或る男 2003年12月 悪夢への序章
或る男Mと美女Aとの出会いから1ヶ月。何回かデートを重ねながら、イベントの多い12月を迎えた。私にも恋人ができ、Aはもちろん合コン関係とは一切無縁の生活をしていた。Aのドロドロした人間関係に後々振り回されることになるとも知らずに・・・。クリスマスを前に、Aの状況が大きく変わった。本命と思っていた男性からフラれたのである。以前も同じようなことがあった。自分が「本気」になった途端フラれるという痛い経験である。理由はわからない。男性からすると、本気になった彼女は「思っていた女」と違うのかもしれない。あるいはツンケンしたAを手中におさめた瞬間男の征服が満たされたのかもしれない。あとでわかったことだが、いずれもAは二股をかけられていて本命には昇格できなかったらしい。男と女は見えない部分にこそ重みがあると思う。Aの尊敬すべき点は、フラれたくらいでめげないということである。本命がいなくても取り巻き達~尽くすためだけにいる男~が穴を埋めてくれる。クリスマスも、「尽くすためだけにいる男」から選んだ「彼氏」Hと一緒に過ごした。もちろん、食事だけでバイハイである。「他人にお金を使うなんてまっぴら」というAは、プレゼントは当然もらう一方。Hから某高級ブランドのネックレスをもらったが「私の好みをわかってない!」と悪態をついていた。この夜。Hの存在を知らないMは、Aに電話をした。本当ならAと一緒にクリスマスを過ごしたかったが生憎仕事が入ってしまったのだ。同じ空間では過ごせなかったが、彼女の夜を電話で独占したことで「彼氏はいない」という確信につながった。翌日。「Aと朝まで電話で盛り上がったよ。最高のクリスマスだった。派手に遊んでそうに見えたけど思った通り彼氏はいないみたいだね」と私に電話してきた。実はこの時点でAと私の仲はかなり険悪になっていた。Hとの件で絶交されたのである。Hとの件といってもやましいことは一切ない。簡単に言うと、HもM同様、自分とAとの出来事を逐一私に報告してくる人間だった。電話は長い、メールも朝昼晩。私は非常に迷惑だったがはっきりと断れずにいた。悪気がないのがわかっているからである。また、Aに振り回される姿に同情もしていた。頻繁に連絡のつかないAへの不信感を消すために、相談に乗ることも多くなった。余計なことだと思ったが、女の友情として、Aの印象も悪くしないよう陰でサポートしたかったのだ。AにはHとのやりとりのことは一切触れず、黙っていた。なぜならAからすれば非常に面白くない話だからだ。男を介して自分のことが他人に筒抜けになるなんて、とんでもない話である。恐らくAでなくとも不愉快であろう。クリスマスが近づいたある日、Hがうっかり私と連絡をとっていることをAに話してしまった。当然逆鱗に触れ、私は絶交宣言された。そんなこともあり、Mには私に連絡するとうまくいくものもうまくいかなくなると釘をさした。しかし、浮かれている彼にそんな言葉は届かなかったようだ。この忠告の願いも空しく数ヶ月後恐ろしい事態を招くことになる。浮かれたMは「お正月は一緒に温泉に行く約束をしたんだ。彼女が希望している高級温泉旅館をさっそく予約したよ」と嬉しそうに話し続けた。