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カテゴリ:本の感想 作家別-ま行
闇の中で大きく目を開けて、目の前の光景を想像した。二メートルを超える太った雌の大蛇が、ゆっくりととぐろを解いている。骨まで凍りつき、身体に氷の芯ができたようだ。部屋は不気味なほど静かだった。?悲惨な死を遂げた父の謎を追う美人犬訓練士キャサリンの身に危難が…。アガサ賞受賞の傑作。 33冊目 私にしては久々の邦訳海外ミステリーです。以前、異常心理犯罪者ものばっかり読み続けてさすがに具合悪いというか夢見まで悪くなったのと日本人の作品あまり読んでないやとの考えが浮かび邦訳作品とは距離をおくようになってました。 ひたすら読み続けていたのは検察官スカーペッタシリーズの5作目あたりだからものすんごく前です。 まっ邦訳ミステリーどころかハウツー本やエッセイは読んでも小説を一切読まなかった期間というのが3~4年あったので(なぜ?⇒多分長々と物語の結末をじっくり読み解く程度の忍耐、根性すらなくしてたから) 小説再び読むようになってからは邦訳ミステリーは年に1~2作読むか読まないかなのですが、今回はブランクというのは大きいなとしみじみ 登場人物がうまく頭にはいってこない。以前は海外ミステリーを好まない人が理由にあげるのが登場人物の多さや名前になじみがもてないせいで相関関係がわからないからと聞いて、なんでそんなの苦になるの?目次にたいてい人物紹介のってるから照らしあわせればいいじゃないと思ってたのですが、その苦労が我が身に降り掛かるとは思いもしませんでした。 幸いにもこの文庫のしおりに登場人物紹介が書いてある親切デザイン。いちいち目次に戻る必要はないのですが父だの母だのまだよくても役職名書かれていてもどこで出て来た人なのかさっぱりちんぷんかんぷん??? 相関関係が頭の中でイメージできない 結局前の方に戻って確認とるていたらくというか海外ミステリ読破のリハビリしてました。 さてこの作品1993年初版、なんで年にこだわるかと言うと出版当時本屋さんでじっとこの表紙ながめて買おうかどうしようかと思案していたんです。おもしろいだろうという予感もあり表紙の虎の絵も魅力的でこの本が積んであるところをうろうろしてたのまで覚えてます。 なのになぜ今まで手にしてなかったのか? 多分あらすじの"大蛇"の言葉に 嫌なものを感じたのか、もしくは私の悪癖で 気になる本があっても一回買うのに躊躇するとそのまま素通りし続けているうちに平積みから棚に そしてやっぱりほしいと思ったころには書店から消えて題名、作者もあやふやで検索すら不可能になっている!という典型的なパターンです。今作はblog巡りをしていてこの作品が紹介されていたので記憶に留めbook offにて購入しました。 とっ長い前置きでしたが 実に14年を経て手にしたこの作品(題名おぼろなくせに時々気になっていた) 面白かったです。 ミステリーの女王アガサ・クリスティーの名を冠したアガサ賞1992年度最優秀処女長部門受賞もうなづけます。 主人公キャサリンは犬の訓練所を経営する優秀な訓練士ですが不況の波にさらされローンの支払いがたちゆかなくなり、自分の力で築き上げた土地や家、職すら失う寸前という苦境にあります。そんな中、幼い時に母と自分を捨て音信すら断っていた父から手紙が届きます。内容は彼女の今の窮状を知っていることとそれに対して援助の用意があるので自分の所に来て欲しいというもの。父と母の離婚の理由がわからないものの母の父をなじる言葉を聞いて育ち”いつかは父がきっと会いにくるという”幼子の夢を打ち砕かれ続けてきた彼女にとってこの手紙は身勝手な父への怒りとわずかばりの期待を抱かせます。 借金の返済期日の延長を銀行に請願しにおもむいた彼女に弁済期日の繰り上げとチャンピオン犬である愛犬すら財産価値として担保となるということが伝えられます。 そして万策つきた彼女は一抹の希望をだいて父の住む町へと向かいますが、その彼女を待っていたのは動物園で大型獣の主任飼育係をしている父が彼女がその街に到着した朝に世話をしていた虎に食い殺されたという知らせ 事故なのかそれとも事故にみせかけた殺人なのか、キャサリンは父の死の真相をつきとめるべくその動物園で飼育係をすることとなります。 主人公のキャサリンは自分の力で自分の責任を果たしていると自負するタフな女性ですが状況が八方ふさがりで非情に痛々しく誰か助けてあげてと応援したくなります。そして再会のかなわなかった父の死を聞いても何の感情もわかないまま、父の遺産も譲りうけるものはなにひとつ残っていないと知らされた失意のキャサリンを迎えたのは父の家に飾ってあった成人した自分のスナップ写真の数々。これが自分かとおもうほど美しく、それでありながら自分がいちばん自分らしくしている姿が何十枚も写真におさめられていたのです。自分を見捨てたと思っていた父が自分に愛情をいだいていて犬の競技会に参加している自分の側でその姿を写真に撮り見守ってくれていたのだと知ります。 この場面は圧巻で"良かったね”と涙がでてきてしまいました。自分を愛し慈しんでくれる存在というのは生きていく糧ですよね。 父の愛情を知ったキャサリンは父からの手紙と再度向き合い 父の申し出、頼み事の真意をつかむため独自に調べていくことを決心し自分の祖母の財団が経営し父が務め命をなくした動物園で飼育係として働きはじめます。 前述のようにキャサリンは優秀な犬の訓練士ではあっても探偵ではなく、さらに破産は目の前に迫っている状態に加え、経験どころか生理的にうけつけない爬虫類館に配属となり毒蛇の世話をさせられます。 はたから見ててもなにから調べていくのか、いけるのかという余計な心配をしてしまいますが、 この作品は 主人公の弁済期日へのカウントダウン、 動物園での動物買い入れに関する疑惑、絶縁状態になっていた母方の祖母や親戚との離別の理由、両親の離婚の真相、幼少期の失われた記憶に対するトラウマなど、どの要素が父親の死の真相に結びついていくのか、各々の問題、疑問は解けていくのか とまさしく susupension bridge 吊り橋のごとく もったいつけることなく 絶妙なバランスでからみあい、うなってしまう作品でした。 タイトルにある"凍りつく骨” (原書名Zero at the Bone 骨の髄まで凍りつく)にふさわしく ブッシュマスターの日常の世話の様子からあらすじにある危機に見舞われるシーンの描写の綿密さは(もともと蛇を見る位は大丈夫なはずなのに)背筋にぞくっとしたものが走ります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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