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カテゴリ:書評
日本の歴史問題 改題新版 波多野 澄雄 著
東京大学教授 木宮 正史評 依然、有効な「管理」の発想 本書は、網羅的に日本の歴史問題を論じながらも、バランスよく目配りの効いた分析が提示されている。本書一冊で日本の歴史問題を鳥瞰することができる。中韓などの歴史問題が「政治化」されるようになった1980年代以降、どのような歴史問題が出現したのか、さらに、歴代政権はそれにどのように取り組んできたのか。このように、歴史問題をめぐる内政と外交の政治力学を、アジア太平洋戦争への対応に焦点を当てて明らかにする。 交戦国ではない韓国との間の歴史問題は、元来はアジア太平洋戦争に直接かかわる問題ではない。しかし、慰安婦や徴用工をめぐる問題は総力戦体制に起因したものである。アジア太平洋戦争に至る日本帝国主義は絶え間ない侵略戦争の歴史であり、その中に植民地支配も位置づけられる。したがって、韓国は広義のアジア太平洋戦争の被害当事者だと自認する。 但し、日本も同様な歴史観を共有すべきか。共有できないとしても、戦争責任とは区別された植民地責任を独立して考えるべきだという議論も出てくる。さらに、他国との比較の視点も必要になる。戦争責任に関する「ドイツは優秀、日本は劣等」という評価に、本書はどのように答えるのであろうか。 著者は歴史問題に取り組む戦後日本の発想が「解決」ではなく「管理」であったという認識に基づき「解決」できるような問題でないかもしれない。「完全・最終的・不可逆的」な解決によって再論を封じ込めることは、政府間で可能なことかもしれない。しかし、当事者は政府に限られない。そうだとすると不断の問題提起は不可避であって、粘り強く「管理」することで、問題の「政治的争点化」を回避するという発想こそが求められる。本書は、「解決」の道筋を示したのではなく、「管理」という既存の取り組みが限界を内包しつつ遺残として有効であり、普段に継続するしかないことを、示しているのではないか。 (中公新書、1100円) ◇ はたの・すみお 外務省『日本外交文書』編纂委員長、筑波大学名誉教授、国立公文書館アジア歴史資料センター長。
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Last updated
July 8, 2024 04:04:13 AM
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