#9「はじめてのともだち」(下)
放課後。掃除の時間。雨はますます強く降っています。「ったくこんなに雨降るんならさぁ、警報出てくれればいいのにねー。 したら早く帰れるのにさ」何故かおでこにばんそうこうを貼っているふぁみは、教室の出入口の所で、モップを杖がわりにしてぼやいています。「ああ、でも警報でるぐらいだと、傘無いと帰れないよね」みなみはちり取りの中にあるごみをごみ箱に捨てながら呟きました。「ってか今日傘ないし…置き傘ある?」と、みゅうを見ました。「あたしは置き傘してないよ?」みゅうもまた机を列べながら、近くにいたこえだを振り返ります。「わたくしもしてませんわ」そう言って首を横にふるこえだ。「どうすんの?」誰とはなしに尋ねるふぁみ。「春雨じゃ、濡れていこうぞ。 …のう皆の衆」と、微妙に抑揚の無い口調で呟くみなみ。「なにそれ」と突然その時、「はぁい!」クレアが突然現れました。「どわっ」いきなりの大声に、ふぁみはすっころんでしまいました。「あ、クレアちゃん。やっほー」みなみはまたもや抑揚の無い声で手を振ります。「やっほー… ってふぁーちゃん、何やってるの?」「いたた…だってクレアちゃんがいきなり…」「?」不思議そうに首をかしげるクレアの隣にはかがみといすず、そしてともえ。「まだお掃除してるんだ。 あたしみゅうちゃんたちと帰るからぁ」と言って、クレアはともえたちに手を振りました。「じゃ、また明日ね~っ!」 かがみはそう言って手を振り返すと、いすずと一緒に走っていきました。「それじゃわたしも。さよなら」ともえもぺこっとお辞儀をすると帰っていきました。「ん、ばいばーい」笑顔で手を振るクレア。「んじゃ、くれあはここで待ってるねっ」「すぐ終わらせるからね」ふぁみはそういうと猛スピードでモップがけし始めました。「ふぁみ…もうモップはいい、机机」みなみのこの言葉もふぁみには聞こえていません。「でもクレアちゃん、もう全然緊張してないみたいだね」みゅうはみなみに話し掛けました。「うん、みたいね」「よかった…でも」みゅうの最後の言葉にかぶさるように、こえだが続けました。「順応性が早いですわ。羨ましいかも」「…そうね」みゅうも一応笑顔で肯きます。「終わったぁ」ふぁみが額の汗をぬぐいながら爽やかな顔で満足そうに呟きました。「…もう終わってるんだけど」とにが笑いのみゅう。「えっ!?」みなみはそんなふぁみを無視して窓の外を眺めました。「っていうかますます雨強くなってるし…」そう言いながら掃除道具のかたづけを済ませ、鞄を持ちました。すると、それを見はからってクレアが、「終わった?」と、とことこと教室の中に入ってきました。「終わったよ、でも」そう言ってみゅうは窓の外を指差します。「あめ?」肯く四人。「傘は?」首を横に振る四人。「魔法」クレアがあたりまえのように言いました。「魔法使えば?」「あ、そうだ。 こんなときこそ魔法じゃん! あたしやってみる!」ふぁみはまた教室の外に走っていきました。「廊下は走らない!」外で間野先生の声が聞こえます。と、それに続いて辺見先生が教室に入ってきました。「掃除終わった…ようね、よろしい。 じゃ、んじゃね」「はい、先生さようなら」そう言って頭を下げると、他の四人も教室を出ていきました。*****靴を履き替え、校舎の外に出た五人。「へっへっへ」ふぁみは変な笑い声を発すると、さっと物陰に隠れ、タップを叩きました。音楽と共に飛び出す見習い服。「これ…どこから音楽出てるの?」みなみはふと呟きます。「みぃちゃん、それ言っちゃだめ」クレアは人指し指を口の前で左右にふりました。「プリティ~ウィッチ~ふぁみちゃんっち☆」「ぶっ」吹き出す四人。「何じゃそりゃあ!?」「あ、これ? 昨日夢で見たの。なんか金髪で可愛い服着た女の子が 『お着替えの時はこれ言わなきゃダメぇ~』って言ってたから」「はぁ?」「ふぁみっちだったら言いにくいし。 だからふぁみちゃんっち」「誰もそんなこと聞いてませんわよ」こえだは白い目でふぁみを見ました。「みんなもやるんだよ?」「えっ!?」「だってその女の子『やらなきゃ…うっふっふ』って笑ってた。 めちゃホラーな感じだったよ」「…」ため息をつく四人。「でもまあ…みなみっちか、悪くないかも」「えっ!?」こえだがすごい勢いでみなみを見ました。「みゅうっち…だと語感悪いなぁ…みゅうちゃんっちかな?」「ええっ!!?」こえだは逆方向にいるみゅうの方に振り返ります。「くれあっちか、えへへ」照れ臭そうに笑うクレア。「…みなさん…」「じゃあ、けーちゃんはけーちゃん…」「こえだっち!!」と言うと顔をまっ赤にして口をふさぐこえだ。「決まりだね。 …んじゃ」ふぁみは深呼吸しました。「ピーリカピリララポポリナペーペルト… 傘よ~…出ろっ!」ぼわん!「…傘、出た… って重っ!!!」「超巨大な傘ですわね」「…こんな大きな傘、重くて持てないわね」こえだとみゅうは茫然と呟きます。「ふぁみ、なかなかやるな」そういっておやゆびを立てるみなみ。「っていうか重い重いお~も~い~っ!! だーれーか早く持って手伝ってぇ~っ!」「みんなで持とう」くれあがさっと傘の中に入り、ふぁみが持つ柄を下から支えます。「…しかたないですわね」といいながら、こえだはふぁみのすぐ下を握りました。「ま、こんなのもいいかもね」「うん。いいかも」みなみとみゅうもふぁみのすぐ上を持ちました。「五人で持つと、軽いね。…って重いかやっぱり」とふぁみはにが笑い。「トレーニングになるよ」クレアが傘の柄を下から押しあげます。「ばばば…バランスバランス崩れる!!」大きくぐらつき、倒れそうになる傘。「うわっ」みんな急いで飛びのいてしまいました。みゅう以外は。「みゅう!!」みなみは思わず叫びました。しかし。「…ふん!」みゅうはその傘を右手一本で支えました。「え?」さすがのみなみもびっくりしました。「私、腕力はちょっぴり自信あるんだ、へへへ」「ちょっぴり…じゃないっしょ?」「その傘、10kg以上は十分ありますわ」「14.8kgと言ったところか」みなみはいつものように冷静に分析しました。「…えっらいくわしいな」ふぁみもいつものようにツッコみます。「っていうかやっぱり重いから、みんな早く手伝って!」「ごめんね」クレアが謝りながら、また傘の下を持ちます。それに続いてみんなもみゅうの周りを握りました。「んじゃ、帰ろっか」「ふぁみちゃん、服、服」みゅうが指摘します。「あ、そうだ」ふぁみは元の姿に戻りました。「これでよし」「改めまして… じゃ、帰ろっか」「MAHO堂まで行けば傘あるし、ね」五人はMAHO堂に向かって歩いていきました。徐々に弱まってくる雨。空も少しずつ明るくなってきました。やがて日の光も差し始め、MAHO堂の近くまで来たときには雨も上がり、空には大きな虹が架かっていました。「傘、いらんかったね…」その虹を見ながらみなみが呟きます。「明日筋肉痛かもね」みゅうが右肩をぐるぐる回しながら言いました。「でも、なんか楽しかったし」ふぁみが四人を見ながら微笑みました。「まあ、そうですわね」こえだは握力の無くなった手を揉みながら答えました。「たのしかったね」クレアもにこっと笑いました。「じゃあ、MAHO堂にれっつごー!!」と走りだした瞬間、ふぁみは水溜まりに足を取られ、思いっ切りすっころんでしまいました。はねる水しぶきがキラキラと美しい午後のひととき。「あたしって世界一不幸な美少女だぁ」というふぁみの叫び声だけが空しくこだましました。