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May 23, 2024
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カテゴリ:書評

プーチン戦争の論理

下斗米 伸夫著

注目すべきオルタナティブ

北海度大学教授  服部 倫卓 評

 

プーチン政権のロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから、1年余が過ぎた。この間、日本のマスコミでも、国際政治学者、ロシア・ウクライナ研修者などが連日登場し、解説を提供している。ただ、侵略の非道さが目に余るため、ロシア全否定の一面的な協調になりがちなことも否めない。

本書は、まさにそうした現在主流となっている論調への注目すべきオルタナティブである。ロシアが歩んできた歴史的な背景と、プーチン体制の内部的な論理から、この戦争を説き明かそうとしている。

著者は、社会主義から長くソ連~ロシアの歴史・政治研究をリードしてきた第一人者だ。プーチンその人との対話経験もある。本書では、歴史・宗教から説き起こし、国際政治、ウクライナ論、プーチン論、ロシアの近隣諸国外交など、あらゆる角度から今般の戦争への重要な視点を示している。

此れだけ幅広い考察が、新書という手に取りやすい形で得られることは、意義が大きい。我々は、戦争批判は継続しつつも、時には立ち止まり、「本当にこれで正しいのか」と自らに問うてみることも必要だろう。そんな時、一つの座標軸となり得るのが本書であり、立場のいかんにかかわらず、必読の書といえる。

その上で、評者の個人的な見解を申し上げれば、プーチンの戦争を理解する上で、歴史・言語・宗教といったアイデンティティの要因を過大視すべきではないと考える。むしろ、現代的なソフトパワーで完敗したプーチン・ロシアが、政治的思惑からアナログな価値観で国民を動員しようとし、ウクライナはその巻き添えになったというのが真相ではないか。

本書では市幅を割かれていないが、重要なヒントは、2019年初頭に実現したウクライナ正教会のロシアからの独立だろう。ウクライナは、正教会という形でロシアと文化的ルーツを同じくしながら、現代の国民的選択としてロシアと袂を分かったわけである。

しもとまい・のぶお 1948年生まれ。東京大学法学部卒、東京大学陀学院法学政治学研究科博士課程修了。法政大学名誉教授、神奈川大学特別招聘教授。専攻はロシア・CIS政治史。

 

 

 

【読書】公明新聞2023.36






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Last updated  May 23, 2024 05:20:10 AM
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