夜の始まり
人間界の時間で言うと、午後八時過ぎ。そろそろハナの守り役であるマジョリズム帰宅の時間です。彼女の居室は城内にあるわけですが、それでもいまだ幼いハナにとっては、寂しいことには変わりなく、いつものように少し渋っています。*****リズム:「では、ハナちゃん。 また明日です」ハナ :「…りずむ、帰っちゃやだ」リズム:「ハナちゃん、わがまま言わないで」ハナ :「…だって」リズム:「明日の朝、必ず来ます」ハナ :「… じゃあ、やくそく」リズム:「はい。 指切りです」ハナ :「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼん… …はのまなくていいや」リズム:「ふふ…やさしいですね、ハナちゃんは」ハナ :「えへへ。 だってりずむがいたいのは、ハナちゃんいやだもん」リズム:「ハナちゃん…」ハナ :「うんっ。だから、はりはのまなくていいよ。 でもまってるからね」リズム:「絶対、来ます。 …何があっても」ハナ :「うん」リズム:「それではおやすみなさい、ハナちゃん」ハナ :「ん、おやすみなさい、 …りずむ…」リズム:「??」ハナ :「ううん、なんでもない」廊下を歩いていくマジョリズム。その後ろ姿をじっと見つめているハナ。(りずむママ…おやすみなさい)廊下の一番奥、ぼやけたように広がる闇の中に、融けるように消えていったマジョリズムに向かって、ハナは小さく、そう呟きました。(「ママ」…か)さっきの呟き声より、さらに小さなため息をついたハナは、部屋に戻ると後ろ手にドアを閉めました。そのままドアにもたれ、天窓から夜の空を見上げると、いつもと同じく微笑んでいる月。…静かな、長い夜。*****だいたいハナ5歳・マジョリズム15歳ぐらい、すなわち2005年ぐらいを想定しています。