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カテゴリ:心理学
上司に必要な能力 私は上に立つ者の大切な資質は、控えめで勤勉なものがそれなりに報われるようにすることだと思っている。その場その場を無原則におさめていこうとするようなリーダーは、まず間違いなくこの控えめで勤勉な温和な人を犠牲にする。 リーダーがただただその場をうまくおさめておこうとすれば、どうしたってこの少し堅苦しいけれど良心的な人に不公平に負担を背負ってもらって、集団の問題を解決していくことにならざるを得ない。 そしておかしなことに、ある不公平に負担をいったん背負うと、なんとなく皆はそれが当たり前と感じ始めてしまうのである。もともと堅苦しくて良心的で勤勉な人というのは、普通の人よりはいつも不安な緊張があるから疲れやすい。 大声で騒ぐエゴイストの方がよほど疲れていない。それなのに疲れていて、しかも疲れやすい敏感性性格的な人に負担はどんどんかかっていく。そしていま述べたとおり、いったんそのようになってしまうと、今度はその人が、疲れや仕事上の負担の軽減を訴えても、だれも耳を貸さないのである。たいてい訴の必死の訴えは無視される。 優れた上司、すぐれたリーダーというのは、実はこの訴えをきちんと聞いてあげることができる人なのである。周囲の同僚や部下には分からなくても、きちんとそのようなことがわかるというのが上司、リーダーの資質である。 それにしても、このように上役として、上に立つ者として極めて重要な資質を欠いているリーダーの、なんと多いことであろうか。不公平に負担を背負わされ、疲労困憊し、怒りやすくなれば、「あいつはすぐに怒る」「あいつはなんかいつもイライラしているな」と評判が悪くなる。 過重な労働を不公平にさせられて、訴えを無視されて、神経がおかしくなったあげくに、「あいつは仕事ができない」ということで、放り出されたり、実際に追いやられる、そして温和に見えても、心の中では、冷たいエゴイストよりは、そのことで深く傷ついている。 出世できなかったことで上司を憎んで、悪口を言って歩ける発揚性性格的な人はまだいい。このクレッチマーの言う発揚性性格については、後に述べる。 敏感性性格的な人は、このことを不満に思っても、会社内で上司の悪口も言えない。いや仲間と一緒に飲みながら、その上司や同僚をぼろくそにけなすこともできない。 いやむしろそのことを、自分の能力不足と受け止めるような生真面目さがある。しかしこの人は完全に倫理的な人ではないので、そのように思いこもうとしたって思いこめるものでもない。 この人だって職業上の名誉は欲しいし、お金も欲しい。その点では大声を出して騒ぐエゴイストと同じことである。それなのにエゴイストに負けてしまう。エゴイストのように威勢よく自分の利己的なことだけを平気で主張できない。 そのような主張にはどうしても良心の呵責を感じてしまう。そして自分の主張を引っ込める。あるいはひっこめさせられる。「彼の利益を優先します」と言われて、自分の利益を手放す。その時心の中の奥深い領域で、「それでは俺の利益はどうなるんだ」と叫ぶ。しかしその叫び声は、彼を含めて誰にも聞こえない。ほんとうを言えば、その声を聞ける能力こそ、上司に必要な能力なのである。もしそのような上司八百屋が日本にたくさんいれば、それに正比例して、「恨めしや」と言って出てくるお化けは、日本に少なくなるのではなかろうか。 【「くやしさ」の心理】加藤諦三著/三笠書房 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 11, 2023 05:09:48 AM
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