映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。
今では当たり前となった葬儀の方法も、昔はおっかなびっくりでした。
山田風太郎がそのあたりをうまーく料理した作品です。

明治バベルの塔―万朝報暗号戦
文春文庫
山田風太郎

　チェーン店「牛肉屋いろは」を経営する木村荘平が火葬場を開いた。その新式火葬場に、なかなか客が来ない。まだ火葬は一般的ではなかったのも理由の一つだが、荘平自身もまた、第一号の客にこだわっていた。「有名人の客を取れ！」と檄を飛ばし部下達を叱咤する「いろは大王」こと荘平の首尾やいかに？

　送りだされた7人の従業員達が変装、付け届けなど、それぞれ頭を使ってアプローチするが、周囲の反対や遺言など邪魔が入る。また、すんなりOKの返事がもらえた場合でも、こっちからお断りする場合もあり、本当になかなか決まらない。この様子が、技を繰り出す忍者とそれを撃退する側に見えてくる。 彼等の顧客確保の顛末と、日露戦争にヒートアップする荘平と人々、そして荘平の立志伝中の生涯が3列に並んで語られる。中でも2番目の高揚する人々の描写が、この物語の牽引力となっている。
　洋装の荘平が、「いろは！」「いろは！」と掛け声をかける　俥夫に引かせた人力車にのって大路を行く。さぞや目立った事だろう。この個性的な人物は、同氏の「ラスプーチンが来た」で再登場。

　「旺盛な荘平の精力を受け継ぐ子供はさぞや大変だろう」と思ったが、彼はとっても子沢山。パワーは男13人、女17人に振り分けられた。ちなみに長女栄子は、群ようこ氏著作の「一葉の口紅　曙のリボン」のヒロイン、木村曙である。 「有名人の客」と聞いてぴん！と来た方は鋭い。やっぱり出てくる文学者。 学園ならぬ狙われた相手は斎藤緑雨、ラフカディオ・ハーン、岸田吟香（岸田劉生の父）。中には生きている内から狙われてしまう小村寿太郎なんてのもいる。高橋義夫氏『明治耽奇会』でも登場した福地桜痴。 高橋氏描く所の桜痴と全く違ったイメージで現れた彼が、実は一番の曲者である。
「火葬場について話したい事がある。ついては肉を持ってきてくれ。」
などと言うから、「お客さんゲットのチャーンス！」といそいそと訪ねる社員。しかし彼は、気に障る咳をしながら、自慢話を延々とするばかり。挙句の果てに「火葬場について話したい事」とは、
「そんな事わざわざ貴方に言われなくても。」と一気に脱力させられる
台詞にほかならず。この場面が一番笑えた。
（『いろは大王の火葬場』）

　『明治バベルの塔』で、黒岩涙香の似非ジャーナリズムに冷徹な目を向けていた幸徳秋水を登場させたと思ったら、最後の『四分割秋水伝』で、今度はその秋水を4分割して、また別の顔を見せている。秋水を両表紙にして、『牢屋の坊っちゃん』と『いろは大王の火葬場』が鋏まれた格好に。
作者のあとがきつき。


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