『もう抗生物質では治らない』マイケル・シュナイアソン
昔、エボラ出血熱か何かを題材にしたパニック映画があったと思うのですが(タイトル失念。夫のヒトと一緒の国際線の中で見た記憶があるので、たぶん、10年くらい前の映画)、その映画を彷彿とさせるような内容の本です。でも、こっちは実話。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やヴァンコマイシン耐性腸球菌フェシウム(VRE)などが取り上げられており、現在、これらに特効薬はありませんので、読んでいて本当に恐くなります。一応、MRSAやVREに効く抗生物質は研究されていて、ある程度効果のあるものがアメリカなどでは承認されているのですが、今の状況だと、黄色ブドウ球菌や腸球菌がそれらの抗生物質に耐性を獲得するのは時間の問題……のようです。さらには、今まであまり恐れられていなかった、連鎖球菌も抗生物質に対する耐性を獲得し始め、さらに、毒性も強くなってきているようです。これらの細菌に対抗するために、「ファージ」というウィルスが研究されていますが、薬としてはなかなか承認が降りないようです。この本の中で、ファージは唯一希望の光のように思えます。細菌によって人間は病気になる。その、細菌に対抗するために抗生物質を使う。一時的に細菌をやっつけることはできるけど、その細菌を絶滅させることは出来ないから、ある時期が来ると、細菌は抗生物質に対する耐性を獲得して復活する。その繰り返し。抗生物質は、私たちが病気をしたときに処方される薬の中に入っているだけでなく、家畜の成長促進剤としても使われています。そのため、家畜の中で耐性菌ができ、それが人間に感染する細菌に抗生物質耐性の遺伝子を渡したりしています。人間に使われる抗生物質と家畜に使われる抗生物質は同じものではありませんが、似ているものはあって、そのために、家畜への抗生物質の使用は多剤耐性菌の発生に一役買っているわけです。MRSAもVREも日本ではまだ市中で流行するような事態にはなっていませんが、遅かれ速かれ……という気もします。細菌も、生態系の一部を構成していることを考えると、本当は、私たちは細菌との共生を考えていかなければならないのではないでしょうかね。誰も、病気になったらあきらめて死を待つことにしようなんて思えないでしょうから、抗生物質の使用は仕方ないのかもしれませんが、そういう考えからの今までの乱用が、現在ののっぴきならない状況を作り出していると考えると、ちょっとやそっとのことで抗生物質を服用するのはやめて、人間が本来持っている治癒力を信じても良いのではないでしょうか?