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2020年11月25日
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 『月虹の夜市』は、蕪村を登場させる折口真喜子の小説の原点を指し示す重要な説話集だ。彼女が不器用な生き方を飄々と貫いた蕪村に白羽の矢を立てたのも、この小説を味読すれば理解できる。
 私の知りうるかぎり目下のところ蕪村をかくも見事に対象化した作家を知らない。表題にある月虹(げっこう)とは、月夜の晩にまれに出る夜の虹のことでその足元では異界のものたちの市が立つという伝えを説話風に仕立てたものだが、この単行本には一切蕪村は登場せず、こちらは江戸期の渡し守の船宿を巡る<見えないものがみえる>ちょっと風変わりな市井の人たちの祖父から孫にいたる秘めやかな年代記である。
決して人々の目には目だった存在ではない無名の人たちが助け合い、かばい合って身を寄せ合う様を実にこまやかな愛情をもって描いており、それがそもそも蕪村という書と南画と俳諧の三道に執拗に取り組み、本人も知らぬ間に時代をすり抜けてしまった人物への熱い思いに発するものであることは、火を見るより明らかだ。
 かって、日本キノコ協会時代に『耳納山交歓』と出会い、MOOK本のカルチャーマガジン『きのこ』刊行の際には、お願いして短編を寄稿していただいた村田喜代子さん以来、文学の分野での
ヘテロソフィア作家の久々の登場だと喜んでいる。私にとっては、今年一番の事件である。





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最終更新日  2020年11月25日 23時14分28秒
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