映画「夕凪の街 桜の国」 みごと!
カミさんは地域で6月に上映会をするのだそうだ。「感想聞かせてよ」というので、3月に買ってたDVDを見ました。ちょっと予想外で、完全にひきこまれました。最近のベスト1作品です。1958年生まれの佐々部清監督に脱帽するのは、情感迫る映像、ハープの調べに加えて、時間、歴史の連続性のこころ憎い設定です。舞台は昭和33年の広島とそれから50年後の東京と広島。被爆後13年という時間と、それから50年という時間の設定は、被爆時と現在とを連続的なもの、つながっているものとしての感覚をうみます。これがいっきに戦後63年だと、現在と「過去」になってしまって、つながりが感じられなくなっちゃう。それが13年、そして+50年という時間設定で、被爆者と今のわたしとがリアルにつながるんですね。これは驚きでした。さて、昭和33年。「もはや戦後ではなく」、東京タワーは建ち、高度経済成長の前夜。「新しい市民球場ができた」と喜ぶ広島の真ん中を流れる太田川。その川にせり出したバラックの長屋には「不法占領禁止」の立て看板が見える。防火用水を見ると思わず手を合わせる皆実(麻生久美子)は、母親(藤村志保)と二人で暮らしてる。なぜ手を合わすのかは、ドキュメント映像ではなく、被爆者の描いた絵でわかります。父と妹は被爆直後に亡くなり、疎開していた弟(伊藤充則)はそこで養子になった。夕焼けを見た皆実(みなみ)は自問する。「きれいだな。楽しいな」と感じていいんか。「この世におってもいいんかね」そんな彼女に恋が。「生きててくれてありがとう」と彼は言ってくれた・・・でも、発症。美しい一人の女性の未来は奪われた。それから50年後。見覚えのある電車と思ったら西武線の「恋ヶ窪」駅だ!定年退職した弟(堺正章)は元気いっぱいの娘の七波(田中麗奈)と喘息発作に苦しむ小児科医の息子(金井勇太)と暮らしている。ある日、一人ないしょででかけていく父をつけると、七波も広島に行き着いた。そこで祖母(藤村)、伯母(麻生)、そして胎内被曝児だった母(栗田麗)へと思いをめぐらせる・・・この手の作品は、正直なかなか難しいことが少なくないのだけれど、不思議な時間と空間の設定によって、過去と現在の物語がコラボする。だから、昭和33年を懐かしく感じられる人も(^_^)、老いも若きも、同時代に生きているものの感覚で共感が広がりますよ。わたしの娘には受験勉強を休んでぜひ見てもらいたい。最近とみに涙腺の弱くなったカミさんは、タオル3枚持参です。