カテゴリ:エッセイ
四月二十日、孫のナツキが四国で結婚式を挙げた。場所は高松港からフェリーで約二十分の女木島の海岸である。新郎は高松高専の同期生ということで、学生時代の二人の共通の友人を中心に両家の親族など三十数人が参列した。 式は露天の浜辺だというので天気を心配したが、どうやら天が味方してくれたようで現地の天候は薄曇りであった。空にはトンビがピーヒョロと舞って、都会を離れた島にふさわしくゆったりとした時間の流れを感じた。 浜辺にはサッカーのゴールポストのような白い角材のゲートが海に向かって組んであり、その前に人数分の折りたたみのパイプ椅子が並んでいる。道路を挟んだゲストハウスの庭には白いテーブルがセットされて披露宴の準備も整っている。テーブルの花も山野草のような素朴なもので好感が持てる。 八十歳を過ぎると結婚式にはあまり縁がない。子どもたちの結婚、甥や姪たちの結婚も今はもう昔の話、というわけで久しぶりの結婚式体験であった。 ナツキは昨秋に前撮りを行い、すでに入籍も済ませ、そして今回の結婚式、新婚旅行はまた後日という具合で、何もかも一緒に行った自分たちの結婚とは様変わりを感じた。 前撮りには興味があって、和装で撮る京都の寺院から洋装の琵琶湖岸まで、カミさん、娘夫婦と同行して、なるほどこれが前撮りというのかと納得した。同時に場所や小物の選定について、ナツキの強いこだわりを感じた。彼女にはこういう一面があったのかと新たな発見であった。これは今回の結婚式当日のウエルカムボードやリボンワンズを手作りしたことからも再確認できた。 披露宴の最後に浜辺での相撲大会があったのには驚いた。相撲はトーナメントで、優勝者と優勝予想が的中した人に豪華賞品が当たるというのである。もっとも、ナツキは横綱照ノ富士後援会のプレミアム会員だというくらいの相撲好きなのだから驚くこともないのかもしれない。出場者はあらかじめ決まっていた高専の男子同級生の他に、飛び込み歓迎とあってムコドノが参戦したので応援にも力が入った。 こんな具合で式は予定通り無事に終了、十七時二十分発の最終フェリーに乗船すべく港に向かった。乗船間際に、息子が元妻のヒデ子さんに近づいて何やら話しかけている姿が目に入った。おそらく離婚して以来、会話は初めてのことであろう、あとでカミさんから聞いたところによると二人の子どもを育ててくれたお礼の言葉であったらしい。この光景を見て、長年胸につかえていたものがストンと消えて安堵の思いを抱いたことであった。このことはボクにとって当日の望外な収穫であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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