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カテゴリ:紙上セミナー
生き抜く力を引き出すために 関西ドクター部女性部長 井上 愛 [プロフィル]いのうえ・めぐむ 私立病院で血液内科医として勤務。医学博士。1966年(昭和41年)入会。大阪市在住。支部副女性部長。
抜苦与楽の医療で希望を育む 白血病など、いわゆる〝血液のがん〟を専門にしています。 近年、著名なスポーツ選手が白血病を公表し、闘病の様子や、競技に復帰した雄姿に感動が広がりました。ご本人の努力や周囲の支えも大変だったと思います。 現在、血液のがんに対する、抗がん剤の進歩はめざましく、副作用が軽減し、救える命も増えてきています。 それでも、悪性リンパ腫や、多発性骨髄腫の場合は、体が痛くて動けないことも少なくありません。そうした患者さんが、死の不安にさいなまれながらも懸命に治療に励み、やがて自ら動けるまで回復する。こうした姿に触れるたびに、この仕事を選んで本当に良かったと思い胸がいっぱいになります。
色心不二 医師として駆け出しの頃、30代の女性が慢性骨髄性白血病で亡くなりました。小学生のお子さんを残して。ご本人とご家族の心痛を思うと、胸が締め付けられました。 〝病気で悲しい思いをする人を一人でもなくしたい〟――仕事に熱が入りました。 妙法を持つ医師として、大切にしている視点があります。それは、〝病気を治すことと、患者の苦しみを癒すこととは違う〟ということです。 病を抱えている方は、雑木や身体の病的変化だけに苦しんでいるのではありません。 〝家族の負担にならないだろうか〟〝仕事をしながら、通院が続けられるだろうか〟 病気が治ったとしても、生活や将来の不安まで解消されるとは限りません。だからこそ、病を抱える「人」に焦点を当てて、あたたかく寄り添うことを心がけています。 仏法では「色心不二」という法理を説いています。身体(色法)と心の働き(心法)が、互いに密接に影響し合っているということです。身体と心の働きが別々に見えても、生命の次元では「不二」、つまり一体であるという意味です。 患者さんが希望を見いだせているのか――その〝心音〟に耳を傾けることが、医師の大切な振る舞いだと思います。 特に、私が受け持つ患者さんは、高齢で一人暮らしの方が多く、社会とのつながりが少ない孤立傾向にあります。孤立は、喫煙や過度な飲酒、肥満よりも死亡リスクを高めるといわれています。 そうした患者さんが抱く寂しさやストレスを、少しでも和らげようと、他の診療科にも積極的に協力を呼びかけ、総合的なケアを目指しています。 コロナカで人との関わりが疎遠になりがちな今こそ、私たち医師には〝おせっかい〟なふれあいが大切だと感じます。関西女性部の気質といえるかもしれません。困っている方を目にすると、ついつい気になってしまうのです。 病に苦しむ一人一人に寄り添い、励まし、一歩前に踏み出せるよう、仏法が説く「抜苦与楽(苦を抜き楽を与える)の心で、慈悲の医療を提供することが、私たちドクター部の使命なのです。
病の意味を転換 11年前の春、父から一本の電話が。ステージ2の大腸がんを告げられたとのこと。幸い、早期発見で済みましたが、その4年後、転移が判明したのです。ステージ4の腹膜播種――ハッと息を飲みました。 腹膜播種は、がん細胞が雑木の壁を突き破って、まるで種がまかれるように腹膜に広がっていく、治療が難しいがんです。 ところが、父も母も動揺する様子はいっさいなく、泰然自若としていました。娘としては、長年、信心を貫いてきた両親の心の強さを尊敬しつつも、深刻さが分かる医師としては葛藤を隠せません。患者の家族は、こんなにも不安なのかと知りました。 父の主治医を信頼し、家族全員で真剣に唱題を唱え抜きました。 その後、手術は成功し、驚くほど経過も良好です。85歳になった父は今、シルバー人材センターに登録して働き、はつらつと学会活動にも励んでいます。 これまで、父のように、「このタイミングで見つかってよかった」と、大病を前向きに受け止める学会の同志に何人も出会ってきました。 こうした闘病体験を通して、「南無妙法蓮華経は師子吼のごとし、いかなる病さわりをなすべきや」(新1633・全1124)の一節が胸に迫ってきます。 病を患ったことに意味を見いだし、人生を歩み活力に転じていく。そうした時、病そのものは、決して幸福を妨げる存在ではなくなります。病の意味を転換する、仏法思想は〝希望の源泉〟であると確信します。 希望を抱ける患者さんは、明らかに病状を上手にコントロールできる傾向にあります。 池田先生は、「ドクター部員一人は、一万人の希望に通ずる。そういう医師になっていただきたい」と期待を寄せられました。 これからも、患者さんの生き抜く力を引き出せる医師になれるよう、全力を尽くしていきます。
視点 賢明な生活 日蓮大聖人は、天台大師の『魔訶止観』を引かれ、病気の原因をいくつか記されています(新1359・全1009)。この中で、偏った食生活を「飲食の節ならざる故」と、生活リズムの乱れによる運動不足や体のさまざまな変調などを「坐禅の調わざる故」と、挙げられています。 あくまでも医師は、治療方針を立てる存在です。どこまでも、健康は自ら勝ち取っていくものです。池田先生は、「自分自身が自分の〝医師〟」と語っています。 ちまたには健康に関する情報があふれています。真偽が不明で、道理に反した説に惑わせることなく、唱題根本に聡明に生活のリズムを整えていきましょう。
【紙上セミナー「仏法思想の輝き」】聖教新聞2023.1.17 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
April 20, 2024 05:37:15 AM
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