「森永ビスケット・マンナ」
いつも突然おふくろはボクのところにやってくる。 「夕方そっちに寄るから」と電話で勝手に時間を設定すると父親と二人でドカドカとボクのマンションに上がり込んでくるのだ。 おふくろ手製の弁当と少々の果物を差し入れてくれるのだが決まってお菓子を少しばかり持ってきてくれる。 「これ美味いから食ってみ」何年経ってもおふくろはボクを子供のように扱うのだ。 定番はもっぱら「でん六豆」なのだが時折り「ひとくち羊羹」や「大福餅」抱えてくるとものすごく嬉しかったりする。 「野菜を摂らないと」「それから中国産の食べ物は絶対に買ってはダメだから」いつものおせっかいなおふくろのセリフにうんざりするけれど最近のボクはその言葉に何故か安心したりする。 先日、おふくろは「でん六豆」でも「大福餅」でも「プリン」でもなく何故か「森永ビスケット・マンナ」を持ってきた。 「なんだよこれは?」 するとおふくろは森永マンナの講釈が始まった。 マンナの語源…旧約聖書にある“神が荒野をさまよえる民に与え給うた愛の食べ物”manna<マナ>にちなんでいるらしい。 マンナの歴史…マンナは1930年6月5日生まれ。今年で78周年になる安心ブランドらしい。 ボクのおふくろは信仰歴65年のクリスチャンだ。 目を輝かせて森永マンナの栄養の素晴らしさを語るおふくろは無敵だ。 確かにボクは何度もおふくろに反発したし世の荒波や思い煩いに挫けた。 しかしこうして生き続けられたことには少なからずおふくろの背後の祈りに助けられたと確信している。 「これって赤ちゃんのビスケットだべ?」 「いいから美味いから食ってみ」 一粒食べたがちっとも甘くない。不味くはないけど やっぱり幼児の食べ物だな。こりゃ