凧揚げの思い出(懺悔)
寒い冬の日、その凧は落ちていく夕日に向かって、誇らしげに少し腰を振って見せた。確かに凧は夕日よりも高いところにいた。小さな凧のくせに・・・な・ま・い・き・・・糸は、ゆっくりと弧を描き、垂れ下がって、強く引っ張られブーンというゆるい音を立てて、自己主張していた。幼い子どもの目には、小さな凧は豆粒ほどに見え、それはそれは高く、糸はどこまでも長~く長~く、果てしなく続くように感じられた!天まで届く・・・とは、こういうことか!!羨ましかった。子どものおもちゃ!?として売られているちんけな台紙の糸巻きに巻いた凧糸を、ふたつやみっつ繋げたようなちゃちなもんじゃないんだ!二歳年上の少年は、プロの凧揚げ職人のように見えた!!糸を操る動作の鮮やかなこと!!!とても眩しかった!!!!そんな少年が、用を足す必要があったのだろうか?凧糸まわしを護美箱の取っ手にしっかりと止め、指差し確認の仕種をして急いで家の中に入って行った。魔が差したというのだろうか!?千載一遇の機会と見たか、幼い子どもは迷うことなく凧糸まわしを手にとって自分も職人の仲間入りをしようとした。その途端、するするすると糸は流れ、あっという間に手から離れて行った!それは、幼い子どもの想像を超えた強い力であり、簡単に支えられるようなものではなかった。風に乗って、遠く北アルプスの連峰目指してて飛んでゆく凧!それを追いかける少年と幼い子ども。夕陽が眩しい!幼い子どもは、自分がやったと白状することもなく、少年も咎めたてすることもなく、共に泣きながらひたすら走り続けた。二人は、いつまでも凧が見えなくなるまで追いかけ続けるのだった。