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May 12, 2024
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カテゴリ:書評

迫りくる核リスク<核抑止>を解体する

吉田 文彦著

 

「地球と人類の安全保障」を構想する

NPO法人ピースデポ特別顧問  梅林 宏道 評

本書の「はじめに」で述べられているように、本書に込められている著者の意図は明白である。

「核使用の脅しで相手の核使用を封じる『恐怖の均衡』で平和の維持を図る核抑止の考え方は、…現実味を欠く」と述べ、

「核兵器は存在する限り使われるのであり、人間と核兵器は共存できない」という被爆者の訴えに、著者は共感する。その立場から、著者は「核抑止」の考え方や政策の中身を解剖しつつ、解体させ、「核兵器のない世界」への道を探る。

実際には、著者にはもう一つの譲れない目標がある。それは「長崎を最後の被爆地にする」ことである。

「…核廃絶は、核使用がないままの核廃絶でなければならず、…長崎が最期の被爆地であり続ける必要がある。」つまり、著者は、核抑止に依存する世界は、意図的であるか否かに関わらず核爆発に至る危険にさらされ続けていることを丁寧に読者に知らせつつ、いっぽうで、それを起こさせない。「発明」を促しながら核兵器廃絶の道を探る。

核抑止の実態を解剖する著作はこれまでも少なくない。本書の特色として述べておきたいのは、著者が「新興リスクの台頭」という章で紹介している新しいリスクである。そこには、近年、新しい軍事ドキュメントとして日本政府に強調するサイバー空間と宇宙空間が核抑止システムにかかわることによって発生するリスクや、人工頭脳(AI)ガスステムの意思決定過程に介入するリスクが論じられている。

核抑止を解剖する作業よりも解体のプロセスを論じることのほうが困難であることは読者も容易に想像できるであろう。しかも、解体のプロセスで核兵器が使用される事態を招いてはならない。このようなプロセスを考察するに当たっては、実際に核抑止政策の近くに身を置きつつ核軍事管理を論じている専門家の意見が参考になるであろう。おそらく、そのような事情から米欧の軍備管理論者の知見が多く紹介されるのも、本書の特色の一つになっている。たとえば、タカ派でもハト派でもなく、その中間にいる「フクロウ派」によって取り組まれている核リスク低減を推進する「正しい抑止力」のアプローチが紹介され、著者は、一定の共感を得る」と予想している。

読者は読み進むなかで方向を見失わないで欲しい。著者が別のところで説明しているように、「フクロウ派の勢力の商会は「核抑止の退場をうながす試みではない。…核抑止の遺児を念頭においたもの」という理解を前提に、かど的な効用を述べたものにすぎない。

核抑止を解体し退場させる著者の戦略は遠大である。核禁止条約は直接的には「すべての人類の安全保障」の考え方に依処している。しかし、そこに内包されている「地球と人類の安全保障」という考え方への転換が重要であると著者は訴える。そうすることによって、核兵器、気候変動、パンデミックなどが一つの大きな共通の安全保障の目標となる。

ここには、私たち市民一人ひとりが自分ごととして核兵器廃絶の問題を考える必要があるという、著者の願いが込められている。

よしだ・ふみひこ 1955年生まれ。東京大学文学部卒業。元・朝日新聞社論説副主幹。長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。

 

 

 

【読書】公明新聞2023.2.20






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Last updated  May 12, 2024 06:34:56 AM
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