「球体の蛇」 道尾秀介
1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。<感想> ★★★★☆17日発表の直木賞に『月と蟹』がノミネートされている道尾秀介さんですが、今回が5度目のノミネートになります。 本書は三度目のノミネート作品です。 さて、トーシローの私が言っても説得力はありませんが、道尾秀介さんは若手作家の中では最も実力があるし、ともすればベストセラー狙いが多い男性作家の中にあって読者に媚びない姿勢も好感が持てます。 ただ、文章上のレトリックや本格ミステリーで必須とされる「整合性」が実力を発揮する上での障害となっているのではないか?と個人的に強く思っています。それを踏まえるなら本書はそれらの呪縛を解き放った作品で、純粋に明確なテーマを持った小説として楽しむことができる作品です。 主人公を取り巻く世界もかなり狭い印象がありますが、作中に度々出てくるスノードームの世界を構築したいと著者が企んだのなら、それは見事に成功しているように思います。 しかし、一見すると楽観的なラストは必要以上に重たく感じてしまいます。 まぁ~それも狙いなんだとは思いますが、そこまで読者がついてこられるかどうかは疑問です。 ミステリー苦手なんだよね・・・・道尾秀介なんて流行ものだろ・・・・とおっしゃる方にあえておススメします。「道尾秀介の魂は、腐っていない。 選評にはならないが、唯一丸をつけた作品に対して、私はそれだけを言っておこうと思う。」なにやら芝居がかっていますが、前回(『光媒の花』)ノミネートされた時の北方謙三さんの選評です。 本書の選評ではありませんが、これだけは書いておこうと思います。(笑)【送料無料】月と蟹価格:1,470円(税込、送料別) 【送料無料】光媒の花価格:1,470円(税込、送料別)