「涙のタトゥー」ギャレット・フレイマン=ウェア著 感想
●読んだ本●「涙のタトゥー」ギャレット・フレイマン=ウェア著ないとう ふみこ訳 POPLAR涙のタトゥーを顔にいれた少年と出会い、変わりはじめる15歳の少女ソフィーを描く、喪失と再生の物語。■あらすじ(素晴らしいので訳者あとがきより抜粋)ソフィーは、ニューヨークの私立高校に通う十五歳の女の子。二年半前に最愛の弟を病気で失い、さらに両親も離婚。今も心の傷をかかえたまま、ひたすら勉強に打ち込む日々を送っています。そんな彼女の前に現れたのが、母を亡くして頬に涙のタトゥーを入れた十七歳の少年、フランシス。ソフィーがタトゥーに惹きつけられて、ついちらちらと盗み見ていると、フランシスは、いきなりソフィーの手を取って自分のタトゥーに押し当て、彼女をどぎまぎさせます。少し風変わりだけれど、自然体で、思いやりのあるフランシスは、固い殻をかぶったソフィーの心のなかにするりと入り込み、そのしこりを徐々にときほぐしてゆきます。ヤングアダルトでのデビュー作である本書は米国の児童書書評誌(BCCB)によって、2,000年度のブルーリボン賞に選定されています。■感想(前半は私なりのあらすじ)8歳の弟を失くしてから二年半、弟の記憶が薄れて行く事を恐れてソフィーは一日二回弟を思い出すのを日課としていた。いつまでも変わらない弟がいるのに自分だけがどんどん変わって行く事が罪に感じられソフィーは二年半前の自分を保とうと男子から交際を申し込まれても断り続け12歳だった自分を続けていこうと頑なに自分の変化を拒絶していた。母と離婚した父は自分中心で弟のエアハートが6歳で発病してから仕事を増やして留守が多くなり、浮気までした。ソフィーはいつまでも父を許す事が出来ない。ソフィーがエアハートの部屋を使うようになっても広くなったアパートと母の淋しさを埋める事は出来ない。ソフィーの家族は2年半経っても姉を含めて4人共エアハートの死を受け入れる事が出来なかった。でもフランシスは8歳で亡くした母の死を父と共に受け入れるために母の骨を散骨した祖母の庭に毎週行き母といつもいられるようにと左目の下に自分の瞳の色と同じ緑色の涙をタトゥーにしてした。ソフィーの家での「普通」をフランシスが静かに変えて行く様子がとても暖かくて優しさに満ちていて人との関わりのありがたさに感謝する思いが湧いた。フランシスがいつも自然体できっと自己一致が出来ているからだろうと思う。ソフィーは弟の死と父の浮気と両親の離婚を乗り越えるために沢山の縛りを自分の中に築いて行った。ああ、ソフィーの気持ちが良く解る。12歳の少女が自分を守るために必死で壁を作り上げたのだ。そしてキリキリと己を縛りながら変化を拒絶して生きていた。フランシスの優しさや自然体がそれを溶かして行く様が、毎日のちょっとした出来事の積み重ねの中でソフィーによって語られて行く。人の傷は優しさで溶かせるんだなぁと優しく切ない気持ちになった。健気なソフィーが痛ましいくらいだった。傷付いた人は周りの人からは見えない所で頑張っているんだよね。家族を失う辛さを乗り越えるのは簡単には出来なくて逃げる事が出来なくて悲しみも苦しさも今を受け入れる事から始まるのかもしれないと思った。秀逸な作品ですごく久しぶりに一気読みした。良い話を読んだとうれしい気持ちが残った。久々のヤングアダルトだったが素晴らしい一冊に出会えた。母の死を乗り越えていない私にとってヒントになる優しい本だった。訳者の方のあとがきも秀逸で、あとがきに書いてある感想などはこの話の総てを語っていると感じてこの話がこんなにも読みやすいのは翻訳家さんの力量もあっての事だと思った。素晴らしい小説に素晴らしい翻訳家さん。忘れられない一冊になった。二作目の「マイ・ハートビート」は優れたヤングアダルト作品に贈られるマイケル・L・プリンツ賞のオナー賞を受賞しているそうなので是非、二作目も読みたいと思った。●カバーイラストを描いている 丹地陽子 ( Yoko Tanji )さんのサイト不思議な世界観が漂う素敵なイラストが見れます♪