4994401 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

浅きを去って深きに就く

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Freepage List

October 30, 2024
XML
カテゴリ:書評

ユダヤ人の日常言語で創作

作家  村上 政彦

シンガー「カフェテリア」

本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、アイザック・パシェヴィス・シンガー(イツホク・パシェヴィス・ジンゲル)の『カフェテリア』です。

シンガーはポーランド生まれのユダヤ人で、イディッシュ語を巧みに操り、ニューヨークに移住して、すぐれた小説を書きました。

ユダヤ人は聖書を記したヘブライ語を持っていますが、こちらは核が高く、日常的には俗語のイディッシュ語を使用していました。

しかしヒトラー率いるナチスの起こしたホロコーストで、イディッシュ語を使用するユダヤ人の多くが命を奪われ、すでに死んだ言葉として思われていた。ところが、シンガーは英語圏で暮らすようになってからも、イディッシュ語で執筆を続けた。その文学は高い評価を受け、ノーベル文学賞を与えられるに至りました。

本作『カフェテリア』は、すでに著名な小説家となったシンガーと思しき人物が主人公です。彼は食事をするのに、行きつけのカフェテリアへ出向く。常連は、売れない作家、定年になった教師、画家、翻訳家など、みなイディッシュ語を話す。新しくやってくる客は、ていてい主人公の読者であり、作品をほめた後、必ず批判する。言ってみれば、このカフェテリアはイディッシュ語のサロンのようなもの。ユダヤ人たちが羽を休めることのできる居場所でした。

主人公はカフェテリアでエステルという娘と出会った。彼の作品の熱心な読者です。「若くて、背丈も低く、華奢で、少女のおもかげをたたえた女だった」。

2人はつかず離れずの関係で、そのうちだんだん親しくなり、ある夜、エステルから電話があって、どうしても話したいことがあると言われ、自宅に招いた。

やって来たエステルが語ったことは、あのカフェテリアで白衣姿のヒトラーが集会を開いていた。そして、翌日に火災が起きて建物が焼けた(実際、作中でカフェテリアは火事になる)。主人公は、エステルが心を病んだとは言わない。「心霊現象」と評して、過去の光景を覗き見たという。

ユダヤ人にとって、ヒトラーは、恐ろしさ、おぞましさなど、人間のあらゆる闇の強迫観念の大本です。著者が、この逸話を登場人物の狂気のせいにしてしまわないところに、逆にリアリティーが生じる。そこには、主人公自身の恐れも表わされています。

やがて主人公は、エステルと距離をとって会わなくなる。旅のために街を出たとき、覚えのある男と一緒にいる彼女を見かけた。それが彼の知っている男なら、もう80代。ところが30年の昔のままの姿なのです。旅から帰った主人公はカフェテリアに出向いて、エステルの消息を尋ねたところ、どうやら自殺したらしいことが分かる——。

この物語は、現代史にまつわる、イディッシュ語が見た夢です。

[参考文献]

『世界イディッシュ短編選』西成彦編訳 岩波文庫

 

 

 

【ぶら~り文学の旅 海外編㉞】聖教新聞2023.9.27






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  October 30, 2024 05:52:39 AM
コメント(0) | コメントを書く
[書評] カテゴリの最新記事


Calendar

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

シャドウズ@ Re:アフリカ出身のサムライ 弥介(弥助)(10/08) どの史料から、 弥助をサムライだと 断じ…
ジュン@ Re:悲劇のはじまりは自分を軽蔑したこと(12/24) 偶然拝見しました。信心していますが、ま…
エキソエレクトロン@ Re:宝剣の如き人格(12/28) ルパン三世のマモーの正体。それはプロテ…
匿名希望@ Re:大聖人の誓願成就(01/24) 著作権において、許可なく掲載を行ってい…
匿名です@ Re:承久の乱と北條義時(05/17) お世話になります。いつもいろいろな投稿…

Headline News


© Rakuten Group, Inc.
X