カテゴリ:法律いろいろ
児童に対し,経済的虐待と呼ばれる虐待…児童の財産を奪ったり、あるいは管理を全くせずに子に財産的な損害を与えてしまう虐待が行われることがあります。
こうした児童に対する経済的虐待は、非常に深刻なものがあります。 家庭内の事な上、児童に財産についての意識などほとんど望めないし、学校や近所の目で分かる可能性がほとんどないため気づかれにくく、気が付いたときには児童には財産がないどころか借金まで負わされ、若くして何が何だか分からないまま親のせいで破産するしかないという事態になることもあります。 殴る蹴る熱湯を浴びせるといった直接的な暴力のように一刻を争うという訳ではないかもしれませんが、児童の将来に非常に大きな悪影響を及ぼすことは間違いありません。 学業や独り立ちをしようにも先立つ財産がない、学業を修めていないため就職などにも難儀するという問題はもちろん、自らの努力して得たバイト代などを収奪されたことが分かれば、それは努力の否定となり児童の精神にも重大な悪影響があることは容易に察することができます。 毒親被害体験談でも、親が子のために金銭を使わず、それどころか子に入ってきた財産を巻き上げたり捨てたりと言った例が上がります。 しかし、児童虐待の防止等に関する法律、略して児童虐待防止法第二条上の定義を見ると…
以上4つのみが挙げられており、子の財産を巻き上げる、あるいは子の財産管理が放漫で結果児童に多大な負担を負わせるという経済的虐待は全く記載がありません。 収奪の精神的悪影響で精神的虐待というようなこじつけはもしかしたらできるかもしれませんが、せいぜいその程度です。高校生相手のバイト代巻き上げならともかく、相続財産巻き上げなどだとそもそも子ども自身に財産を奪われているという認識がないので精神方面は特に問題ない可能性もあり得ます。 「ちびまる子ちゃん」なんかでも、お年玉を預かられるのはいいとしてそのお金の話をしようとしたら電話をぷつんと切られるというような話がありましたが、これが本当ならアウトと言わざるを得ません。 (同作の作風と言えばそれまでですが、まる子の親はNHK代金をモノクロでごまかしたりなんかも告発されていたりして結構黒いです) 高齢者の虐待については、財産の収奪を行う経済的虐待が立派に虐待として定義づけられている(高齢者虐待防止法2条4項2号、同条5項ホ)のに、どうしたことでしょうか。 以下は私の推測ですが、児童虐待の定義に財産の収奪・管理懈怠がない理由として
と言ったあたりが原因なのではないかと推測します。 しかし、子役や相続の例を挙げた通り、子に財産がない、と決めつけるのは早計です。 親から親権を奪うとなれば、当然親権者として不適切であるという証拠をそれなりに集めなければなりません。強制的な調査権もないのに家庭内という密室で起こるそれを調査するのは非常に大変で、まして児相でも虐待として扱えないとなると非常に厳しくなります。 当然子自身に親から自分の財産を守る能力など期待することは不可能です。弁護士相談しようなんて考えもしないでしょうし、仮に弁護士に相談された所で「親権だ」と言い張られると裁判で勝つのは至難の可能性が高くなります。 親からの相談、例えばギャンブルに金を使いすぎて破産せざるを得ず、その際に子の金を使いまくったことを白状したようなケースなどでも、これが児童虐待に当たるなら弁護士でも守秘義務をぶっちぎって通告できます(児童虐待防止法6条)が、経済的虐待が児童虐待に含まれないとなると、児相に通告すると守秘義務違反になってしまう可能性もあり、児相に通報しようにもできないことがありえます。 こうした障害を乗り越えて仮に調査し、親による使い込みなどが判明したとして、財産管理に問題があるからと言って親から引きはがすのは副作用があまりに強く、強く踏み切れない場合が多いでしょう。被害者意識のない児童からすれば、介入者の方が敵に見えてくるでしょう。 親以外に財産を管理する未成年者後見人をつけようにも、子に財産がある場合は報酬を払わなければならず、子の財産という視点からも得かどうかという問題があります。 子に財産がないのに後見人ともなれば最悪後見人がボランティア仕事をすることになります。(実際この手の後見は先立つ費用の問題でボランティア後見になりやすく、頼んだ裁判所や弁護士会も、別途ある程度報酬的においしそうな仕事を優先的に回すことで引き受け手の確保に努めるという話もあります。) 更に、親が子の財産を収奪したとしても、窃盗や詐欺・横領・恐喝であれば親族相盗例(刑法244条など)として刑を免除されてしまいます。 刑の免除は無罪ではないのですが、捜査が全面的に成功裏に終わってさえ処罰がないのが分かり切っている状態では警察も動くことは困難です。 更に親だということを信じ、親が正当に代理していると信じて取引をした相手方に損をさせる訳にはいかないので、親の収奪を分かってて取引したというのでもない限り、取引そのものは無効になってくれず、子は親の取引相手から正当に財産を奪われます。 その場合は親への責任追及で対応する外なく、当然そんな親が金銭を持っている訳もないので取られ損に終わることもあります。 児童に対する経済的虐待は確かに件数としてはそんなに多くないかもしれませんが、一度起きてしまった場合に非常に深刻なことになりやすいという性質を持っていると思います。 もちろん、親の側にも事情がある場合も多いと思います。 どうしても親に収入がないので子の財産を使わざるを得ないケース、子のための投資として十分正当な範囲のものもあるでしょう。そういう事情であると分かれば、虐待として扱う必要まではないでしょうし、場合によっては親の就職などの支援につながるかもしれません。 障害があるなどの原因で、暴力などは一切振るわないが財産管理という観点だけはもうどうしようもないレベルでダメという親もいると思います。障害が原因ではどれだけ叱ろうと無意味ですから、これも後見などの支援につなげることで解決すべきものです。 ただ、それも虐待疑惑として一旦白日の下にさらさないと本当か分からないのです。 こうした諸問題から、「児童虐待には経済的虐待を含めるよう法改正を行う」ことを私は強く望みます。 なお、大阪府など条例レベルではこうした経済的虐待を児童虐待に含めている例もあります。 (大阪府子供を虐待から守る条例2条3号) ついでと言っては何ですが、親族間の窃盗や横領などを不処罰にする親族相盗例も、廃止の方向で考えるべきではないかと思います。 また、銀行の子ども口座から使い込み目的で下ろした場合、形式的な被害者は銀行となって親族相盗例の適用はありません。法改正がなされるまでの間はこうした手法による経済的虐待について厳格運用していくことでつないでいくことが必要であろうと思います。 (家庭内では財産の帰属があいまいになりやすく、その中で踏み越えたような場合を一定程度救済する規定も必要だとは思いますが) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年10月01日 21時00分05秒
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