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November 1, 2024
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カテゴリ:文化

「海のプール」の魅力

ライター  清水 浩史

海なのにプールというのは、いったいなにか。私が「海のプール」と呼んでいるのは、海辺にある海水プールを指す。海の近くにあるプールではなく、まさに海岸の波打ち際にあるものだ。海辺の岩場を掘ったり、浅瀬を最小限のコンクリートで囲ったりして作られている。潮の満ち引きによって海水が自然に循環するため、天然プールといえる。

ただし海のプールは、全国に20カ所しか残されていない「希少種」だ。険しい海岸で子供が安全に泳げる場所がない、学校にプールがないといった理由で作られたものが多い。

石川県輪島市にある鴨ヶ浦塩水プールは、有形文化財にも登録されている。1935年から準備されたもので、学校にプールが造られるまでは競泳プールの役割も果たした。海岸の岩場を掘ったプールは死には、コース番号を示すプレートも残されている。

また沖縄県の南大東島には、75年に作られた海軍棒プールがある。海は深い海と険しい崖に囲まれているため、岩礁を掘った海岸棒プールは安心して泳げる貴重な場所として、島の名所になっている。

そして東京と八丈島の乙千代ヶ浜には、70年代に作られたとみられる海のプールがある。潮だまりを僅かなコンクリートで囲った、美しいプールだ。

全国にある海のプールをめぐってみると、人の手を僅かに加えて作られたものが、長く使われていることに気づく。それは自然の地形を生かした素朴な構造であるおかげだ。一般的に人工的な構造物であればあるほど、維持管理の手間とコストが生じる。海のプールは一度作ってしまえば、あとは自然任せ。干満差を栄養しているため、プールの維持に水道代も水質管理も必要ない。

また海のプールは海よりも安全で海況に左右されにくいため、季節や天候を問わず、泳げる機会は多い。急に深くなることもないので、子供や泳ぎが苦手な人でも親しみやすい。海のプールは公共の場所であり、誰もが自由に楽しむことができる。

ただ海のプールは海岸の開発や埋め立てなどにより、多くは姿を消していった。その一方で、陸上に人工的なプールが多く作られるようになった。六十年代ごろから公営プールが全国的に整備され、70年代以降は学校プールも多く建設された。

しかし海のプールに取って代わった陸上の人工プールは、今や危機に瀕している。学校プールや屋外の公営プールは、老朽化や維持管理コストなどを背景に消えていくのは、やりきれない気持ちになる。それと同時に、維持管理の手間やコストがかからない海のプールの利点が改めて浮かび上がる。

海のプールには、独自の美しさがあることも見逃せない。水色のプールと、取り囲む青い海。そのコントラストは美しい。プールは地形に合わせて作られているため、経常はみな個性的だ。時おりプールの縁を飛び越えて流れ込む波も、心を躍らせる。海からプールに魚が入り込むため、鮮やかな水中観察も楽しめる。

自然が織りなす変化は、やはり人工的なプールでは味わえない。今も残されている海のプールは、海とプールの妙を合わせ持つ貴重な存在だ。

(しみず・ひろし)

 

 

 

【文化】公明新聞2023.10.1






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Last updated  November 1, 2024 05:16:37 AM
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