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みなさんこんばんは。大相撲の東横綱照ノ富士（３１）＝本名杉野森正山、モンゴル出身、伊勢ケ浜部屋＝が日本相撲協会に「腰椎椎間板ヘルニアなどで１カ月間の安静加療を要す」との診断書を提出して休場し、今場所は横綱不在となりましたね。
今日は山田風太郎の短編集を紹介します。

虚像淫楽
山田　風太郎
国書刊行会

名探偵に憧れる一方で、「人間なんだから、彼等だってどこかでミスを犯すだろう」という思いも強い。だから、ポアロ、ホームズ、金田一耕助、伊集院大助…どのシリーズを読んでも、一つくらいはと失敗談を探してしまう。そして思う。あの皮肉屋の山風ならば、きっととっておきを書いてくれるだろう、と。

　さて、頃は1901年、所はロンドン。名探偵の誉れ高いシャーロック・ホームズは、親友にして記述者のワトソンと共に、知人であるアイルランド人のクレイグ博士を訪ねた。そこで彼が出逢ったのは、先客として博士を訪ねて来ていた日本人。彼は顔色が青くなり、話中にうなり声を上げて出ていってしまうなど不審な動きを見せる。折から、博士の隣人が失踪する事件が起き、ホームズはお得意の推理で真相に迫っていくのだが。

　ホームズが観察力で次々と隣人の使用人の過去を暴いていく様子は、お馴染みのホームズファンならニヤリとする所だろう。ところが、「支那人らしいね」「いや、日本人ですよ」と、この日本人は出逢いがしらに彼の御自慢の推理を否定する。そして、あろう事か、ホームズが一件落着とまとめてしまった事件の意外な真相を、無名の彼が探り当ててしまう。「日本って印度の中にあるんですってね。」と言う台詞に見られる東洋に関する無恥、そして無意識の蔑みを、彼一人で覆す、この痛快さに喝采を送る。なるほど、この顛末ならば、ホームズが決して語ろうとすまいから、今まで伝わらなかったとしても、無理はない。敢えてこの東洋人の名は秘するが、山風作品に何度も登場しているお馴染みの人物である事だけ、言い添えておく。

　戦前恋心を抱いた女学生に似た女と偶然再会した男が、光と影の交錯する中で知る、外見と内面、二つの美醜をテーマにした「黒衣の聖母」、御陵盗掘を企てた野盗達が地の底で見た怪奇を描いた「みささぎ盗賊」、美貌の盗賊アングリマーラ（全くこのネーミングって…）と釈迦の出逢いを描く「蓮華盗賊」(共に『山屋敷秘図』収録)、「眼中の悪魔」探偵作家クラブ賞を受賞した「虚像淫楽」、死者からの手紙に仕掛けられた完全犯罪計画「死者の呼び声」、中国の古典に材をとった『妖異金瓶梅』シリーズから「赤い靴」「変化牡丹」を収録。解説松山巌。


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