『サイゴン・タンゴ・カフェ』中山可穂著 読みました。
中山さんの文章を読んでいると、何故か途中でページを一度綴じて、わけのわからない哀しい気持ちを解放するため、声を上げて泣いてしまいたくなる。実際にわあわあ泣いたりはもちろん出来ないんだけど…そんな崖っぷちに必死に耐えて文章を追いかけてるような、そんな気持ちになります。前作の『ケッヘル』、後半の展開がどうしても受け付けなくて残念だったのですがこの短編集はなかなか良かったです。初期の頃のそれこそ息詰まるような、刹那的な物語に比べるとすごく落ち着いた雰囲気が漂っているように思えて…。それは今の中山さん自身を反映しているのかなあと思える短編が多いこと、何か大きな山を乗り越えて、落ち着いた雰囲気を醸しだしている風にも感じたからかな。 【目次】(「BOOK」データベースより) 現実との三分間/フーガと神秘/ドブレAの悲しみ/バンドネオンを弾く女/ サイゴン・タンゴ・カフェ 一番好きな作品は「ドブレAの悲しみ」中山さんが描かれる猫って好き。この作品は猫が語っている物語だけど、例え語ってなくても、登場人物に飼われてる一描写に過ぎなくても、中山さんの描く猫って好きです。次は「バンドネオンを弾く女」中山さんの描かれる旅も好き。アジアとかきっと自分には行けないであろう場所を、ばしばし歩いていくタフさとか感じさせてくれて好きです。ここに登場する夫婦の会話(喧嘩)の台詞には何だか笑ってしまった。状況としては笑ってる場合じゃないんだけど。そして「サイゴン・タンゴ・カフェ」小説家と編集者の物語…ってことでつい中山さんご自身を投影して読んでしまいました。『弱法師』に収録されている「卒塔婆小町」が好きなのですが、それを更に更に昇華していくとこんな風な物語になるのかなあ…とか。実際、中山さんを担当されている編集者ってどんな方なんだろう…とか。もしかして、もしかしたら中山さんはこんな余生を望まれているのだろうか、とか…いろいろ想像してしまいました。