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September 28, 2022
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カテゴリ:山田風太郎
みなさんこんばんは。ヴァイオリニストの佐藤陽子さんが亡くなりましたね。今日から3日間山田風太郎作品を紹介します。

伝馬町から今晩は
山田 風太郎
河出書房新社

はり山風氏って映画好きだ。あれだけ『地の果ての獄』で映画パロディやってたから、そうかなぁと思ってたけど。でも、この作品でジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『舞踏会の手帖』を引き合いに出す、フツー?いや、そりゃあ、粗筋は、重なりますよ。でも、中身の印象ってまるで違うでしょーが。映画では、マリーベル演じる裕福な未亡人が、手帳に書いてある所縁の人を訪ね歩く。舞踏会で踊った人は、皆随分な変わりよう。
「昔を今になすよしもがな」と、鶴岡八幡宮の静御前よろしく、ひとふし舞いたくなる。映画はノスタルジー溢れるけど、この話は恐いよ。ついでに言えば、表紙の長英も恐いよ。

「伝馬町から今晩は」天保10年、蛮社の獄で捕えられた天才蘭学者・高野長英は、終身禁固となる。ところが、弘化元年、伝馬町の出火による囚人の切放しを機に、逃亡を企てた。その後彼は、江戸、広島、名古屋などに縁の者を頼り潜伏、再び江戸に舞い戻る。顔を硝酸で焼き、青山で開業していたが、捕方に囲まれ、最終的に自刃する。凄まじい逃避行である。「今晩は」という極めて普通の挨拶と共にやって来るのは、普通でない長英。極めて自由を渇望した状態にある彼は、昔少なからぬ世話をした者達を訪ねてまわる。相手は、世話になった引け目があり、彼を迎える。しかし囚人がそのまま逃げてしまうと、逃亡幇助で立ち寄った人にも罪が及ぶため、「恩は返したい。でも逃亡の手助けまでは、関わりたくない。」という、痛し痒しの心理。彼等の心理を察してそっと去るマリーベルなら良かったけれど、あいにく彼は、長英。それも牢生活で、極端から極端へ、がらりと人物が変わっていたからさあ大変。かくて、惨憺たる地獄絵が、累々と広がってゆく。

そもそも囚人の最低の善意を信じて行われている行為が切放しなのに、それを逆手に取られると、人間てもの、どこまで信じていいのやら。「からすがね検校」は明和9年の正月に、あわや柳生逆風剣の餌食になる所だった行き倒れの乞食座頭が、辛くも逃れた所から始まる。逆転した立場にある彼等が対峙した時、悲劇が起こる。滅びゆく剣の時代・江戸と、才覚で生き残れる時代・明治の交錯を、対照的な二人を軸に描いた作品。「ヤマトフの逃亡」は、佐久間象山門下にいた立花久米蔵の、並び称された俊才・勝海舟とは対照的な人生を描く。太平洋戦争での日本まで見通しているかのような批判を、ばしばし口にする久米蔵は「早すぎた現代人」。「虐げられたひとびと」である久米蔵を癒すのは、やっぱりあの人しかいない。2作品に共通するキーワードは「世が世なら」。人は時代を選べないけど、時代は人を選ぶのか。
解説縄田一男。他収録作「芍薬屋夫人」「獣人の獄」は『怪異投込寺』にも収録。


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最終更新日  September 28, 2022 12:00:28 AM
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