゃいます。くう～、やっぱり麻耶さんだった…。これまでの麻耶さんの作品を念頭に置いて自分なりに推理しながら読み進み、「ふっふっふ。やっぱりそういう展開に来ましたね。」なんて悦に入っていたんですけど、認めます。負けを。やられました。降参です。いい線いってたと思うんだけどなあ…麻耶さんは伏線の張り方が半端じゃないです。これでもか、これでもか、ってひっくり返されるような気がします。そしてエピローグ…こういう持っていき方は麻耶さんならではです。間違っても、「あとがきとかあるのかな？」と後ろからめくってはいけませんっ！とどめを刺される最後の一ページ…愕然とします。この本は読み終えたあと、たとえ返却期限が差し迫っていようとも最初から読み返さずにはいられない、確かめずにはいられない衝動にかられる推理小説です。１０年前に起きた殺人事件と、現在進行形の殺人事件の交錯ぐあい、その動機などは腑に落ちない部分もありますが、、物語に漂う雰囲気に飲込まれてしまえば何のそのですね。舞台となったお屋敷に対する作者の執着、趣向の凝らし方は麻耶さん版「館」シリーズと言ってもいいのでは…？なんてやっぱり思ってしまいます。麻耶雄嵩さんの未読本は「名探偵木更津悠也」を残すのみ、です。よ、読みたい。でも本屋さんでも見かけたことないんですけど…？さて、返却を迫られている「蛍」も読み終えたことですし、今度は綾辻さんの「暗黒館…」に集中して取り組むぞ～っ！！円周率暗唱の世界記録更新のニュースを新聞で知りました。千葉県在住の５８歳の男性の方だそう。柊は円周率といったら３．１４…しか覚えていません。それなのに、今回世界記録を樹立した方は五万四千桁まで暗唱したとか。（所要時間は八時間四十五分で、三台のビデオカメラで録画）近日中にギネスに記録を申請するそうです。う～む、すごい。どうやって覚えるのでしょう。記憶の回路がどんな構造になっているのか…知りたいものです。夫も時々、数十桁位暗唱して聞かせてくれますが、柊にはそれがあっているのかどうか確認する術がありません（笑）今は数学の授業でも円周率は「３」で計算すると聞きました。それって、計算が楽になりすぎません！？「いいのか、それでっ」と僻んでしまう、数学苦手の柊なのでした。申請された側も約９時間近く、正解しているかどうか確認するのでしょうね。そっちも大変だなあと思います。

  2004.09.27

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  「華氏９１１」観ました。

  もうすぐ、9月11日がやって来ます。あの日、繰り返される映像をテレビで観ていながら、一体何が起きているのか理解できなかったことを思い出します。そして今も。なにがどうなっているのかわからないまま、大きな流れに流されてしまっているんじゃないか…と思うと怖い。マイケル・ムーア監督の「華氏９１１」も、側面の一つに過ぎないということを頭の片隅で覚えておかなくては、柊のような単純な人間は簡単に一つの考え方、見方に洗脳されてしまいそうだけど、それでも戦争、偏った政治に対しての怒りはすごく胸を突いてくるものがありました。アメリカも国内に矛盾を抱えているのですね…。イラクで、空爆の被害を受けた人たちの映像は怖いほど痛々しく、その反面、戦闘に高揚した米兵のインタビューには鳥肌が立ちました。９・１１のテロによって家族を亡くした遺族の人々、イラクへの派遣で、戦死した兵士の家族の怒りと、涙。テレビのニュースに映し出されているものは、何なのだろう？こんなにも情報が氾濫しているように思えるのに、真実は何処にあるのか判断できる材料が、自分には何もない。アメリカで、イラクで、本当は何が起きているの？日本だって今現在イラクに自衛隊を派遣しているけれど…それは将来どんな流れに通じているのだろう？　「人がこんなにも無知だなんて…」という遺族の言葉が辛かったです。　今はもう、知らない、という言葉で目を逸らすことは許されないのかも。この映画ではブッシュ大統領が痛烈に批判されているけれども、それよりももっと怒りをぶつけるべき相手は、９・１１の首謀者といわれているテロ組織、アルカイダ、ラディン氏では…？彼らは今何処にいて、何を企んでいるのだろう…。怖い。テロも、戦争も、地球上から、世界から消えてしまって欲しい。川上弘美さんの「センセイの鞄」文庫版、書店に並んでいたので購入してきました。

  2004.09.03

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  「誰も知らない」観ました。

  可哀想だ、と感想を漏らすことは容易いけれど…。「誰も知らない」公式HP「誰も知らない」…本当にそうだろうか。気づいた人はきっといるはず。「あれ、変だな？」って。けれど、通り過ぎてしまえば、人は気にかかったことを忘れてしまえる。自分に関わりのないことなら、なおさら。子どもたちだけが過ごしたあのアパートの部屋の中では時間が停滞している。川の流れをせき止めれば、次第に水が濁っていく様に、時間もまた停滞していれば澱んでくる。心も、同じ。唯一、流れを作り、外の世界とを繋ぐ命綱のような存在が母親なのに、彼女は帰ってこない。どうして子どもの出生届を出し、学校へ通わせることをあんなに拒むのだろう？ってその気持ちがどうしても理解できずにいます。出生届を出していても、暴力という形で子どもを追い詰める親が現実にいる一方で彼女にはまだ四人の子どもたちへの愛情が存在しているように思えたから。「幸せになっちゃ駄目なの？」と母親に問われて「駄目だ」と言うことの出来る子どもがいるかな…？それは卑怯な質問のように思う。でも柊も時々「お母さんは○○しちゃ駄目なの？」と言っているような気がする。（反省…）彼女に「幸せになるな」とは言わない。でも、幸せになるのなら、子どもたちと一緒に、みんなが一緒に幸せになれる方法を模索して欲しかった。自分一人の幸せじゃなく。警察や福祉事務所に頼れば、少なくとも生活は保障される。それを知っていてなお、「みんな一緒にいられなくなるのは嫌だ」と、それを拒否し続けた明君のためにも…。明くんを演じた柳楽優弥君の目と、タテタカコさんの挿入歌「宝石」の歌詞が印象的です。ゴンチチの音楽を聴いていると「無能の人」という映画を思い出してしまう柊です。　この映画に寄せられた谷川俊太郎さんの詩が切ないです。　　　　生まれてきて限りない青空に見つめられたから　　　　きみたちは生きる　　　　生まれてきて手をつなぐことを覚えたから　　　　きみたちは寄り添う　　　　生まれてきて失うことを知ったから　　　　それでも明日はあると知ったから　　　　きみたちは誰も知らない自分を生きる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（谷川俊太郎）上映中、地震が来てびっくりしました。大きな地震じゃなくて、本当に良かった…。すごい、大きな揺れが来たらどうしようかと思いました。出先で、災害にあうのは怖いです。映画館が建っている場所は以前一面の田んぼだった場所で地盤がゆるいので弱い震度でも建物内はかなり揺れるのです。ああ、怖かった～。

  2004.09.02

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• 「ねじの回転」恩田陸著　読みました。

  自分が唯一の現実だと信じているこの世界が、実は誰かの夢の中の世界でしかないと知ったとき…。或いはこの「ねじの回転」のように、誰かが過去を遡り、歴史を弄った為に一瞬で消えてしまうかもしれない、脆い世界だと知ったとき…。それでもただ一つ、確かなものは何か。何故か読み終えたとき、哲学の授業で先生が出した質問を思い出してしまいました。答えは「我思うゆえに我あり　Cogito ergo sum」デカルトの第一原理。この世界がどんなに危うい世界であろうと、今このとき、自分が思っていること考えているという事実だけは確かなもの。「ねじの回転」を読み終えて、受け取ったこと（考えさせられたこと）は二つあります。一つは、モチーフとなっている2・26事件、それに前後する歴史の流れについて自分がいかに知らないかということ。そしてもう一つは、歴史とは何か、ということ。何が、どれが、一番正しい歴史なのか。誰が、いつ、それを決めることが出来るというのか。物語の中で、それぞれの思惑の中で、自分にとって正しいと思う歴史を作り上げようとあがく登場人物たち。自分の望む歴史（未来）を作るために、今（現在）、与えられているチャンスを懸命に生き抜こうとする。未来を知り、そして過去を変える機会を与えられたら…自分はその誘惑に勝てるんだろうか。（例えそこに見落とした穴があっても？）　「好奇心という最強の武器の前には、タブーなんかない。　地獄すらも、我々にとっては新しい地平なのかもしれない…」この台詞がすごく印象に残っています。過去を変えるなんてことは現実には不可能なことです。もちろん、過去を変えることで、未来を都合よく変えていくことも。今、この時を生きろ、と言われているような気がしました。恩田さんの作品は、何作か映像化されているけれども、次回そんな機会が訪れるとしたら、柊は是非「ねじの回転」を映像化してみせて欲しい、と望んでいます。2・26事件について

  2004.08.31

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  「英雄　HERO」観ました。

  この映画を観るのは二度目。一度目は映画館でした。やっぱり…大画面には敵いませんね（笑）第一印象は色彩の美しさ。色で物語を表現するという試み。二転三転する物語に映画館で観たときはついていくのが必死だったけれど二度観ると表現そのものが楽しい。「ありえない…」と内心思いつつ、空中で静止したり浮かび続けたりする映像に魅入ってしまう… 主人公はジェット・リー演じる無名なんだけど、柊はついつい女優さんたちに目が惹き付けられてしまいました。特にマギー・チャンの冷徹とも思えるような厳しい表情。チャン・ツィイーの健気な雰囲気。どうしたって目が向いてしまう～。以降チャン・ツィイーの出演する映画は幾つか観ることが出来たのですがマギー・チャンの出演する映画に出会えてないのが残念。先日「２０４６」の予告編にマギー・チャンの名前を発見。観に行こうかと思っています…。「HERO」のチャン・イーモウ監督の最新作「LOVERS」も映像の雰囲気が似ている…ってことで観に行っちゃう予感がします。

  2004.07.25

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  「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午著＋かなり私的な叫び

  「騙される」ときいて、用心に用心を重ねていたというのに。一見何のかかわりもなさそうなエピソードにも伏線が引かれているに違いない…と柊なりに展開を予測していたというのに…！！物語が急展開する後半、「ええ！？どういうこと～！！」絶句。これまで頭の中に思い描いていた予測がガラガラと音を立てて崩れるような、それまでパソコンに書いていた日記がフリーズ状態になって一瞬でパアになってしまったような、そんなショック状態を味わいました。もう一度最初から読み返したい衝動に駆られたのは柊だけじゃないよね？こういう落ちもありなんでしょうね。ちゃんと主人公も「俺は嘘つきだ」って言ってる。でも誰も本気にしたりしないって…。嘘つきが自分を嘘つきって言った場合って…それって嘘？真実？歌野晶午さんの本を読んだのは初めてだったけど、物語に入り込みやすい文章だったし、他の作品も読んでみたくなりました。そうしたら、blogpetのこうさぎが「面白い　用心すれば　面白い」と句を読んでくれました。 以前勤めていたパート先で仲の良かった人たちから電話があり、「一緒にお昼ご飯でも食べよう！」ということになりました。辞めた経緯は色々とありましたが（３月１３日の日記参照のこと）一緒に働いていた人たちは、仕事に対する姿勢もとても真摯な人ばかりだったし久しぶりに顔を会わせることが出来るのは嬉しかったです。 …が、そこで話題となったのは当然以前勤めていたお店のこと…ですがこれが溜息が出てきちゃうほど、ひどい。柊が辞めて以降、彼女たちに変なしわ寄せがいったりしなければいい、と願っていたのですが、柊がいた時よりもひどい状態らしく、聞いていて（辞めた店のこととはいえ）あきれて言葉も出なくなっちゃった。店長の常識のなさ、（毎日のような遅刻、勤務態度、諸々）に言葉遣いの悪さ、一番古くから働いている人へのあからさまな嫌がらせ…。（シフトを減らす等）こんなこと…このお店だけのことだよね？と思いたい。いずれ柊も別の仕事を探そうと思っているけれど、それでもこういった経験をするとひどくトラウマになってしまいそうで怖いです。電話をかけてきてくれた人も、そんな店の現状にさすがに我慢の限度が超えてしまったようで二週間前にこの店を辞めたそうです。体調を崩すほど心理的にストレスを抱えるなんて、やっぱり普通じゃない。それでもお店の内側のことは二の次にして、来てくれるお客さんのため、と割り切って仕事を続けている人もいます。店長、お店のことを真剣に考えて自主的に話し合いの場を持ったり、自腹を切ってまで備品を整えたりしている彼女たちよりも、その場だけ乗り切ればいいや、という気持ちでバイトしている子達ばかり次々雇っているようではお店自体を壊してしまうって本気で思うよ。とうの昔に逃げ出してしまった柊が言える身分では決してないけど…柊が辞めたあとの四ヶ月も一生懸命働いてた彼女の悔しい気持ちを一つも理解してくれないのではあんまり哀しすぎるよ。お店のことを誰よりも考えているって公言するなら誰よりも表に出てそれを態度で示して引っ張っていってよ。店長室に閉じこもって出てこなくて、彼女たちがどんなふうに仕事しているか見てなくて、その場の思いつきで小言ばかり攻め立てるの止めてよ。お願いだから、お店のことは大好きなのに、辞めたくなんてないのに、理不尽な気持ち抱えたまま辞めていく人をこれ以上出さないでよ！！（以上、柊の心の声でした）

  2004.07.14

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  「ZOO」乙一著　読みました。

  「何なんだこれは」という北上次郎さんの帯の言葉に「me too！！」って思わず賛同の声を上げてしまう、短編集でした。う～む。これが噂の“黒”乙一なのですね。白とどっちが好みかって聞かれたら…どちらも面白くて選べないですね。きっと。特に印象的だったのは次の作品でした。「カザリとヨーコ」双子の姉妹と、母親の物語。母親は双子の妹の方ばかりを可愛がり、姉の方を死を意識させるほど虐待しているのだけど…。柊の子供達は双子なのですが、どうしたら平等に扱っているとわかってもらえるか、日頃苦心している柊にはちょっとついていけず、呆然としてしまう描写が続くのですが、最後、漠然と力が湧いてくるような言葉に肩の力が抜けます…。虐待の場面はかなり怖いのに、文体に妙な明るさが漂っていてそのギャップが物語に凄みを与えているのかもしれないです。「血液を探せ！」ブラックユーモアに満ち満ちているこの作品、柊は好きです。 苦笑の連続…という気がします。「陽だまりの詩」この短編集の中では唯一、白乙一のような作品。生と死との対比が切なさを生み出す描写の数々が印象的でした。「冷たい森の白い家」柊はこの作品集の中で二番目に怖い物語だと思っています。読んだ人にはわかると思うのですが…それでできている白い家を脳裏に鮮明に思い浮かべてしまったよ…ぞぞぞ。ラストまで気が抜けない緊迫感が癖になりそう。本当は残酷なグリム童話とか、そんな雰囲気がこの物語にはあります。「SEVEN ROOMS」柊が一番怖い、それでいて切なさもある物語だと思ったのはこの作品です。姉弟が理由もわからず閉じ込められた部屋で死を意識し始める瞬間。恐怖。葛藤。受け入れたときの安堵感。生臭い描写が続くけれど、ラストに伴う残酷な解放感は強烈な印象をいつまでも心に残しそうです。「うえ…」と思うような残酷な描写もあるけれど、時折対照的な明るさが登場人物の中に存在していたり…。ホント、何なんだこれは…って読み終わったとき、言いたくなりますね。乙一さんの本を読むのは三作目だけど…嵌りそう。もっと読みたくなってきました。

  2004.06.24

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  「２１ｇ」観ました。

  命の重さを問う…というよりも、罪悪感を伴ったまま生きることのつらさがじわじわと身に沁みてくるような映画だと思います。２１ｇ HP交通事故によって夫と娘を失ったクリステイーナは、自分一人が生き続けなければならないことに苦しみ、ジャックは事故を起こしたにもかかわらずその場から逃げたこと、三人の命を奪ったことに対して罪悪感を抱き、そしてクリステイーナの夫の心臓を移植されたことによって生きながらえたポールは自分の生が誰かの命と引き換えに与えられたものだということに、心から喜ぶことが出来ずにいます。自分がこの三人のうち、誰かの立場に立ったら…なんてつらすぎて想像もしたくないです。クリステイーナの心情を思うと、今、こうして家族と離れて過ごしている時間が無性に怖くてたまらない。ジャックの罪の意識を思うと、車を運転することも怖くなる。どんなに注意していても、ふとした瞬間っていつ訪れるとも限らない。ハンドルを握っていること…自分にその気はなくても凶器を手にしている。 命が消えるそのときに、人は２１グラムだけ軽くなる。そうかもしれないけど、でも本当の命の重さや、生きることの重さは決してはかる事などできない、と思います。少なくとも、２１グラムよりも、もっと、もっと重いはずです。 今日は映画館、メンズディのせいか、すっごく混雑してました。にもかかわらず「２１ｇ」は貸しきり状態。隣に知らない人が座り、ひしめき合っている館内というのが苦手なので柊的には嬉しいけれど、ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロという役者が揃っているだけに勿体無い様な気も…。（その他、ポールの妻を演じていたシャルロット・ゲンズブールの演技が良かったです）

  2004.06.07

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  「ダンサー・イン・ザ・ダーク」観ました。

  2004年に入って、柊がこれまで観た映画の中で一番衝撃的だったのがラース・フォン・トリアー監督の「ドッグ・ヴィル」です。（ちなみに「ドッグ・ヴィル」を観た感想を載せた日記はこちらです。）そのラース監督がカンヌで賞を獲得した映画が「ダンサー・イン・ザ・ダーク」です。映像に目が廻るかも…って聞いていたけど、物語に引き込まれるにつれ柊は画面の揺れなど気にならなくなってきました。「ドッグ・ヴィル」のときにも感じたけれど、ラース監督は人を不安にさせる呼吸、（間合いというのかも）をよく知っています。　　まもなく視力を失う遺伝的な目の病気を抱えているセルマは、同じ病気の　　息子の目を手術するために、危険な作業を伴う工場で仕事をし、　　内職も請け負いながら懸命にお金を稼いでいるのだが…。思わぬところへ物語は運ばれていきます。ラストはボロ泣きでした。セルマの、かたくななまでの息子を思う気持ちは痛い。理不尽だと思うのに…声も出ない感じ。監督は徹底して、役者を追い詰めるます。追い詰めて、ぎりぎりに追い詰められた精神を引っ張り出す。「見るべきものはない…」の台詞に続く「I 've Seen It All」のセルマの歌の場面が刹那的で…印象深いです。セルマを演じたビョークの歌声を初めて聴いたのですが、この声、すごいですね。ミュージカルが好き、という設定・役柄もあるのですが、辛い状況に陥っても耳に届く音だけがすべてって感じ。空想の中にも音楽を響かせて…彼女自身が歌そのもののようでした。観終えた後、映画のサントラ盤を借りに行きました。 気になる新刊案内を発見！06/08『十八の夏』　光原百合　　双葉文庫　　600円文庫化しないかなあと待っていたので嬉しいです。8日、もうすぐですね！柊は今、伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」を読んでいる最中です。

  2004.06.02

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  「夏と花火と私の死体」乙一著　読みました。

  乙一さんのデビュー作。ここに収められた二編の小説が「黒」乙一さんなのでしょうか。夏と花火と私の死体　九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなくー。　こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（裏表紙のあらすじより）タイトルが…すごいですね。（外で読むにはカバーが必要？）しかも物語は死体の一人称による記述で、既に作品に漂う雰囲気が尋常ではありません。子どもらしい、自己中心的な考え方…幼いといえばそれまでなのだけど罪悪感が全く麻痺しているかのような行動の数々にはぞっとする感が否めないです。その一方で、読んでいるうちにすっかり柊も追われる側の気持ちになっているのだから…物語の終わりをどう感じたらいいのか…！？ 優子よくある物語、展開かな…と油断してたらひっくり返されました（笑）「夏と花火と私の死体」より、柊はこちらの作品の方が好きです。この物語に登場する植物について、ついつい興味を惹かれて調べてしまいました。実在するんだなあと…。 最後の一文が醸し出す雰囲気が…ぞぞ。どちらも作者が16歳の時に書かれたもの…と言われたら確かに、びっくりしますね。 書店へ行き、今秋公開の「ハウルの動く城」の原作本、「魔法使いハウルと火の悪魔」を購入してきました。 先日、予告編を観たら何だか待ちきれなくて、買っちゃいました。映画公開前に原作を読み終われるか、否か！？

  2004.05.31

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  「上と外」恩田陸著　読みました。

  面白かった！！ 一行、一行丁寧に文字を追うのももどかしく、先が知りたくて知りたくて…もう、あせりました。　両親の離婚で、別れて暮らす元家族が年に一度集う夏休み。　中学生の楢崎練は小学生の妹、母と共に、考古学者の父がいる中央アメリカの　G国までやってきた。ジャングルと遺跡と軍事政権の国。　そこで四人を待っていたのは＜軍事クーデター＞だった。　離れ離れになる親子、二度と会えないかもしれない兄と妹…。（帯のあらすじより）突然子ども二人だけでジャングルに取り残された状況から、どうやって救援がやってくるまで生き延びるのか…とハラハラさせられるのだけど、二人の行動を文字で追っているうちに、自然と柊の子どもたちを頭に思い浮かべてしまいました。練達のように、時に精神的にパニックに陥っても、冷静に自分自身を判断し、「生き抜いてみせる」と自分を引っ張りあげ、導いていくことが、できるだろうか…？と。ジャングルという過酷な状況、サバイバルに関する智恵、そして普段からの体力づくりなどは例えに過ぎず、現実世界でも厳しい出来事はたくさん起こりえます。そんなとき、簡単に投げ出したりしない、強い意志を持ち続けられるようにするにはどんな風にこれから子供達と接していけばいいんだろう…というようなことを考えてしまいました。離れ離れになった親子…親はジャングルに置き去りにされた子どもたちを捜すべく行動を起こす一方で、これまでの子どもたちとの関わり方を振り返ります。そのあたり、柊にはどき、っとするような文章が多くて考えさせられることが多かったです。例えば、親の方が子供達に甘えている事が多いのではないか？…などなど。 練君にものの考え方、強い心を育てる力になってくれた人物の一人に練君の祖父がいます。尊敬できる人物が身近にいるって子どもにとって大きいな…って思います。 物語の中盤からふつうの？サバイバルだけではなくなってきます。よくぞこんな仕掛けをあちこちに～！って思う位、伏線が生きてきます。ああやっぱり恩田さんだ、って感じがします。「上と外」を読みながら、宮部みゆきさんの「ブレイブストーリー」に印象が似ているなって思いました。冒険する場所がジャングルまたは架空の世界という違いこそあれ、多感な年頃の少年の成長や、家族との繋がりを描いているところは似ているかもしれない。宮部さんの「ブレイブ・・・」がゲームのような展開、雰囲気を持っているのに対し、恩田さんの「上と外」は映画（映像）的な感じがします。どちらの作品も面白いです！冒険というテーマを扱いながら、作家さんたちがどう、違った演出で読ませてくれるのか…読み比べてみるのも面白いかもしれません。

  2004.05.30

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• 「パッション」を観て来ました。

  パッションこれまでに見たどんな宗教画、受難図、磔刑図よりも生々しいイエス=キリストの姿を見た気がします。聖書に登場する様々な人物たちが、良心（信仰）と保身との間で葛藤し、矛盾を抱える姿が柊には印象に残りました。体に鞭を打たれ、重い十字架を背負わされ、その十字架にかけられる姿を（その描写を）残酷だ…という感想を多く目にしたけれど、その場面を残酷だという感想のみで括ってしまうのは何か違う気がします。キリストの体に刻み付けられる生々しい傷の一つ一つは、人間が犯す罪の象徴であって、その罰を身代わりに受けている姿なのだから…決して目をそらすような場面ではないはずです。(残酷だというなら、理由もなく、あっけないほどに簡単に、銃で大勢の人が撃ち殺されたりする映画のほうが余程残酷という気がします）聖書に書かれた受難の場面を読んでから観に行ったのですが、聖書に書かれている一節一節…その場面を感情的になりすぎず、演出しすぎることなく、映画にしているように感じました。聖書に書かれている内容を自分なりに解釈することはとても難しい。柊は十字架にかけられたキリストが死の間際に天に投げかける言葉「わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」（マタイによる福音書）という言葉を映画ではどう解釈し、描かれるのかを最も注目して観ていたのですが…。残念ながらやっぱりそこは納得のいく答えは得られなかったかな。息子としてのイエスを心配し、愛し、見守る母マリアの姿に柊は泣きました。マリアの中にあるその感情は信仰とは異なるもの、に感じたから。（その一方でイエスを憎悪するサタンの冷たい視線にはぞっとするものがあります）イエスがここまで身を挺して教えてくれようとしていることに対し、一体いつまで人は憎み、争うことを繰り返し続けるのか…。…とはいえ柊はキリスト教を信仰することは出来ません。キリストの教え、たとえ話の一つ一つに納得することは出来ても…何故だろう。やっぱり何処かに矛盾するものを感じるからでしょうか？信仰も個人のうちにある間は崇高な思想を持ち続けられるけれどそれが欲を満たす道具として利用されるようになるのはとても怖い。キリストは「愛」を説いているはずなのに、何故キリスト教、となると過去に血を流し続けてきた歴史を振り返ることになるのか…。柊には難しすぎる問題です。映画ではキリストの受難が描かれていますが、マタイの福音書の最後の一節に復活したキリストが弟子にこう語る部分が書かれています。「…見よ、わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと共にいるのである。」受難を経て復活したキリストの真意をどこまで正確に知り、感じることの出来る人がいるだろうかと…エンドクレジットを観ながら思いを馳せてしまった柊です。

  2004.05.10

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  「KILL BILL vol.2」観ました。

  「KILL BILL vol.1」を観て、その「ぎょえー」という描写の連続に「もう、・・・vol.2」は観なくてもいい…と思っている人がいるとしたらそれはものすごーく、「もったいない！！」ことだと思います。それでは消化不良を起こしてしまいます。ちゃんと解消した方がいいかもしれません。柊は残酷だったり、ひたすら暴力的だったりする映画は苦手です。 実際のとこ「vol.1」を観終えた後はただボーゼン。「ああやっぱり…タランテイーノ監督…。容赦がない。」と思ったものですが時間が経過するにしたがって思い浮かぶのは“その手”の描写そのものではなく「うう、このあと一体どうなるの！？」という映画そのものに対する緊張感と期待感、各場面で手に汗握った高揚感なのでした。「たとえ目を見開いていることが出来なくたって、この結末を見届けないでどーする！？」という勢いのみで映画館に足を運んだようなもの（笑）観始めてすぐの頃は「vol.1」の青葉屋での流血！みたいなシーンが一体いつ繰り広げられるのだろうかと異様に緊張してたのですが（すごく心臓に悪い）「ザ・ラブストーリー」という副題が付けられているだけあって復讐を決意するまでの心の経緯というか、憎しみだけに留まらない感情の波に（それは言い換えれば愛なのだけど）すごく引き込まれます。殺し屋としてたくさんの人を殺してきたのであろう主人公に無条件に同情する（感情移入する）ことは抵抗があるんだけど…「母親」としての気持ちを察してしまうともう駄目です。ちゃんとラストまで目を見開いて観ることが出来ました。人によっては描写に嫌悪感を覚える人もいるのでしょうが、監督の「どうしたら映画が面白くなるか！！」というテンションが柊には伝染してきてそれだけで柊はとてもラクな気持ちになれます。女は女に対して最も容赦がない…とでも言いたげな対決シーンにはぞくぞくします。ダリル・ハンナ演じるエル・ドライバーという女性。いかにも「悪」的な存在なのですが柊は不思議と嫌いになれません。何故…？ははは。「KILL BILL」に登場する女性たちを観ていると漠然と力が湧きます。対決する相手が男だろうと誰だろうと絶対負けない！という気迫がビシビシ伝わってきて、これは女性に対する応援歌なのだろうか…とも思ったりします。思えば柊が映画にはまり始めたきっかけの一つともいえるのがタランテイーノ監督の「パルプフィクション」で、麻薬や銃や、柊が苦手とする要素がてんこもりのはずなのに、「映画ってこんなこともできるんだ！！」って編集、俳優の演技、展開の一つ一つにかなりの衝撃、インパクトを受けたのでした。「パルプ…」でミア役を演じたユマ・サーマンが格好よくて、今回「KILL BILL」のザ・ブライド役で更に、格好よく進化した印象に…大満足しました♪「vol.1」と「vol.2」を足して２で割ると丁度いいかも？…或いは一本の映画として続けてみる方が印象いいかもしれません。久しぶりにパンフレットも購入。（しかも「vol.1」「vol.2」の二冊一度に）家に帰って熟読していたら「vol.3」の構想なんかがちょこっと載っていてそれが実現したら…すごいだろうな～と想像しちゃいました。（←既に期待してる☆）

  2004.05.06

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  「重力ピエロ」伊坂幸太郎著　読みました。

  最後の一文にはどんな意味が込められているのでしょう…ね。　　連続放火事件の現場に残された謎のグラフィテイアート。　　キーワードは、放火と落書きと遺伝子のルール。とある兄弟の物語。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（本の帯の紹介文より）過去に起きた事件が常に家族一人一人の心の中に複雑な影を落としていて、その心理描写がとても巧みなために、読んでいてそれぞれの心情を深く考えさせます。家族の絆って何だろう。繋がりってなんだろう。…ずっとそんな想いで読みました。「アヒルと鴨のコインロッカー」を読んだ時にも思ったけれど、相手の言葉の揚げ足を取るようでいて、でもそこに嫌味が存在しない、不思議と飄々としていて思わず「ぷぷ」と微笑んでしまう…そんな台詞と主人公の発想がとてもユニークな印象が強いです。物語の展開する場所が、地元仙台なので妙にリアリテイが・・・。 物語中に登場する青葉山の自殺の名所（という言い方も変ですが）近くには動物園やら美術館やら柊がよく訪れる場所があるので比較的よく通り過ぎるのです。その渓谷を降りた場所に歩いていったこともあります。何故かというと…そこで貝の化石が地層内に見えて掘り出すことが出来ると学校の授業で聞いたので、それを堀りに行くためにシャベルを片手に…。でも橋の真下部分に近づくあたりから、折れた傘だとか、片方だけの靴だとか不吉な想像を呼び起こすものがちらほらと見え初めて、怖気づいて元来た道を慌てて引き返したのでした。う～ん。仙台駅の東口も以前はよくシネアートという映画館に通うために地下道をよく通りました。今は道路や駐車場の整備が進んで、以前とは趣が全然違ってきちゃったけれど。その以前の雰囲気で柊はこの小説を読みました。５月中旬に講談社から伊坂幸太郎さんの新刊「チルドレン」が発売になるみたいです。伊坂さんの作品にもだんだん嵌ってきました。 未読の作品が増えるのは嬉しい限りです・・・。

  2004.05.05

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  「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎著　読みました。

  現在と二年前の過去とが交互に、同時進行でえがかれています。過去に起きた出来事に不吉な予感を覚えながらも、それはもう過去の出来事であって変える事は出来ない…そんな歯痒い気持ちがじわじわと湧いてきます。引っ越してきたばかりのアパートで、最初に出会った青年に「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけられる…　　　…といったところから物語ははじまるのだけど、登場人物たちのキャラクターがそれぞれに魅力的であることや、その台詞回しが軽妙で、登場人物たちの「すっとんでる」感じなどがよく出ているところが特に面白かった部分です。ユニークな例えの数々には思わず「ぷぷっ♪」と笑ってしまったくらい。この辺りは実際に読んでみないと伝わらない部分ですね。最初は「どのへんがミステリーなのだろう？普通の青春小説みたい」と思って読み進んでいたのですが、次第次第に危険が満ち満ちてきて先を知ることが怖くなってきます。本当のことが知りたい、という気持ちは主人公と一緒なのでやっぱり同じように追求してしまうんだけども…。過去と現在の両方に使われる言葉の付箋の数々が一本に繋がった時の「ああ！」という気持ちは、ほろ苦い思い出と交わって、とてもいい、です。この小説の舞台が柊の住む場所の近く、仙台なので、登場する場面に実在する場所を頭に描いて読むことが出来たので、とてもリアルでした。あそことか、あそことか、あそことか！！（笑）これからはその場所に行ったら思わず耳を澄ませたり、してしまうかも。小説なのであまり現実味を持たせすぎても不味いのかな…？とも思うし物語の粗筋には全く関係ないことなのですが、でも気になる…部分が一箇所ありました。この小説を読んだ仙台在住の人に確かめてみたい～！！ 長い間、北海道の祖父の下へ滞在していた両親がおみやげにロイズのチョコレートと、「白い恋人」と六花亭のレーズンバターサンドをいっぱいお土産に買ってきてくれました。どれも柊がリクエストしたものです。しばらくはおやつに事欠きません。うくく…。 特にレーズンバターサンドが大好きで、類似品は近くのケーキ屋さんも置いていますがお酒が強すぎて…やっぱり六花亭に限る気がします。最近子供たちも味を覚えてしまい、取り分が減ってしまいました

  2004.04.25

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• 「エンジェル・エンジェル・エンジェル」梨木香歩著　読みました。

  タイトルの可愛らしさとはうらはらに…。現在と過去を行き来する文章には不思議な影がついてまわるよう。春の日差しがあんまりまぶしいので、思わずぎゅうっと目を閉じてしまうように。太陽の光がふと、流れていく雲に隠されて、不安を誘う時のように。人が無垢でいられる時間はあんまりにも短すぎてその憎しみの矛先は時に他人へ、時に自分へ向かう。なんて残酷な一瞬だろう、と思う。そうなったら、もとに戻ることは出来ない。例え長い時間が過ぎ去って、日常の記憶が薄れていこうとも、傷ついた事実だけはより鮮明になって蘇ってくるものなのか。文庫版P147　3行目の台詞に「やられた」みたい。その言葉が聞けたなら、いつか自分を許せる時が来るのかもしれない。

  2004.04.22

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  「ブレイブストーリー」宮部みゆき著　読みました。

  物語が持つ力を信じられる、そしてこの本はとりわけ「力」が強い！と思いました。「本ばかり読んでいたって何にもならない。自分の体で体験しないと駄目だ」と柊は両親や夫に今でも言われ続けてます。もちろんそれは一理あります。頭で想像しただけで結論を出すよりは、体験に基づいた結論の方がいい、ということは…。だけど、それなら、読んでいるうちにじわじわ湧いてくるこの涙は何？異世界を旅するなんて、実際に体験できることじゃない。体は流れる汗を体験してないけど、心は、登場人物たちと一緒にかけがえのないものを得ている。感じているよ！！（…実際の体験も、読書体験もバランスよく…ってことですね。 ）ワタル少年は現実世界で家庭が崩壊していく状況にあり、その運命を変えるために幻界という世界へ旅立ちます。両親との関係、友人関係の問題や未熟な自分と向き合う過程でワタル少年は様々な矛盾にぶつかります。特にぐさり、ときたのは親と子の関係についてでしょうか。親になれば、子供が世界の中心的存在になるのは当たり前のことです。でも、子供は日々成長していく。その一方で子供の人生の脇役みたいな役割を演じているだけの自分の人生に焦りを感じ始めるのは確か。自分の人生は本当にこれでいいのか、後悔しないかどうか、迷う。だけどその選択が子供の心を傷つけることになるのなら…？それは自分でも許せることじゃないはずで…うーん。一つの出来事を色々な立場の人の視線で考えさせ、見せてくれる宮部さんらしさがこのあたり、すごく生きてます。幻界という世界で起きる出来事はゲームの世界に似ています。難問をどうやってクリアしていくか…という具合に。ゲームに馴染みのない柊は、この雰囲気になかなか溶け込めなかったのですが終盤に近づくにつれてワタル少年の心の変化・成長に…ボロボロ泣けてきました。この感覚は、一緒に旅してきた人だけが味わえるもの、です。言葉の力を借りて、不思議な世界を生き生きと想像させてしまう宮部さんこそが物語の扉を開く導師のような存在です。

  2004.04.19

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  「ドッグヴィル」観ました。

  柊がいつも行く映画館は車で五分の距離にあるシネコンですが、「ドッグヴィル」はそこでは上映されない…（涙）調べてみたら、柊の行ったことのない街中の映画館で唯一上映していることがわかったので、電車と地下鉄を乗り継いで観に出かけました。（すっかりシネコンの整備された環境に慣らされてしまい、画面の小ささ、椅子の数が少なくて前に人が座ると画面が見えなくなる映画館にしばし懐かしいものを感じる）「ドッグヴィル」観終わった後…なんて言葉を繋いだらいいのか混乱する。閉塞的な環境で自分より弱い立場にある人間を残忍なほどに追い詰め、負の人間性に対する生理的嫌悪をこれでもかと掻き立てる一方で、自分自身にも同じような怪物が潜んでいるのでは…？と示唆される。他人の価値観、考え方に理解を示すことの出来ない心の狭さや無知。自分の良心に「こんなことはしたくないんだ」と言い訳しながら本能や優越感、快楽に操られていく人々…。閉塞的な村に住む人々に対して嫌悪感を募らせる一方で衝撃的なラストに救いようのない気持ちになる。（でも自分が彼女だったら、彼女の立場に立てたらきっと同じことをする…気がする。少なくとも許すことは出来ないはず。）怖い、残酷すぎる映画。だけど目をそむけることは出来なかった。人間だけが、同じ人間に対して優越感や劣等感を持ったりする。きっかけは小さなことで、自分だって気持ち次第でどちらの立場にもなりうるのだと。駄目だ。なんだかうまく気持ちが言葉にならないみたい。観た後の気持ちが整理されてないから…ですね。きっと。扉を開ける…閉めるといったパントマイムだけが映画が虚構であることを唯一思い出させてくれる。 映画の帰り道、Mr.Childrenの「シフクノオト」を購入しました。「ドッグヴィル」は人間性に対して不信感を募らせるようなメッセージ性が強い映画だったけど、Mr.Childrenの訴えかけてくる詩やメッセージはその対極にあるもので…桜井さんの歌声を聴いていたらとても泣けてきそうです。

  2004.04.07

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  「後巷説百物語」読み終えました。

  京極さんの本を読み終えて、涙がボロボロ出てきたのは初めてです。 ここ何年か柊の涙腺は随分と緩くなってきたなあという自覚もあるし、「これは虚構の物語」と勿論、知ってもいるのだけど…ああ、なんと言えば良いのか…。「後…」と題名にあるように、この物語は後日談であり、又過去の出来事を語ることで構成されています。過去を語る人の口調には、不思議と聞いているほうの姿勢を正すような雰囲気を持っています。語られる事柄は時に陰惨な出来事だったりするのですが、総じて過去の一時、濃密な時間をともに過ごした人への、そして二度と顔をあわせて会うことが叶わぬ人々への哀惜、懐かしさ、愛おしさ、悲しさ、寂しさ…が満ちてきて、切ないです。「自分ひとりをおいて行くな、…」と泣いているような孤独感を感じもします。（勿論、そんな言葉は一言だって出てこないけれど）「赤えいの魚」男鹿半島の突端にある入道崎。その一箇所からのみ見ることが出来るという幻の島が題材になってます。柊は子供の頃、秋田県に住んでいたので、何度となく観光で男鹿半島を訪れた記憶があるのだけど、こういう伝説のようなお話が本当に伝わっていたのかどうか…知りたくて、見てみたくて堪らなくなりました。作品中最も陰惨で残酷な描写が続きますが…京極さんらしい筆致とも言えます…。 「天火」「手負蛇」「山男」「五位の光」様々な怪火現象や、蛇の執念深さを伝える逸話、山男は人か化け物かという問答や、青白く翼を光らせ人に化身する鷺…などの題材を使って現在進行形の事件と対比させるように過去の出来事が語られます。不思議としか思えない怪異の裏にある鮮やかな仕掛けやそれに関わる人々の想いに翻弄されてしまいます。そして…「風の神」「百物語」そのものを題材に取った終章。人にとって過去とは何か、過去を語るとはどういうことか…人にとって怪異・不思議譚はどういう意味を持つのか、など等、読みながら募ってくる思いはとても様々なことでした。それは江戸と明治の時代の境目に語られる物語だからこそ際立つものかもしれないです。御行の又市さん、山猫廻しのおぎんさん、山岡百介さん…虚構の人物ではあるけれど、その印象はとても記憶に鮮やかで、物語の中でさえ遠い過去の出来事として語られるのはその分とても寂しいものでした。 なかなか次の本に取り掛かる…ということが出来ない本です。(余談）それにしても、京極さんの本の最後に紹介されている参考文献の数々に柊は興味惹かれます…。これって柊のような一般人（？）でも目にすることの出来るものなのでしょうか？はふ…。

  2004.03.21

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  「後巷説百物語」京極夏彦著・・・2編読み終えました。

  収録されている作品のうち、「赤えいの魚」「天火」の二編を読み終えました。「巷説…」「続巷説…」と読んできて、「後巷説百物語」では御行の又市さんらのお話が過去の出来事として語られているのが寂しいかな…。…とはいえ不思議譚、怪異譚の類が大好きな柊にはこたえられないお話の数々なのです。「不思議」に終わらず、きっちり始末をつけてくれる辺りはもう中毒といって良いです。 読むときの雰囲気作りも大切（笑）明るい春の日差しの下で読むよりは…夜、枕元の電球のみで、ページをめくる音が部屋に響くぐらいの静寂の中で読むのが良い感じ。（視力の低下には注意！）柊は子供の頃、「早く寝なさい」という親の目を盗み、懐中電灯を布団に持ち込んでは読書に勤しんでいたのですが、あの頃ルブランの「三十棺桶島」などの冒険物をひそひそと楽しんでいたのが…今の自分のルーツなのでしょう（笑）一冊全てを読了するまで、感想は先延ばしすることにして、今日は柊が初めて、京極さんの本を書店で見たときの思い出を書いてみようと思います。当時、柊は本屋さんでアルバイトをしていました。ある時、京極さんのフェアで講談社ノベルスから出ていた本を平積みしていたのですが、おっかなそうな絵の表紙と唖然とする程の厚みとに、とにかくびっくりしたのでした。「果たしてこんな厚い本を買っていく人はいるのか…？どんな人が買っていくのか…？」と興味津々、疑問に思っていたけど、予想に反し？皆さん次々に買って行かれる。当然（？）カバーを頼まれる。本が分厚すぎて通常の折り方では全体カバーするのにぎりぎりの大きさ…（笑）カバー泣かせである。 「皆さん、小さな鞄には本が入りきらなくて持ち帰るのも大変そうだなあ…」と他人事のように眺めてました。柊が実際自分で本をレジに持っていったのは「姑獲鳥の夏」が文庫化されたとき。勿論カバーをお願いし、表紙ぎりぎりのところで折り返されるのを懐かしい思いで眺め、携帯して読むのに難儀しつつも…以降その独特の語り口、作品世界にどっぷりはまってしまったのはいうまでもありません。 懐かしいなあ…。

  2004.03.19

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  研修２日目＋「半身」サラ・ウオーターズ著を読了しました。

  昨日が新しい職場での研修開始日でした。今日は２日目。飲食店での接客、という点では以前の仕事で経験していたのでそんなに戸惑うこともないだろうと思っていましたが…お店によって接客のカラーと言えばよいのか、お客様への考え方などなど「違うものなのね～」と実感させられました。 わかり易くいうならば、以前のお店は先ずマニュアルが重視、という考え方だったのに対し、新しいお店は（基本的なことは押さえた上で）「マニュアルは捨てましょう」という考え方です。以前のお店で自分がいかに接客用語に頼っていたか痛感したというか、これからは「自分が」どう接客したいのかを問われているな、と感じました。お店の新装開店が１０日なのでそんなに時間がない…なかで大量の新メニュー、食器の組み合わせなどなど憶えることが盛りだくさん過ぎて頭が混乱しています～☆ ここからは「半身」を読んでの感想です。「あなたは霊の存在を信じますか？」と問われたなら、柊は当然、「信じません」と答えます。けれど自分にとって万が一大切な人が亡くなった後…その存在を証明するようなものを手に携えてその人の言葉を伝えてくる人があらわれたなら…？理性では「ありえない！」と判っているのに、心はそれに逆らい「信じたい」という方向へ気持ちが向かってしまうのではないでしょうか？これはそんな心理を巧みについてくるミステリー。読後に出てくる言葉はただ一言、「やられた」 です。冒頭のシーンは絵画のようでとても印象的です。“牢獄の薄暗い部屋の中でわずかな日差しを浴びている美しい女性。手にはその場に存在しないはずの菫の花を手にしている”その神秘的なイメージにずるずると引き込まれていくがゆえに、不可思議な出来事が起こっても次第に感覚が麻痺していくのだと思います。「これは現実に起こっていることなのかもしれない」と…。第四章～最終章に至るまでは途中で読むのを休んだり出来ませんでした。この後半の追い上げ、スピード感こそがミステリーを読む醍醐味であり、麻薬のような陶酔をもたらすもの、です。この毒気（？）を抜くためには…どうすれば…？次は返却期限の迫っている島本理生さんの「リトル・バイ・リトル」を読むことにします。

  2004.03.06

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• 「戦場のピアニスト」を観ました。

  戦争を描いた映画を観るのにはかなり、勇気がいる。観たらしばらくは立ち直れないのがわかるから。人間ほど愚かな獣はいない、と思わせる。人間だけが同じ人間を差別し、無意味でもっとも残酷なやり方で殺したりする。「何故？」…こうしている今も世界の何処かで理由も分らず殺されていく人がいることに怖さを感じる。この映画では、シュピルマンという実在したピアニストが悲惨な状況にあっても心に音楽を失わず厳しい逃亡生活を生き抜いたことをえがいている。ショパン、ベートーヴェン…ピアノの音はどんな状況にあっても心を癒してくれるものだと…思っていたかった。この映画には描かれていない、別の事実を知ってしまってからは、心からそう思うことが出来なくなってしまった。NHKのドキュメントだっただろうか。ナチスドイツはもっとも残酷な手段として音楽を利用した。ガス室に送られる人々に陽気な音楽を聴かせること、それを演奏させられたのはもし下手な演奏をすれば自分が今度はガス室に送られる運命にある音楽家の人々…自分がガス室に送られないように、必死で演奏しなければならない人々…。生き延びることは出来ても、その時強要された音楽を耳にするたびに恐ろしい記憶を思い出し、音楽を捨てなければ生きていけない人々がいるのかと思うと…いかなる状況においても音楽は心の糧となりうるとは信じられなくなってしまう。人は人に対し最も残酷なやり方を心得ている。どうか、音楽をそんなことに利用しないで欲しい。いつでも心を慰めたり、励ましたり、元気付けるものであって欲しい。悲惨な状況下で聴くのではなく、平和の中で、家族や大事な人と一緒に聴けるものであって欲しいと心から思う。この戦争でドイツは戦争責任を負っている。日本は…自国の戦争責任をどんな形で負うのだろうと戦争にまつわる映画を観たとき、そして原爆投下の日や終戦記念日にはいつも考えてしまうけど、答えなどでるわけもなく、割り切れない気持ちになってしまう…。偽善的な考えしか出来ないことが一層気持ちを落ち込ませてしまうのです。

  2004.03.04

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  「ライオンハート」恩田陸著　他一冊読了しました。

  「蛇にピアス」金原ひとみ著舌にピアスを入れたり、刺青をしたり…過激な表現に引いてしまいそうにもなるけれど、要は「今の自分を変えたい」という願望がどんどん負の方向へエスカレートしていくとこんな風になっちゃうんだろうと想像します。「手に入れるということは、自分の物であるという事が当たり前になるという事。手に入れる前の興奮や欲求はもうそこにはない。」（本文より）…だから更に激しいものを求めてしまう。それがいい事かどうか、という見方でこの小説を読むのは寂しい。「よくわからない」という感想を持った人はそういう暗い衝動に憑かれる心配がない…と安心できる人かもしれない。柊自身は両耳たぶに一つずつ、最初に穴をあけたときの大きさの（笑）ピアスがあります。これを開けた時、おしゃれがしたいとかそういう希望で開けたんじゃなかった。親から貰った体に傷をつける時、その後の自分の運勢は大きく変わる…という話が頭にあったから。運勢の良い時に開けてはいけない、これ以上悪くなりようがないと思ったときに決断するべき事柄だと。柊にとって精神的に一番しんどかった時に開けたピアス。開ける時には親に承諾を貰い、夫には大反対されたけど今の自分を変える為と強行した。開けたことで何かが変わったかというとやっぱり、何も変わらないんだけどあの時の決意というか、覚悟というかそういう気持ちをピアスに触れるたびに思い出します。（うう…読んでて痛い小説でした。柊は普通のピアスでもう充分です。） 「ライオンハート」恩田陸　著時空を超えて何度もすれ違いを繰り返す恋人同士。何度となく小説や映画で取り上げられてきたモチーフを恩田さんがどんな風に物語ってくれるのか、そんな気持ちで読みました。章ごとに添えられた挿絵にそって独立した短編を読んでいるような、章ごとに切なくて苦しいような結末が用意されているのでなかなか継続して次の章へと進むことが出来ませんでした。結末は知りたいけれど、読み終わるのがもったいなくて、本を閉じて目をつぶってみたりする…そんな小説。恩田さんらしいのは何故、二人がそんな運命を繰り返すのかという理由らしきものがちゃんと用意されていること。柊は「エアハート嬢の到着」「春」の章が一番情緒的で好きです。…それにしても恩田さんはどうしてこんなに書くジャンルの幅が広いんでしょう！余談ながら…何度も生まれ変わってはすれ違う恋人同士という物語で一番最初に触れたのは里中満知子さんの漫画で「海のオーロラ」。ずーっとずーっとまえに読んだのに記憶から褪せることがない、というのはすごい印象が強かった証拠ですね。 今日は柊の仕事納めの日。明日は営業最終日で来週にはお店は取り壊されてしまう…なのに朝起きて、カーテンを開けたら一面、雪で覆われていて感傷もあったものではありません。 雪掻きしなくちゃ！（笑）

  2004.02.07

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