北鎌尾根敗退記その1~貧乏沢
9月10日金曜日。今日が今回の登山の核心北鎌尾根の縦走だ。朝2時半起床。身支度を整え、弁当の朝食を食べて4時大天井ヒュッテを出発。幸い、天気は回復してきており、多少の寒さはあるが程よい気温であった。真っ暗闇の中をヘッドランプの光を頼りに西岳へと向かって15分ほど行った最低鞍部の右側茶色い踏みあとをちょっと登ったハイ松帯が入り口だった。もちろん地図上に実線も破線も記載されていないバリエーションルートである。 貧乏沢入り口すぐに大きな岩が鋭く連続する岩場の下りになった。暗いし視野も狭いのでとにかく怪我しないよう、慎重に下る。次第に世が空けて空が明るくなり、ヘッドランプをしまう。 下りだからと多少気楽な気分でいたらこれが大間違いだった。岩の段差が不規則に連続するので2時間ほど下ったら太ももが重くなってきていた。大きな岩の次は樹林帯で木の枝や幹に掴まってずり降りる道が続いて、酷く消耗した。更に下っていくと滝が登場したり、岩の割れ目から水が流れ出ているところとか様々な沢の様相が表れた。とにかく必死だった。ガイドのスピードについていくのが精いっぱいであれこれ考えている余裕はなかった。 貧乏沢下部1900m地点のツルツルの岩場に取り付けられたロープ下っても下っても急峻で危険な道なき道が続いていく。一体どこまでいくのだろう。いや、この沢を下りきって広い河原まで行かねばならないのだと考えると絶望的な気分がした。北鎌尾根の終着点槍ヶ岳まで行くには貧乏沢なんて最初の最初にすぎないからだ。次第に少しづつ傾斜が緩み、下流になってきたがそこからが更に苦難の道だった。最後にクマザサの藪漕ぎが待っていたのだ。ハイ松でもクマザサでも藪漕ぎは大の苦手だ。身長が140センチ未満なのでクマザサの方が背が高く、密集して生えているので前は見えないし、分けても分けても容易に道を作れない。泣きたいような困難なクマザサ漕ぎを続けてやっと河原に出た、貧乏沢が終わって広い天井沢の河原に出た。4時間以上を要した。恐るべし貧乏沢!!。大天井ヒュッテ(2650m)から貧乏沢を標高差850mを下って天井沢出合い(1800m)まで下った訳だから一筋縄でいくはずがない。怪我無く下れただけでも上出来だ。