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カテゴリ:書評
人間の普遍性を描く児童小説 作家 村上 政彦
グエン・ニヤット・アイン 「草原に黄色い花を見つける」 本を手にして想像の旅に出かけよう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、グエン・ニヤット・アインの児童文学『草原に黄色い花を見つける』です。 作者はベトナムのベストセラー作家です。日本の出版不況がいわれて久しいですが、かの国の事情も厳しいようで、文学の類いは、初版が500部から1000部。重版はほとんどなし。そんな中、本作は10万部も売れたというのですから、けた外れの人気です。 訳者によれば、グエン・ニヤット・アインがこれだけ読まれる理由は二つあります。子どもの心に寄り添って彼らの心情を代弁すること、悪童を書くときに筆がさえること。 それでは、作品の世界へダイブしましょう。 語り手で主人公の「僕」ティユウ(13歳)は、弟トゥオン(12歳)と2人兄弟です。家族は、躾に厳しい父と、ごく普通の母との4人暮らし。兄妹は父の弟ダンおじさんと仲がいい。家は農業を営んでいます。 ティユウは勉強がよくできるのですが、あまり出来のよくないトゥオンの方が兄ではないかと思うことがある。彼は兄を慕っていて、勉強の妨げにならないよう、我慢して家の仕事を手伝っているからです。 兄妹は、いつも一緒に遊んでいます。石投げをしたり、花相撲をしたり、そこへ作者は、ベトナムの、のどかな風景を描きます。 「水牛の首にはベルが付けられていて、行方不明になった時にはじゃらんじゃらんという音をたよりに行方を探した。ベルが付けられたばかりの頃、水牛がいくところには村の子供たちの人だかりができた。ベルの音を聴いて、彼らはアイスキャンデー売りが来たと勘違いしたらしい」 村にはヴィンという美しい娘がいます。ダンおじさんは、彼女の住む立派な瓦葺きの家のホウオウボク(花の名の一つ)の下で、一晩中、ハーモニカを吹いたことがあった。それは愛の告白。以来、トゥオンはラブレターを渡す「青い鳥」の役目を引き受けます。 それを叱咤ティユウは同じクラスの少女シンにラブレターを書いた。ダンおじさんのラブレターにあった詩を引用して。しかし少女はそれを教師に手渡し、ティユウは教師から、ちぎれるかと思うほどの勢いで耳をひっぱられる―—。 作者は、この後も次ぎから次へと物語を転じ、広げ、読者を飽きさせません。このあたりは、ベストセラー作家の面目躍如です。 ベトナムの児童文学というと、なかなか想像しづらいかもしれません。私もよく分かりませんでした。しかし、本作を読んで、子どもはどの国でも、虫や動物が好きで(トゥオンはガマガエルを飼っています)、思春期の少年少女たちは同じような悩みを抱え、父母や教師に叱られ、恋をしているのだと知りました。 文学は人間の普遍性を教えてくれます。 [参考文献] 『草原に黄色い花を見つける』 加藤栄訳 カナリアコミュニケーションズ
【ぶら~り文学の旅㉔海外編】聖教新聞2023.4.26 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 1, 2024 05:39:49 AM
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