夜明け前の光の中で。
久しぶりに物語を書いてみました。今の自分のまわりにあるちょっとほっとした空気の物語です。--昼過ぎに振り出した一粒の雨音が人生を変えることもある。夕方の海の香りが狂おしい愛に気づかせてくれることがある。ハチドリの流した一滴の涙が世界中の人を包む優しさになることがある。目の前に見えることはいつも幻で、僕はいつもいつも大切なものをつかめずにいた。それは小さな子供が山に登って、すぐそこにある雲を一生懸命つかもうとしているそんな感じだった。そして僕はいつもそのことから目をそらしていた。何かを話して、それを認めてもらうことより、認められない自分が怖かった。誰かと同じ感動を味わうことより、自分だけ違うと言われる事が怖かった。幸せになることより、幸せになって一人になることが怖かった。大切な人と一緒にいることより、一緒にいなくなった時を考えるのが怖かった。たくさんの友達に囲まれたいのに、その友達に本当の自分を見つめられるのが怖かった。だから、今までたくさんの真実の片側だけを見つめて生きてきた。美しい花を見つめても、それを見つめてきた人たちの事を考えていた。立ち止まって空を見上げても、そんな自分がどう見られるのかを気にしていた。優しい言葉を届けたくてもがきながら、優しい言葉をかけてもらいたかったのは自分だった。かすかな光を探し続けて、川に映る星明りをいつまでも眺めていた。誰かのぬくもりを感じたくて、人ごみを彷徨った。そして僕はある日、一輪の桜の花びらとともに知ることになる。つかめなかったのは、その花びらや、雲や、幸せではなくて、自分の中にある心なんだと。。そこにある事すらも忘れていた自分自身の心や意識。一粒の雨も、海の香りも、ハチドリの涙も、変えたのは現実じゃなくて、人の心なんだということ。その心が現実を創り出して行くんだということ。そう、そして僕は明けようとしている淡い紫の空の色に、美しい涙を流した。