「はかぼんさん―空蝉風土記―」さだまさし
この国には古来「不思議」が満ちていた――。各地の伝説を訪ね歩いて出逢った虚実皮膜の物語。
風に揺れる枝垂れ柳が美しい京都の高瀬川で、少年が自殺した。白衣白袴という異様な姿で。死の背景には、旧家に伝わる謎の儀式があった(「はかぼんさん」)。
身を持ち崩した一人の男を救ったのは、海辺の漂着物だった(「夜神、または阿神吽神」)。
緑豊かな信州に嫁いだ女性。夜半、婚家に「鬼」が訪れる――(「鬼宿」)。
各地を訪ね歩いて出逢った、背筋が凍り、心を柔らかく溶かす奇譚集。
図書館でこの単行本を見つけて、気軽に読めそうと借りてきた。
読み始めた時は、さだまさしが各地を旅して体験した不思議な話かと思ったが、完全に創作物語のようだ。
それにしても、「さだまさし」は作家としても一流だ。
天は、時には二物も三物も与えるんだと思ってしまう。
もちろん、それぞれの物語にはヒントとなる各地の伝説や体験談があるとは思う。
とにかく面白くて、一日で読んでしまった。
彼の作品に欠点があるとしたら、面白いのでしみじみと味わう時間が欠けてしまうこと。
でも、読書に一番必要な条件は「面白いこと」だろうから、これを天は二物を与えずというのかも。