「ともぐい」河崎秋子/著
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。
人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河崎流動物文学の最高到達点!!
こんな小説は初めてだ!
人も自然界に生きている獣(けもの)の仲間なのだとあらためて考えさせられた。
人と獣の線引きなど、実はないのだろう。
私たちは自然から少しずつ距離をおき、本来持っていた野性が弱くなり、
自然と動植物を利用するばかりの卑しい存在になっているのかもしれない。
野性を失った弱っちい人間の私は、正直なところあまり好きな内容ではないが、
彼女の筆力と想像力には圧倒されてしまいながら読んでしまった。
今まで読んだ河崎作品の中でも一番迫力があるし、物語としても面白いと思う。
読むかどうかは別として、今後の河崎さんがどのような作品を書いていくのかはとても楽しみである。