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July 4, 2024
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「恩」は返さずに

 

初期仏教には、「恩」という言葉に対応する原語がありません。

 

つまり、もともと仏教には、知恩、報恩という概念はなかった。

 

後の時代、中国や日本で作らえた仏典、また中国で訳された仏典の訳には、それがバンバン出てきます。

 

あえていうとupaka(-)rapranka(-)raということばがそれに当たるのですが、これは、「他人を助けること」です。

 

バラモン教では、シヴァやヴィシュヌなどの、超越的な神に祈願し、その恩返しとして、いけにえや財宝を捧げたのですが。

 

初期仏教では施(ほどこ)し、つまり貧者や困窮者に食べ物などの支援をすることだけが、唱えられていました。

 

これは、社会的にいうことになります。

 

最初期仏教は、バラモン教の「因果応報論」を否定しました。

 

悪いことをすれば、死んで後、悪所に行く。

この考えは、ゴーダマ・ブッダの没後、数百年後には、仏教の中に混入してきますが、

 

ゴータマ・ブッダ、それを否定しました。

 

その考え方は、今現在の社会で、身体的なハンディを持っていたり、経済的なハンディを持っていたりすることを、

 

過去の因によるとして、固定してしまうからです。

 

でも、この考え方は、ごく一面、浅い意味ですが、いい部分もあります。

なぜならば、来世に悪いところに生まれないために、今、悪いことをしないでおこう、というように、犯罪の予防、社会の安定につながるからです。

 

でも、それは、いつも自分の所業を監視する、自己監視型の、ミシェル・フーコーのいうような社会を作ってしまうことは目に見えています。

 

事実、江戸時代中期、京都石清水正法寺の大我は、徳川幕府体制の御用僧侶だったのですが、このような言葉を残しています。

 

「一たび仏法を聞き因果を信ずる者は、深淵に臨みて薄氷を踏むがごとく、戦戦競競(=戦々恐々)として敢えて心を放(ほしいまま)にせず。……万民(悪行の)来報を恐れて、君を戴くこと日月の如くす」(三彝〈い〉訓)

 

仏法の因果を聴いた人たちは、悪業を犯さないように犯さないように、びくびく生きて、徳川幕府様を日月のように尊敬する、というのです。

 

結局、このように「因果」への恐怖から作られる社会は、安定しているように見えて、監視型社会なわけです。

 

他人から強制されるのでもなく、また因果を恐れるのでもなく、

自らを律して行く、そして、それを社会に及ぼして行く。

 

まさに、そのために「困っている人を支えること」「まず与えること」を、初期仏教は唱えた訳です。

 

輪廻・業思想を排除した仏教は、倫理的な個の自立を考えたわけです。

 

それで、バラモン的な超越的存在への供養だけでなく、他者への贈与。

 

それによって、個人も、社会も混乱を静めることができると考えたわけです。

 

自立(自律)した人たちが支え合う社会―—これは、社会の根本に「恐れ」ではなく、「信頼」が醸成されていくでしょう。

 

まさに「恩送り」の考え方は、それです。

 

企業の「社会的責任」の文脈で使われる「ペイフォワード」も同様の意味でしょう。

「ペイフォワード」の反対語は「ペイバック」です。

 

恩返しが「ペイバック」ではなく、「ペイフォワード」に当たるでしょう。

 

 

 

あるアメリカのIT企業の社長が来日して驚いたのは、重い荷物をもって困っている人に「お手伝いしましょうか?」と言ったら、断られた。何か別の目的があるのではないか、と思われたようなのです。

 

アメリカでは、子どものころから普通にボランティアをするので、

 

世の中には、普通に困っている人がいて、そして「上から」ではなく、同じ立場で、お互いさまだからと支えることを、子どものころから、体で覚えている。

 

そして、大人になって、何らかの社会的成功を得たならば、それを困っている人に、普通の行為として、ペイフォワードする。

 

こういうことが、自然に身につけている人が多い。

―—というのです。

 

 

 

ペイフォワードの文化が根付いた社会、また、ブッダが目指した社会のために、少しでも恩送りできたらなぁと、思っています。

 

 

 

 

【「友岡雅哉さんのセミナー」から】






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Last updated  July 4, 2024 06:24:27 AM
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