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カテゴリ:書評
夢を信じて旅する少年の冒険譚 作家 村上 政彦 コエーリョ「アルケミスト」 本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、パウロ・コエーリョの『アルケミスト』です。 著者のコエーリョは、南米ブラジルのリオデジャネイロ出身。ブラジルは日本の反対側にあるといわれ(実際、沖縄の反対側はそうらしいのですが)、遠い国の印象があります。 ところが、ブラジルと日本は深い関係があって、日本からの移住が1908年に始まり、すでに100年以上の歴史があります。また現在、ブラジルには200万人を超える日系人が暮らしていて、世界でも最大の日系人居住地です。 それにもかかわらず、心理的な距離はやはり遠い。そこで文学の出番です。その国のこと、あるいは国民のことを知ろうと思うなら、まず当地の文学を手に取るのがいい。 ブラジル文学の入門として、コエーリョの小説は最良かもしれません。さあ、本作の世界へダイブしてみましょう。 主人公の少年サンチャゴは、進学校を卒業したのに、旅がしたくて羊飼いになります。2年間、アンダルシア地方で羊たちとあちこちさまよい、時期がくると、タリファの町にある商店へ羊毛を売りに行く。今年はその途次、2夜、同じ夢をみました。それは子どもに手を引かれてエジプトのピラミッドへ行けば宝物が手に入る——そんなことは自分でも分かる。でも、エジプトは遠く離れています。町の市場に出向き、新しく手に入れた本を読んでいた。そこへ現れたのは、セイラムの王の名を名乗る不思議な老人。羊の10分の1をくれれば、宝物の見つけ方を教えようというのです。 迷った少年は、町の城から土地の風景を眺めた。 「東風はいっそう強くなり、彼の顔に当たった。この風がムーア人を連れてきたのだ。しかし、この風は、砂漠と、ベールをした女性の香りも運んできた。東風は、未知を求め、金や冒険、そしてピラミッドを探しに行った男たちの、汗や夢を運んできた。少年は風の自由さをうらやましく思った」 少年はアフリカへ旅立つことを決めた。 本作は、寓話であり、冒険譚であり、ファンタジーであり、サンチェゴ少年の成長物語でもあります。彼はさまざまな困難を乗り越え、ついに……。ここから先は、本作を読んでください。物語の舞台は、スペイン、アフリカと移り変わりますが、コエーリョの母国ブラジルでは、この小説はベストセラーになり、世界各地で翻訳されましら。 ブラジルもブラジル人も登場しませんが、本作は同国の代表的な文学です。 [参考文献] 『アルケミスト』 山川紘矢+山川亜希子訳、角川文庫
【ぶら~り文学の旅㉖海外編】聖教新聞2023.5.24 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 26, 2024 04:49:12 PM
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