雨の粒。
今日。やっと一年の仕事が終わり、明日からはしばしの休みだ。というのに、外は雨。ひっそりと静かな事務所を出る時にも窓を打つ雨の音がして、車へ向かって少し走っただけで身体はしっとりと雨に濡れてしまった。けれど、今こうして暖かいカフェの中にいて、全面ガラス張りの窓から街灯に照らし出された雨を眺めていると、少しだけ幸せな気持ちになれる。それはやっと雨宿りの場所を見つけた小さな子猫のようだ。パスタを食べた後、ホッと一息ついているとコーヒーが運ばれてきた。今日は多めにミルクを入れて飲むことにした。バックに静かにかかるジャズの定番。けれど、ぼんやりと雨の町を眺めながら自分の頭の中に流れてきた音楽は、サザンオールスターズの「ミス・ブランニューデイ」の始まりに流れるシンセサイザーの音だった。宇宙の中で電子の弦をはじくような軽快なそのリズム。高い空からに水の粒がスローモーションのように落ちてきて、それが虹のような七色の輝きを放ちながらはじけ、一瞬で煙のような水しぶきになって空中の中に消えていく。心の中が何か暖かいもので満たされていき、ほんのりと染まる朝焼けに恋をした日々を思い出す。ほんのわずかに暖かい風が、冷えてけだるい寝起きの身体を優しくなで、まるで身体の表面の細胞がプチプチとはじけるように新しい自分を生み出そうと目覚め始める。ふいに一瞬の風が僕の前で渦を巻き、花びらが美しい輪を描き舞い上がる。僕は知る。この風も花びらも、僕への一つのメッセージなんだと。心を澄ませば聞く事のできる物語なんだと。”一粒の雨さえも、心に虹をかけられるんだ”と。