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一条天皇 御製(おおみうた、ぎょせい) 御辞世
露の身の草の宿りに君を置きて 塵を出でぬることぞかなしき 藤原行成『権記』 藤原道長『御堂関白記』 露のように儚いこの身が かりそめの宿である草の葉に君を残して 塵にまみれた現世から去ってしまうことが たまらなくかなしいのだ。 註 NHK大河ドラマ『光る君へ』第40回「君を置きて」、10月20日放送。 超絶美青年・塩野瑛久の好演が評判となった。 明らかに一人の女性への思慕を詠んでいるのは、公の立場の高貴な上つ方の辞世歌としては珍しい例なのではないか。 「君を置きて」の一字余りが、ここでは強い執着を示し、むしろ印象的・効果的。 辞世:この世を辞するにあたって詠む和歌。もと皇族・貴族の風習だったが、のちには武士階級とその末裔にも伝承され、現在に至る。 君(を置きて):この「君」が誰であるかについては、古来憶測を逞しゅうされてきた。 最期を看取った中宮・藤原彰子と見るのが普通だろうが、いやそうではなく、今は亡き前皇后の藤原定子のことだという解釈も根強い。 定子は第3子出産時に逝去しているが、当時の仏教の教理では、産褥死は成仏できず、その霊はまだこの世をさまよっているという考えによる。 行成は定子説、道長は当然実の娘の彰子説だったといわれる。同時代に生きた紫式部(藤式部)の見解も聞いてみたいものだ。 まあ、今となっては永遠に答えが出ない問題ではある。 ことぞかなしき:この結句は、側近の重臣で能吏だった行成の公的職務日誌『権記』による。道長の『御堂関白記』によれば「ことをこそ思へ」(~ことを深くしみじみと思うのだ)となっている。この場合、「思へ」は命令形ではなく、強調の係り結びの連用形。 ただ、どちらにしても歌の大意に影響はない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年10月27日 07時33分44秒
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