ボードレールは一行だけでなく
7月16日。 昨年他界した、祖母の命日である。 ところで芥川龍之介の『或阿呆の一生』に、有名な一節がある。 「人生は一行のボオドレエルにも若かない。」 芥川は35歳で他界している。 92歳まで続いた祖母の人生は、数行程度のボオドレエルに値したのか?と考えてみる。 いや、そもそもそういう観点に立つべきではない。 ボードレールの詩は、とても端正にでき上がっている。一行だけを抜き出して価値を考えるものではない、と私は考える。 ボードレール自身が、下記の詩を書いている。 芥川よ。良く読んでから物を言いたまえ。 TOUT ENTIERE Le Demon, dans ma chambre haute, Ce matin est venu me voir, Et, tachant de me prendre en faute, M'a dit : ? Je voudrais bien savoir, Parmi toutes les belles choses Dont est fait son enchantement, Parmi les objets noirs ou roses Qui composent son corps charmant, Quel est le plus doux. ? ? O mon ame, Tu repondis a l'Abhorre : Puisqu'en Elle tout est dictame, Rien ne peut etre prefere. Lorsque tout me ravit, j'ignore Si quelque chose me seduit. Elle eblouit comme l'Aurore Et console comme la Nuit ; Et l'harmonie est trop exquise, Qui gouverne tout son beau corps, Pour que l'impuissante analyse En note les nombreux accords. O metamorphose mystique De tous mes sens fondus en un ! Son haleine fait la musique, Comme sa voix fait le parfum. 彼女のすべて 「悪魔」が、俺の高い部屋へと、 俺に会うため今朝やってきた、 そこで俺の悪さの現場を押さえようと、 こう言った:《知りたいものだ、 その魅惑をつくっている すべての美しいものの中で、 その魅力ある体をつくりあげている 黒色や薔薇色のものの中で、 どこが一番いいのさ。》― あぁ俺の魂は、 「嫌な奴」へ答えてやるのだ: 「彼女」のすべてがやすらぎだから、 どこがいいということではないのだ。 俺が喜んでいるときは、頭にない 何かが俺を惹きつけているかなんて。 「彼女」は「朝の光」のようにまぶしい それから「夜」のようにやすらかで; またその調和はあまりに甘美で、 あの美しい体をすべてまとめる、 たくさんの和音を記録して 分析することも無駄になる。 あぁ神秘な変身である 俺の感覚すべては溶けて一つに! 彼女の呼吸は音楽になる、 その声が香水となるように。 (拙訳)