Toi toi toi !　指揮者 直井大輔のBlog

僕が芸大に入って間もない頃、
ある非常勤講師の先生から、市民オーケストラのアシスタントのお話をいただきました。
それが土浦交響楽団さんでした。
途中で数年離れていた時期もありますが、
最初にお邪魔したのは、ちょうど１０年前になります。

団の規定では、指揮者との契約は２年で満了なので、
色々な先生の下で２年ずつアシスタントとして携わることができ、
たくさんの経験を積ませていただきました。

一昨年、「直井さんに本番の指揮をお願いしたい」という大変光栄なお話があり、
これまでの感謝の気持ちをお伝えしたい一心で取り組んだ２年間。
そして、２００８年１１月３０日、契約最後の演奏会を迎えました。
プログラムは、僕の大好きなチャイコフスキーの「悲愴」。
この曲は、大好きというよりも、大切な作品だと言ったほうが当てはまるかもしれません。

かねてから、チャイコフスキーの作品は
感情的になりすぎないように注意しながら演奏してきました。
それは、既に作品自体に様々な感情が込められているから。
そのような作品に「上塗り」をするが如く、感情的に演奏してしまうことは、
本来の、深いところにある感情が見えなくなってしまう気がするのです。

今回の土響の皆さんとの「悲愴」も、そういうスタンスで取り組みました。
しかし。。。
演奏中に涙が溢れてきて。。。
今まで、涙が溢れそうになったことはありましたが、
今回のように本当に泣いてしまったのは初めてでした。。。

第二楽章の中間部で、同じメロディを繰り返し演奏する箇所、
メロディを弾くチェロに強奏をお願いしたところがあるのですが、
こんなに切なく、苦しくて悲しいメロディを、
チャイコフスキーはどんな気持ちで書いたのか、
それを思うと、涙が止まらなかった。。。

次の第三楽章でも、冷静ではいられなくなったチャイコフスキーの心情が、
ついに錯乱し、爆発的なエネルギーで演奏される後半部分、
チャイコフスキーらしからぬ分散的な音の並びで作られた主旋律が強く鳴り響く箇所で、
彼の魂が握りつぶされそうになっているように思えて、
おのずと涙が流れてきました。。。

そして第四楽章。
不思議と、ここでは非常に落ち着いていました。
感情の上塗りをしてはいけないと強く思っていたからかもしれません。
チャイコフスキーの残したものを、そのまま伝えたいと思っていました。
沈んでいくように絶える最後の音は、
ここから離れていくようでもあり、また逆に何かを残していくようでもあります。
それは僕が決めることではないと思っています。


このような大切な作品を、
１０年間、僕を育ててくださった土浦交響楽団の皆さんと出来たこと、
本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。
カーテンコールで、皆さんと握手をしてまわったとき、
皆さんの顔を見たら、今まで共に過ごしてきた年月が思い出されてきて、
こらえきれなくなった涙が一気に噴き出し、止まらなくなってしまいました。
「ありがとうございました」や「お世話になりました」が、
最後のほうには、ほとんど声にならなくなっていました。
本番のステージでこんな状態になったのは、初めての経験でした。


ホテルの立食パーティ形式で催された打ち上げでは、
本番で泣いてしまった分、落ち着いてご挨拶できたのですが、
団長さんのスピーチの中で、
「直井さんを本番の指揮者に迎えようという話が出たとき、実は運営委員で大変もめました。
　本番の指揮をお願いするということ、
　それは同時に、あと２年でお別れしなければならないことも決まってしまうからです」
と、涙で声を詰まらせながら話してくださるのを聞いて、
また涙が止まらなくなりました。

本当に、何度お礼を言っても、言い尽くせないぐらい、
土浦交響楽団の皆さんに感謝しています。
僕の人生の中の、ひとつの節目、
次の新たな節目に向かって、ポンと背中を押してくださったような気がしています。
今回の「悲愴」、そして土響の皆さんと過ごした年月は、一生忘れません。
今まで本当に、ありがとうございました！