天の川って最近見ましたか?
帰り道にあれっ?と思ったら霞んだ雲が月に照らされて天の川に見えました。。なんだか懐かしい気持ちになって作ったお話しです。---天の川を見たのはいつの頃だったろう?小学校の確か3,4年生の頃だったと思う。団地の集まりで、大晦日に近くの山に歩いて登って初日の出を見るというイベントがあった。家族でそれに参加して、明け方2時か3時くらいからその山に登り始めた。真っ暗の中、懐中電灯を手に集まった団地の人達、そしてそのままぞろぞろとゆるやかで、舗装されていない山道を登り始めた。小さかった自分はそれが、どんなイベントかよくわからないまま、母親について歩いていった。1時間も登ると、最初は元気だった人達も物静かになり、ひとかたまりだった団体も少しずつ離れていく。ハアハア言いながら、うっそうと茂る杉の木々の中を登っていった時、ふっと上を見上げると、そびえ立つ木々とそれに覆い被さるような葉っぱ達の間に、小さな夜空が広がっていた。ちらちらとまたたく星々とともに、そこには天の川が見えた。額の汗がさぁっと引いていき、今まで下ばかり見て歩いていた事に気づく。その小さな夜空に僕は夢中になった。天の川を見たのはいつの頃だったろう?中学の頃、夕陽がすっかり沈んでしまった冬の、ちょっと肌寒い道を僕は歩いて家に向かっていた。新興住宅地でまだまだ車も人も少ない道のそばには大きな竹の茂みがあって、まるで自分をつつんでしまいそうなその竹のしなりが少しだけ怖かった。その辺りは家がないおかげですっかり暗く、ただ足早に通り過ぎた。そして田んぼを左に見ながら少し開けた道で夜空を見上げると、たくさんの星がまたたいていて、少しだけその場所が好きになる。天の川は銀河系の一番星が多いところを見ているんだ。そんな事を本で読んでから、夜空を見上げると天の川を探すのが僕は好きだった。決して知る事のない宇宙の神秘のほんの一部を自分が感じているようで、天の川を見つけると、いつもワクワクした。天の川を見たのはいつの頃だったろう?高校の頃、夏に英語合宿で四国の田舎町に泊まった。こんなに離れたところでたくさんの知らない人たちと会って、当時男子校だった僕は、たくさんの女の子や、様々な国の人たちに圧倒さていた。勉強とパーティーが終わってから、みんなで丘に登ったら、空を埋め尽くすんじゃないかというくらいの星が溢れていて、みんなの懐中電灯が空まで届いて、みんなで光の追いかけっこをした。銀河鉄道が走ってきそうな空の中で天の川は、はっきりとその光を放っていた。思いが空に舞い上がる。。みんなで同じ空を見上げながらそんな気がした。天の川を見たのはいつの頃だったろう?駐車場からの帰り道。いつもこの場所で僕は心を入れ替える。入れ替わってしまう。消えてしまった喫茶店の屋根の向こうに浮かぶ月を見上げたり、かすかに見える星をつなげてオリオン座を作ったり、ゆるやかに流れる車の列や、ひっそりとたたずむオレンジ色の外灯を見つめていると、まるで夜の魔法にかかったように、静かに僕の心に夜空の液体が染み込んで行く。軽くなった僕の心はやがて地平線から空中へと舞い上がる。空に吸い込まれた心はちっぽけな自分と街を見下ろして、近くを流れる高速の光の列がまるで天の川のよう。そして僕は知る。一人ぼっちで歩く僕の瞳にも、心にも、いつかの天の川がしっかりと流れている事を。。